一番落ちつく地元に呼んでデート

♥私は神楽坂・飯田橋界隈に住んでいます。これは妄想ではなく事実です。住み始めてから早11年。生まれ育った場所ではないけれど、これだけ住んでいれば「地元」と言ってもいいでしょう。

突き詰めると、私は一番デートをしたいのはここだ。

9年前、私はOLでした。最初に入った会社をすぐ辞め、転職を繰り返し、バイトで食いつないだりしていたため、社会人になってからの数年間は何かしらの経験を積んだ自覚はなかった。初めてきちんと「会社員として働いてるなあ」と自覚したのが9年前です。

♥さてそんなところに、新入社員が入ってきた。……あ、ここからは妄想です!

彼は地方の大学を出て、就職とともに上京してきたタイプ。東京にはとても疎く、とりあえず家賃の安いところを狙い、やたら会社から遠いところに仮住まいのような形で部屋を借りてしまった。「もっと近いところに住めばいいのに」「でも都心って家賃高くないですか?」「意外と穴場の物件あるよ?」--こんな会話から、私がウチの界隈をガイドすることになったのだ。

展開が急ですって? 野暮なことは言っちゃダメよ。
今でこそ神楽坂はオシャレスポットとして認知度が高まったけれど、当時の神楽坂界隈にそんなイメージはあまりなく、かつて花街だったことを知るおじさまがたが静かに飲む街という雰囲気でした。

♥そんなこの街を散策するときのルートは、長年の散歩によってほぼ決まっている。東西線神楽坂駅の2番出口から朧坂をくだって、メイン通りの一つ北隣りの裏道をひたすら東に行く。亀井堂のクリームパンを買い、鬱蒼(うっそう)と木の茂る赤城神社(今は建て替えられて見る影もなく……)を眺め、古い木造の指圧院の前から狭い階段を下りて第三玉の湯の脇の道から大久保通りへ。

大久保通りを渡り、時間があれば「カフェ麦丸2」に入り、階段の続く裏路地を通って“ホン書き旅館”こと「和可菜」の前を通ったり、かくれんぼ横丁に入って黒塀を眺めたり、ひたすら自転車も通れないような路地ばかり巡って飯田橋に達する。

「東京にもこういうところあるんすねえ、上品な下町ですよね」と気に入った様子の後輩におすすめの不動産屋を紹介して、彼と私の家は近所になり……そこから何かが始まる、はず! ごく近所での妄想。いちばんリアリティーが高いから今でも可能性は絶たれてない、はず!



文・イラスト:能町 みね子さん


能町 みね子さん
能町 みね子さん

能町 みね子さん

文筆業兼イラストレーター。「オカマだけどOLやってます。」でデビューし、近刊に「『能町みね子のときめきデートスポット』、略して 能スポ」(講談社文庫)「ときめかない日記」(幻冬舎文庫)など。「久保みねヒャダ こじらせナイト」にも出演中。
https://twitter.com/nmcmnc

※この記事は、レッツエンジョイ東京のフリーペーパー「東京トレンドランキング」2013年3月号(2/25発行)に掲載されたものです。
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