◆取材・執筆/佐藤友美

◆取材・執筆/佐藤友美

東京で唯一の演芸専門誌『東京かわら版』編集長。大概、寄席か落語会か書店か美術館にいる。著書に『ふらりと寄席に行ってみよう』など。

落語ビギナー大歓迎!伝統芸能が気軽に楽しめる娯楽スポット/新宿末広亭

落語、講談、浪曲、漫才などの演芸専門誌『東京かわら版』編集長の佐藤友美です。


「日本の伝統芸能って、むずかしそう、ハードルが高そう」なんて思っていませんか?落語や講談、色物の芸が楽しめる「寄席」に、私がはじめて足を運んだ時は、そりゃあドキドキしたものです。入り方、チケットの買い方など、何もわかりませんでした。それからだんだんはまってしまい、すっかり慣れ、そのうち一人で通うようになりました。


いつ行っても開いていて、入りたいときに入って、出たいときに出て良い。どこの寄席も繁華街にあって行きやすい・・・これはもしかして忙しい現代人には最強の娯楽ではないでしょうか。 ハードルが高いどころかむしろ、庶民的で気やすいことも魅力の一つです。


東京には、「新宿末広亭」「上野鈴本演芸場」「浅草演芸ホール」「池袋演芸場」「国立演芸場(半蔵門)」といった常設の寄席があります。コロナ禍ゆえ、飲食の制限や休席もありますが、原則として、いつでもウェルカムなのです。


今回は、都内の寄席で唯一の木造建築で、ノスタルジックな雰囲気も素敵な「新宿末広亭」を例に、寄席の楽しみ方をご紹介しましょう!

新宿三丁目に佇む、レトロな木造建築は見ごたえ十分

新宿三丁目駅から徒歩3分ほどのところにある「新宿末広亭」。末広亭の紋や名前が書かれた寄席提灯、演者の名前が書かれた看板やカラフルな幟が目印です。


「寄席へようこそ~!」と、末広亭の前でポーズをとってくださったのは、二ツ目の金原亭馬太郎さん。十一代目金原亭馬生門下で、練馬区出身の32歳。今日は、開演前に場内を案内していただきました。


「最近では、お一人でいらっしゃる女性の方も多いですよ。落語が初めて、という方も大歓迎です!」とのこと。ちなみに「二ツ目」とは、「前座」と「真打」の間に位置する、入門から5~15年くらいの若手の身分。


現在の末広亭は、昭和21年に建てられた木造建築で、レトロ建築好きにはたまらない空間となっています。新宿区の「地域文化財」に認定されているのだそう。建物や意匠の細やかな造りが隅々まで凝っていて、目を奪われます。

右手にある看板には本日の出演者が掲示されています。


向かって右側にある今席の出演者。上段左端が、「昼の部」の主任。下段左が「夜の部」の主任です。赤い字で書かれているものは「色物」と言って、落語と講談以外の、マジックや太神楽、紙切りなどの演芸を指します。


名前や提灯には、落語では独特の筆書き文字「寄席文字」が使われています。お客さんがたくさん入るようにと、隙間なく、やや右肩上がりに書かれています。

11時30分、真ん中にあるチケット売場で入場券(大人3,000円)を買います。


窓口横には本日の休演や代演の情報が張られているので、お目当ての出演者がいる人はここでチェック。事前に公式サイトで確認しておくのも手です。「昼夜入替なし」かどうかも、ここで確認がきます。


月刊演芸専門誌「東京かわら版」(600円)を提示すると、入場料が200円引になってお得です。ほかの寄席もまわれば元が取れちゃいます。

チケットを切ってもらって木戸をくぐり、いざ場内へ。

全席自由席!好きな席に座れます

入るとまず目に入る光景が、こちら。扉一枚隔てて、外の新宿の喧噪とは異空間が広がります。


すぐに席を案内してくれる係員が来てくれるので、座りたい席の希望を伝えましょう。真ん中の「椅子席」はシネコンの椅子並の快適さで、ドリンクホルダーや荷物掛け、傘立ても付いています。

  • ▲上手(向かって右側)の桟敷席からの眺め

  • ▲フタがテーブルにもなる桟敷席の下足箱

さらに非日常感を体験してみたいという方は、思い切って両脇にある畳敷の「桟敷席(さじきせき)」へ。靴を脱いで上がり、手渡された座布団を敷いて鑑賞してみましょう。靴は桟敷席専用の下足箱へしまいます。


上手(かみて)側(向かって右側)に座れば、「床の間」が見えて落語家をお座敷で聴いているような優雅な気分になりますよ。下手(しもて)側に座れば、上手から登場する出演者の出番直前の表情が見られるかも(!?)。

開演したら寄席ワールドに浸ろう!

▲金原亭馬太郎さん。開演前に撮影

▲金原亭馬太郎さん。開演前に撮影

12時に「昼の部」がはじまります。


開場と同時に「ドンドンドントコイ・・・」と一番太鼓が鳴ります。開演前に打たれる二番太鼓の後、開口一番(前座)が一席やり、次に登場したのは、二ツ目の金原亭馬太郎さん。『手紙無筆』という落語で、客席を沸かせます。


後ろにかかっている額の文字は「和気満堂」。“和やかな気が満つる堂”の意訳で、実に良い言葉だと思います。


演者が口演する舞台を「高座(こうざ)」と呼びます。前方の席に座ると演者との距離も近く、迫力満点。逆に後方の席に座ると、全体が俯瞰できる楽しみがあります。

末広亭は、高座脇の小窓に名前の書かれた板をはめ込む「見出し」を使用。前座が演者の交代に合わせて付け替えていきます。

入場時に渡されるパンフレットには、今席の番組や、演芸界のニュースなどが載っています。途中から入ったときでもこれを見れば、どこまで番組が進んでいるのかを確認できますよ。


今回伺ったのは、4月21日から始まった4月下席。「寄席」は、ひと月を3つ(上席・中席・下席)に分けて興行を組むので、10日ごとに出演者が変わります。


昼の部と夜の部それぞれ総勢17名(組)前後が出演。次から次へと約15分おきに出てきます。最後に登場する主任(トリ)の落語家は30分前後、たっぷり聞くことができます。トリの演者の一門などつながりのある演者が出ることが多いです。


落語の合間に出る色物と呼ばれる演者は、紙切り、漫才、奇術、太神楽、曲独楽、漫談など多種多様。落語という話芸だけでなく、「色物」が楽しめるのも寄席の魅力。落語の数席おきにラインナップされています。

落語ビギナーにオススメの楽しみ方3つ

ここで、初めて寄席に来て落語を聞く方に向けて、オススメの楽しみ方をご紹介しましょう。


1.寄席の雰囲気を楽しむ

座席に身を沈ませて15分ごとに出てくる演者を見ながら、寄席の流れに浸ってみましょう。前のめりに見るのも良いけれど、長時間いるのなら、ぼんやりと楽しむのも寄席での過ごし方の一つ。気になる演者がいたら、『東京かわら版』でチェックして次は独演会や勉強会に足を運んでみては。


2.演者の表情やしぐさに注目!

一人ひとり違う出囃子、華やかな着物や渋めの着物の落語家、早口な人、ゆっくりな口調の人、いろんな演者が出てきます。落語家は体一つで、扇子と手ぬぐいだけで全てのものを表現します。視線の交わし方一つで落語の世界の空気を表出させるベテランや初々しい若手も。おじいさんの演者が色っぽい人妻に豹変します。


3.何度か足を運んでみよう

何度か足を運び同じ演者を見れば、また新たな発見があるかもしれません。同じ古典落語を違う演者がやれば、前に見た時よりも、はるかに面白かったりそうでもなかったり。通うごとに、いろいろなことが急速にわかってきて、初回とは違う面白さの扉が開くはずです。


好きな時に入って、帰りたい時に帰って良いのですが、高座の終わりを待って、次の演者が出てくる間に素早く動きましょう。あとは、好きなように過ごして。

「紙切り」など、落語以外の楽しみも

一階席が満席になると、二階席が開きます。機会があれば、二階席に座るのも良いでしょう。高座を見下ろすような感じで落語を聞くことはもちろん、欄干などの木造建築も堪能できます。

2階席の左手には、末広亭開場十周年を記念して贈られたという貴重な額が飾ってあります。古今亭志ん生、桂文楽(八代目)など、綺羅星のごとく並んだ昭和の名人たちの名前が。

▲落語家、色物芸人たちを「紙切り」でデザインした「東京かわら版」の手ぬぐい

▲落語家、色物芸人たちを「紙切り」でデザインした「東京かわら版」の手ぬぐい

観客参加型で盛り上がるのが、お客さんからのお題に沿ってハサミで紙を切る即興芸「紙切り」です。「お中入り」(小休憩)の落語前にご登場した「紙切り」の林家正楽師匠の高座は、手ならしに1~2つ切って見せてから、客席から注文を取るというスタイル。完成した紙切りは、お題を出した観客がもらえます。


「相合傘」「駆ける馬」などの定番もの、「花見」「クリスマス」などの季節もの、時事ネタから、話題の人物、自分の顔まで、限られた時間内でどんなお題にも応えて切って見せるのが腕の見せ所です。

▲アマビエ

▲アマビエ

「ご注文は?」の発声があるやいなや、「五月人形」(季節もの)など、各所から声があがります。私も時節柄、疫病退散をもたらすといわれる妖怪「アマビエ!」と叫んで、見事切っていただきました。


紙切りがほしい人は、なるべく最初の注文で、大きな声ではっきりと注文すると受けてもらえる率が高まります。そしてすぐにもらいにいけるよう、前の方の席や通路側の席に座っても良いですね。


「お中入り」(小休憩)をはさんで、落語、漫才、落語(2席)、曲独楽と続き、最後に今席の主任(トリ)の初音家左橋師匠が登場。「八五郎出世」という、おめでたい噺を口演。昼の部はこれにて終了です。

お土産コーナーもチェック

売店では、ソフトドリンク、お菓子、「東京かわら版」や落語関連の書籍、末広亭の手ぬぐい、文具のグッズなどが所狭しと売られています。 「お中入り」という小休憩にのぞいてみてはいかがでしょう。

中でもオススメは、末広亭クリアファイル(2枚組500円)。 昭和30年頃の末広亭の写真が使用されています。現在の建物と見比べてみるものも良いかもしれません。


また、「末広友の会」の会員も随時募集中とのこと。一万円で入場券が年間4枚贈られる他、2年目からは5枚になり、グッズも進呈されるという、かなりお得な会員制度なのだそう。会員証を見せると同伴者(2人まで)とともに入場料が500円引きになるといった特典も。

  • ▲ビフテキ家あづまの「もち豚のじゅうじゅう焼き」(1,200円)

  • ▲桂花ラーメンの「太肉麺(ターローメン)」(1,000円)

16時15分の「昼の部」の終演後、そのまま通しで16時30分からの「夜の部」を見ることも。つまり12時の開演から20時30分の終演まで、一日中寄席で過ごすことができるのです。ただし、途中外出ができないのでご注意を。(特別興行の時など、「入替え」がある場合もあります)。


現在は館内での食事が禁じられているので、寄席に入る前か後にお隣地下1階の「ビフテキ家あづま」や、近くにある「桂花ラーメン」末広店などで食事をするのも良いですよ。高座を下りた後の芸人さんがいるかも(!?)。



まとめ

今回は、4月下席に伺いましたが、毎年3月下旬~5月頃に開催される「真打昇進披露興行」や、1月の正月興行など大勢が出演する華やかな特別興行も見ごたえがあります。ちょっと時間が空いて、気分を和ませたいと思ったら、お近くの寄席に足を運んでみてはいかがでしょうか。

新宿末広亭
  • 所在地

    東京都新宿区新宿 3-6-12

  • 最寄駅

    新宿三丁目

  • 電話番号

    03-3351-2974

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※本記事は2023年05月22日時点の情報です。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
※本記事は2021年05月23日に公開した内容を一部加筆・修正した上で、2023年05月22日に再公開しております。
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