一人遊びを楽しむ基本は「自分がそこへ猛烈に行きたいかどうか」。行きたいという欲求がほとばしるあまり、人を誘うことなくホイホイ一人で出かけていってしまう、それがソロ活である。今回は、ソロ活の基本に立ち返ってみることにしたのだ。

▲キッザニアの入口は空港のゲート風。キッザニアは「子どもたちの国」という概念なのだ

▲キッザニアの入口は空港のゲート風。キッザニアは「子どもたちの国」という概念なのだ

子どものための職業体験テーマパークである「キッザニア」が東京にできたのは13年前。そのときすでに対象年齢(3歳~15歳)を超えていた私は、自分の生まれ年を呪い、打ちひしがれた。


通常、大人がキッザニアに入るには、3歳~15歳の子どもの親として入場するしかない。ところが私には子どももいなければ、つくる予定どころか、そもそもほしいとも思っていない。生まれてくる時代が悪かったばかりに、私は一生キッザニアに入れない運命なのか!ジーザス!しかも、子どもの親として入場したところで、職業を体験して遊ぶのはあくまでも子ども。自分が遊べるわけではない。むしろ近くで楽しそうなアクティビティを見せつけられて生殺しかもしれない。


さる2019年1月に、一日限定で「大人のキッザニア」というイベントが開催された。憧れに憧れたキッザニアで遊べる。「キッザニア東京」のある豊洲まで、ウキウキと赴いた。


入場したら、まずは体験したい職業を決めて予約をしに行くことになる。閉園時間までの間に行えるのはだいたい6職ほど(混雑具合や予約のタイミングにもよる)。仕事内容やユニフォームなど、憧れたことのある職業を中心にチョイスした。


まず最初に行ったのは外科医の体験。ドラマなどで手術中に手を出して「メス」と言うやつ。あれは声に出して言ってみたい日本語のひとつではないだろうか。一度でいいから「メス」と言ってみたい、との思いを胸に、手術着に着替えた。ところが、キッザニアでの手術体験では、すでに「メス」のターンが済んだ状態から始まるのだった。無念。

患者の腹部が開いた状態から、実際の手術で使われている器具で腫瘍を取り除いていく。長いピンセットのような形の器具で、腫瘍をつまんで外に出す。思っていたよりも原始的な作業で取り除いていることに驚いたのだった。手術といえば、もっとウィーンウィーンという感じの高性能マシンでキュイキュイキュイッとするものだと思っていた。もっとも、実際の病院ではすべての手術にこのピンセット的な器具を使うわけではなく、高性能マシンを使う場合もあるらしい。

▲患者の体は簡易的な模型なのでグロくはない

▲患者の体は簡易的な模型なのでグロくはない

ちなみにこの外科医体験では、「先生方こちらへどうぞ」と呼ばれて手術室に入る。外科医の先生になりきった気分になれる細かな演出が粋だ。


手術が終わると、休む間もなく次の職業へ。消防士になるべく、消防署へと向かった。消防士は本格的なユニフォームを着られるだけでなく、実際にキッザニアの街中で火事になっている建物に向けて放水をする。普段のキッザニアでもかなり人気の高い職業らしい。

まずは消防士としての訓練を行い、その訓練中に火災発生の報せが入り、現場に向かうというシナリオだった。

▲消防士としての訓練中

▲消防士としての訓練中

▲火災発生!急いでユニフォームに着替える

▲火災発生!急いでユニフォームに着替える

▲憧れの消防車に乗る

▲憧れの消防車に乗る

▲街の中を小さな消防車が走る

▲街の中を小さな消防車が走る

赤く燃えている建物に向けて、水をかけていく。大量に放水しているはずが、なかなか消えずに別の場所にどんどん燃え移るさまがリアルだった。

▲腰が引けている

▲腰が引けている

▲水がたくさん出て楽しい

▲水がたくさん出て楽しい

街中が暗いのは、キッザニアが「夕方~夜の街」だからだ。普段、子どもたちは夜に一人で出歩けないが、キッザニアの中なら夜でも自由に外を歩ける、という夢の詰まった空間なのだ。

▲消防士の仕事のお給料をもらった

▲消防士の仕事のお給料をもらった

ちなみにキッザニアでは、働くとお給料がもらえる。ここで流通しているのは「キッゾ」という単位の通貨。子どもたちはキッザニアに通い、働いたお金を貯めて、百貨店で買い物をすることができるわけだ。けれど、今日一日しか入れない大人はコツコツ貯めることもできず、今日の分の稼ぎだけでは百貨店では何も買えそうにない。

▲高すぎて買えない(※大人のキッザニアのイベント限定で、安価な商品を売る特設エリアもあった)

▲高すぎて買えない(※大人のキッザニアのイベント限定で、安価な商品を売る特設エリアもあった)

子どもたちはお金を貯めて買い物できるとはいえ、一回お仕事をすると稼げるのは3キッゾ~8キッゾだ(仕事による)。それに対し、百貨店には1万キッゾもするような商品が……。物価が高すぎる。働けど働けど、お金が足りないのもまたリアリティーがある。子どもたちだけの夜の街「キッザニア」は、夢を与えると同時に、現実を突きつける場でもあるのだった。


次はピザ屋でピザを作りに行くのだが、少し時間が空いたため、キッザニア内を見て回った。出版社ではマンガ家たちが締切に向けて作業をし、乳製品の会社の前にはパティシエ志望の大きなお友達が並ぶ。

「大人のキッザニア」で職業体験。仕事の理想と現実に思いを馳せてみた_72110
「大人のキッザニア」で職業体験。仕事の理想と現実に思いを馳せてみた_72111

証券会社まで存在した。ここではキッザニア内で聞き込みをし、そのときのトレンド(アクティビティの混雑具合など)をもとに、投資に関するアドバイスをするらしい。もう一度おさらいすると、キッザニアの対象年齢は3歳~15歳。たとえ15歳であっても投資の仕組みなんてさっぱりわからないのではないだろうか。何しろ、30歳を超えている私もよくわかっていない。3歳児も来ることを思うと、このリアリティーへの執着には脱帽する。

▲まさかの証券会社

▲まさかの証券会社

▲建物の二階から見た街並み

▲建物の二階から見た街並み

さて、仕事の開始時間になったのでピザ屋へ向かった。ここでは同じ時間枠での参加者5人のうち、2組のカップルと私、という組み合わせになってしまった。ダブルデートをしにキッザニアに来たようだった。

「大人のキッザニア」で職業体験。仕事の理想と現実に思いを馳せてみた_72114

この日、ほとんどカップルは見かけず、女性同士で遊びに来ているか、一人で来ているか、というケースが多かったのだが、ここに来てまさかの構図。キャッキャウフフとピザを作るカップルの横で、偶然なんとも言えない表情の写真が撮れてしまったが、他意はない。

▲ピザ作り、楽しいです

▲ピザ作り、楽しいです

「大人のキッザニア」で職業体験。仕事の理想と現実に思いを馳せてみた_72116

作ったピザは持ち帰りせず、キッザニア内で食べて帰ることを推奨されている(腐敗等の事故防止のため)。見覚えのあるピザケースに入れてもらったピザを開け、さっそくいただいた。説明されたよりも、私はこっそり多めにマヨネーズを入れていたため、自分好みのこってりピザに仕上がっていて満足だ。

▲うまい

▲うまい

ピザを食べていたら、今度は後ろで模擬結婚式が始まった。なんなんだ。ピザの近くにはカップルが寄り付きやすいのだろうか……。

どうやらこの結婚式は、ウエディング会社の仕事として、新郎役の仕事と新婦役の仕事を行う、という扱いだそうだ。 模擬結婚式は一日に一度しか行われないため、遭遇したのはかなりの偶然。


次はヤマト運輸の配達員に転職した。キッザニアに来てからすでに三回目の転職だ。転職理由は運送トラックに乗ってみたかったから。現実の世界ではまかり通らない転職理由でも、キッザニアの世界ならば許される。

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「大人のキッザニア」で職業体験。仕事の理想と現実に思いを馳せてみた_72119

仕事内容はキッザニア内にある店の依頼主から荷物を受け取り、指定された場所へ届けるというもの。運ぶ荷物は重くないし、届ける先も不在ではないし、再配達に奔走しなくてもいい。楽しい部分しか見えないのはテーマパークの良さでもあり、リアリティーの限界でもある。配達をしながら、実際の配送業の悲喜こもごもに思いを馳せたのだった。

▲トラックがかわいい

▲トラックがかわいい

キッザニア内で休みなく働き続ける社畜こと私は、ヤマト運輸を後にし、裁判所へ向かった。ここでは裁判長や弁護士、証人、被害者、犯人などの役を割り振られ、模擬裁判を行う。司法試験に合格せずとも裁判長や弁護士になれるなんて、夢のような世界である。

▲憧れの裁判長席に座る

▲憧れの裁判長席に座る

▲手元に配られる台本に従って裁判長役を行う

▲手元に配られる台本に従って裁判長役を行う

台本に従って、裁判を再現したちょっとした演劇のようなものを行い、後半の時間では実際に犯人が有罪か無罪かを全員で議論する。ディベートのようで大変楽しめたが、普段、子どもたちはこんなに難しいことをしているのか……とまたしても脱帽したのだった。

▲議論するの、楽しい

▲議論するの、楽しい

最後に体験するのは新聞記者。そろそろキッザニアを出る時間が近づいている。現実に戻るためにも、最後はいつもの自分と近い仕事をしておきたい。

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ここではキッザニア内の指定された場所を取材して、それをもとにニュース記事を書くことになる。これがなかなかどうしてハードで、何が大変って、取材のリアルも、執筆作業のリアルも知っているだけに、現実との差という野暮なことをいちいち考えすぎてしまうのだ。きっと、私がこれまでに体験した職業にも、そういう部分があるということだろう。普段と近い仕事もやっておくことで、ほかの馴染みの薄い仕事に対して、体験したこと以上のものに想像を広げることができたのは収穫であった。

▲取材後、記事を作成すべくみんなで並んでパソコンに向かう

▲取材後、記事を作成すべくみんなで並んでパソコンに向かう

▲完成した新聞

▲完成した新聞

ソロ活をしているときの特徴のひとつに、想像したり、考えたりする時間がたっぷりと取れるというのがある。友達など同行者とお喋りをする時間が一切ない分、自分の行動ひとつひとつに対して、じっくり考えることができるのだ。誰かと来ても、当然キッザニアで過ごす時間は楽しいものになっただろう。ただ、一人で来たことで、仕事内容に思いを馳せ、単に楽しいだけでない、それ以上のものを得られたのではないかと思うのだった。

一人キッザニアを楽しむ三か条

その1 行きたくてたまらない場所へ行くのがソロ活の醍醐味

その2 「大人のキッザニア」は一人客も多い

その3 普段と近い職業を体験するのもまた発見がある

キッザニア東京
  • 所在地

    東京都江東区豊洲 2-4-9 アーバンドック ららぽーと豊洲1 ノースポート3F

  • 最寄駅

    豊洲

  • 電話番号

    0570-06-4646

★「大人のキッザニア」とは

大人がキッザニアで遊べる一日限りのイベント。次回開催は未定。

※2019年2月28日時点の情報です。内容など、情報は変更となる場合がございます。

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※本記事内の情報は2019年02月28日時点のものです。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
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