“おもてなしの達人”の仕事現場に密着!
おもてなし大国といわれる日本。東京にも、さまざまな工夫で人々を迎えるお仕事に専念する“おもてなしの達人”が存在しています。そんな彼らのおもてなしの真髄に触れてみたい――というわけで、レッツエンジョイ東京編集部では、さまざまな業界で活躍する“おもてなしの達人”に密着。その魅力を現場からレポートします。
ツアーガイドも務める百貨店のコンシェルジュ/日本橋髙島屋S.C.本館・岸和彦さん

▲写真提供:日本橋髙島屋S.C.
やってきたのは、東京メトロ・日本橋駅直結の「日本橋髙島屋S.C.本館」。昭和8(1933)年開店という、日本屈指の歴史を誇る老舗百貨店です。
そんな同店は、日本における百貨店コンシェルジュの草分け的な存在でもあるのだとか。ホテルコンシェルジュの国際的組織の日本支部として発足した「レ・クレドールジャパン(現・日本コンシェルジュ協会)」において、国内の百貨店として初めて法人会員として認定された経歴があるそうです。
そんな同店でレッツエンジョイ東京の編集部員を迎えてくれたのは・・・

「日本橋髙島屋へようこそお越しくださいました。短い間ですが、ぜひ当店での滞在を楽しんでいただけたらと思います」
朗らかな笑顔がすてきな、コンシェルジュの岸和彦さん。平成4(1992)年に髙島屋へ入社後、食料品セクション、NY駐在、顧客グループなどでの勤務を経て、平成31(2019)年より同店でコンシェルジュとして活躍されています。この日は、同店ならではのコンシェルジュサービスも受けられるとのこと。早速、岸さんの“おもてなしの現場”を覗いていきましょう!
一日の平均歩数は18,000歩
岸さんの一日は、開店前の朝礼から始まります。日本橋髙島屋のサービス担当は、総勢約35名。岸さんをはじめとするコンシェルジュのほか、創建当時から今も変わらず稼働する手動式エレベーターの案内係などが一堂に会し、その日の連絡事項を共有し合います。
開店の数分前になると、正面口の扉を開けて、コンシェルジュ1名がお客さまへご挨拶(この日の担当は岸さん)。本日の見どころ(開催中のフェアやイベント、注目の売場情報など)を2分ほどかけて丁寧に案内します。「一期一会を大切にし、ご来店いただいたお客さまに感謝の気持ちを込めて開店前のご挨拶をさせていただいております」と岸さん。

そして10時半、百貨店の営業スタート。コンシェルジュデスクは本館正面口のすぐ隣にありますが、岸さんがデスクに座って執務に当たっていることはほぼありません。
「正面口付近でお客さまをお迎えしています。行き交うお客さまの表情をチェックしながら、お困りのご様子のお客さまを発見したら、こちらから歩み寄ってお声がけするようにしています」(岸さん、以下同)
▲店内装飾について説明する岸さん
▲急ぎ足のお客さまにも咄嗟に応対する
まさに「頭よりも先に足が動く」という表現がピッタリの岸さん。密着中にも、お客さま応対のために定位置を離れた岸さんの姿を見失うことが何度もありました。そんな岸さんの一日の平均歩数はなんと約18,000歩に上るとか!一般男性の平均歩数は一日8,200歩程度といわれているので(平成9年度国民栄養調査)、それを遥かに凌ぐ数字に驚かされます。
毎月第2木曜開催!日本橋髙島屋 重要文化財見学ツアー

午前11時を過ぎた頃。この日は、月1回の貴重な仕事現場にも立ち会えることになりました。それが、毎月第二木曜日に開催される「日本橋髙島屋 重要文化財見学ツアー」(無料・要予約)。平成21(2009)年に百貨店建築として初めて国の重要文化財に指定された本館を、1時間ほどかけて見学するツアーです。
本ツアーのガイドは同店のコンシェルジュによる持ち回り制で、この日は岸さんの担当です。

ツアーは1階の吹き抜けホールからスタート。無数のロゼッタ(円花飾り)が施された漆喰の格天井、イタリア産の大理石がたっぷりと使われた柱・・・昭和8(1933)年の竣工当時から変わらず優美な姿を見せる建物の見どころを、岸さんが柔らかな口調で解説していきます。
▲案内係が操作する手動式エレベーターも創建時の姿を残している
▲正面口入り口脇の水飲み場跡
時には、こんなトリビアも。
「髙島屋の『髙』の文字は“はしごだか”です。これには、はしごを一つ一つ登って業界のトップを目指す、という創業者の思いが込められています。また、『髙』の文字は表から見ても裏から見ても同じ形をしています。表も裏もなし=“おもてなし”という、創業以来の理念が込められているのです」(岸さん)
なるほど、髙島屋のおもてなし精神は、創業当時から根っこに息づいていたものだったのですね。

ツアーでは、建物の外や屋上にも足を運びます。移動中には、参加客と岸さんとの間で会話に花が咲くシーンも。「親しみあふれるガイド」を目指しているという岸さんですが、参加者の間にも自然と会話が生まれるような和やかなムードでツアーは進行していきました。
▲屋上でツアー客と談笑する岸さん
▲ツアー終了後に質問に訪れる参加客もちらほら
なお、同ツアーはガイドを務めるコンシェルジュによって特色が異なるのだとか。「アートを絡めた髙島屋の歴史の説明を得意とするコンシェルジュもいれば、おもてなしに対する思いを交えてガイドするコンシェルジュもいます。そのスタイルもさまざまなので、何度か参加していただき、ガイドの違いを楽しんでいただくのも良いかもしれません」と岸さんは教えてくれました。
- 日本橋髙島屋 重要文化財見学ツアー
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開催日時
毎月第2木曜日 午前11時
所要時間:約1時間・無料(要予約) -
予約方法
開催月の前月1日(1月は初営業日)の10:30~、予約受付サイトにて
※予約サイトは日本橋髙島屋の公式サイトにてご確認ください。
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岸さんが語る、おもてなしの真髄とは?

忙しい合間を縫って岸さんにお話を伺いました。
東京の下町(荒川区)生まれの岸さん。幼少時から何度も訪れていた「日本橋髙島屋」に、特別な思いを抱いていたそう。
「母や祖母に連れられて『日本橋髙島屋』に来るたび、心が晴れるような感覚がありました。販売員の応対が良かったり、ハイカラなものが置いてあったり、お子様ランチが美味しかったり・・・学生時代に寿司屋やホテルなどでも接客のアルバイトを経験しましたが、中でも『髙島屋』には特別な思いがありました」(岸さん)

▲コンシェルジュデスクで電話応対をすることも
大学卒業後に髙島屋に入社すると、平成31(2019)年には念願のコンシェルジュに。ただ、実際にコンシェルジュになってみると失敗の連続だったそうです。
「とある外国のお客さまが、キックボードのようなものに乗って館内を移動されていることがありました。ほかのお客さまの安全のために乗車を控えてほしいとお願いしたところ、障害者の移動を支援する走行器具であったことが分かり、お客さまに大変ご不快な思いをおかけしてしまったことがありました。過去には『コンシェルジュ失格だ』と言われたこともありました」(岸さん)。

▲退店客のお見送りもコンシェルジュの大切な仕事
そうした失敗を重ねた末にたどり着いたのが、岸さんなりの“おもてなし”の極意。
「コンシェルジュとして最も大切だと思うのは、思い込みを捨てること。弊社の店是(てんぜ)に『顧客の待遇を平等にし、いやしくも貧富貴賤(ひんぷきせん)に依りて差等を附すべからず』というものがありますが、これは現代にも通じるものだと思っています。身なりや年齢、国籍にかかわらず、お客さまに対して心を開いて誠実に向き合っていくことが最も大切だと思っています」(岸さん)。
▲同僚のコンシェルジュと共に
▲髙島屋のマスコットキャラクター「ローズちゃん」も1階ホールでお出迎え
そんな岸さんが勤務する「日本橋髙島屋S.C.本館」は、毎日10時半~19時半まで営業。コンシェルジュデスクでは、大切な人への贈り物選びや周辺の街のことなど、さまざまな相談やお悩みに応えているそうです。ちなみに、岸さんが最近力を入れているのが、英語の勉強なのだとか(訪日外国人のお客さまが増えていることから)。
次の休日は、岸さんをはじめとするスタッフのおもてなしの心に触れるべく、「日本橋髙島屋S.C.本館」を訪れてみてはいかがでしょうか。

〒103-8265
東京都中央区日本橋 2-4-1
日本橋(東京都)駅
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ライター
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※本記事内の情報は2025年06月26日時点のものです。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
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