喫茶ライターがナビゲート!“どの一角を切り取っても美しい”カフェ/annorum cafe

喫茶ライターの川口葉子です。本記事でご紹介するのは2023年6月に浅草の観音裏にオープンした「annorum cafe(アンノルム カフェ)」。昭和24(1949)年築の古民家の2階に、無銘の古いものたちが窓からの光を受けて静かに息づいています。

この空間のためにブレンドされたコーヒーと、人気ベーカリー監修のおいしい焼き菓子。どの一角を切り取っても美しい空間。ここでは店主の田中貴之さんが集めた魅力的なものたちに触れながら、アンノルムならではの世界観に包まれて喫茶時間を過ごすことができます。
5年前、1階でアンティーク家具と衣食住の雑貨を扱う「annorum」をスタートした田中さん。2階にカフェを開いた理由や、アンティークに惹かれる理由をお伺いしました。

階段を上った先でまず迎えてくれるのは、イギリス製の大きなテーブルと、ベルギーやフランスで使われていた椅子。すべて購入可能です。
ここに並んでいるアンティークは、約50~100年前に名もない職人たちの手で作られた家具ばかり。デザインが主張しすぎないものを選び、田中さん自身の手で表面のワックス塗装を剥がしてナチュラルな木の色に仕上げています。その剥離作業のおかげで、店内のすべての家具が陽射しに溶け込むようなやわらかな色調に統一されているのです。

「デザイナーの名が刻印された家具よりも、一般家庭の暮らしの中にあった、名もない職人が作った家具が好きなんです」と田中さんは語ります。「派手な味、濃い味つけの料理が日常的に食べ続けられないのと似たような感覚かもしれません」。
もともと無銘だった家具から、さらに自己主張を消し去る。この二重のフィルターによって、アンノルムならではのやさしい表情がもたらされるのですね。

そんな田中さんのセンスに魅了されて遠方からも訪れるお客さまに、ひと休みできる場所を――と意図して開いたのがこのカフェでした。ここはアンノルムの家具や雑貨のあるライフスタイルを体感できる場所。また、ショップの扉を開けるのは気遅れしてしまうという人も、カフェなら気軽に入れますね。
おすすめのメニューのひとつは、蔵前の自家焙煎珈琲店「蕪木」が手がける「蕪木ブレンド」(650円)と、アンノルムのすぐ近くに位置する自家製酵母パンの人気店「粉花」が監修した「ファーブルトン」(600円)の組み合わせ。カップ&ソーサーは益子で活動する作陶家・生形由香さんの作品です。
「蕪木さんと粉花さんは、もともと僕自身が大好きで通っていたお店です。アンノルムに来ていただいて『この空間に合うブレンド、この空間に合うお菓子をつくってもらえませんか?』とお願いしました」
粉花の飾り気のない丸パンの「なぜこんなに自然ないい香りが・・・」と、食べるたびに感嘆してしまう味わいは、なるほどアンノルムの世界感に通じる要素があるのかもしれません。ファーブルトンにはまだなじみのないお客さまも多いそうで、そのたびにスタッフが「カヌレのようなもちもちした食感と、プリンのような風味のフランス菓子です」と、親切に説明しています。お客さまとの間に会話が生まれて楽しい、と田中さん。

アンノルムとは「長い年月」を意味するラテン語です。田中さんがアンティークに惹かれたきっかけは、持ち主と一緒に長い時間を重ねてきたものに対して「愛着」という感情が生まれること、そしてそんな心の豊かさへの気づきでした。
「過去に誰かが大切に使ってきたものを自分が引き継ぐとき、過去と未来の時間が交差するような感覚があります」
ここに並ぶ古いものたちは、購入した人のもとに行ってからもまた長い時間を過ごし、記憶を蓄積していくのです。カフェを訪れたら、ぜひ1階のショップものぞいてみてください。もしかしたら小さな出会いが待っているかもしれません。

〒111-0032
東京都台東区浅草 4-7-11
浅草駅
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東京都台東区浅草 4-7-11
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ライター
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※本記事内の情報は2023年10月07日時点のものです。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
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