【第8回・“マグリット展”編】美術教科書でおなじみの作品が目白押し

▲ウェーブした外観でおなじみの国立新美術館。春が来たのでミニくまちゃんはダウンベストを脱ぎました

▲ウェーブした外観でおなじみの国立新美術館。春が来たのでミニくまちゃんはダウンベストを脱ぎました

こんにちは。美術の教科書に載っていたアーティストの中ではマグリットが一番好きだったミニくまちゃんです。てゆーか、みんなもマグリットお好きでしょう?


海の上に浮かぶ奇岩城《ピレネーの城》をはじめ、翼を広げたワシみたいな山容に抱かれる玉子《アルンハイムの地所》、大きな木の葉のようなかたちをした大木《絶対の探求》などなど、美しい具象画なのにだまし絵的な面白さに満ちたシュルレアリスム作品の数々に、ぼくらの妄想力はびんびんに刺激されたのです。

(c)Charly Herscovici/ADAGP, Paris, 2015
▲エドガー・アラン・ポーの短編から着想を得た《アルンハイムの地所》。

(c)Charly Herscovici/ADAGP, Paris, 2015
▲エドガー・アラン・ポーの短編から着想を得た《アルンハイムの地所》。

……と考えれば、マグリットはアートに興味を持つきっかけを作ってくれた、いわば美術の先生と言えるかもしれません。実際、先生の作品が現代アートやサブカルチャーに与えた影響は計り知れませんからね。


そんな先生の大規模回顧展が、ベルギー王立美術館とマグリット美術館の全面協力のもと13年ぶりに日本で開催されるとか。しかも展示規模は過去最大。これはぜひ、教科書の作品をこの目で観てみたい!と、わくわくしながら国立新美術館へと向かったのでした。

世界中から約130点のマグリット作品が集結

(c)Charly Herscovici/ADAGP, Paris, 2015
▲最初期のシュルレアリスム作品《困難な航海》。以降の作品にたびたびモチーフとして登場するビルボケ(西洋けん玉)が早くも登場しています

(c)Charly Herscovici/ADAGP, Paris, 2015
▲最初期のシュルレアリスム作品《困難な航海》。以降の作品にたびたびモチーフとして登場するビルボケ(西洋けん玉)が早くも登場しています

展示はマグリットの一生を振り返るような構成で、シュルレアリズム以前のポスターや広告のデザインワークをまとめた初期作品(1章)から、シュルレアリスムへの傾倒(2章『シュルレアリスム』)と完成(3章『最初の達成』)、そこから第2次世界大戦による変節(4章『戦争と戦後』)を経て再びシュルレアリスムへ回帰し円熟を極めるさま(5章『回帰』)、約130点の作品や資料で追うことができます。


教科書から入ったぼくのような「にわか」が心躍るのはやっぱり、2章以降。マグリットがシュルレアリスム作品を描き始めた1926年頃の時点で、以降の作品に何度も描かれる「切り紙」「馬の鈴」「ビルボケ(西洋けん玉)」などのモチーフがすでに登場していることがうかがえます。


残念ながら写真掲載NGの作品が多数あるので、文章でしか説明できないのですが、この2章だけでも白い布で顔を覆われたカップルが口づけする《恋人たち》や、マグリットのモチーフ大集合の《告知》などの有名作品を観ることができます。

難解なタイトルの答えをあれこれ考えるのがソロ活流

(c)Charly Herscovici/ADAGP, Paris, 2015
▲窓からの風景に重ね合ったように「見える絵」を描いたワシントン・ナショナルギャラリー所蔵《人間の条件》。「人は自分が見たい景色を見ているだけなのかもね」的なことがテーマだと思われます

(c)Charly Herscovici/ADAGP, Paris, 2015
▲窓からの風景に重ね合ったように「見える絵」を描いたワシントン・ナショナルギャラリー所蔵《人間の条件》。「人は自分が見たい景色を見ているだけなのかもね」的なことがテーマだと思われます

しかし2章だけでびびっていてはいけません。続く3章以降も楽しくて難解なシュルレアリスム作品がいっぱいです。


難解?


そう、絵画じたい作家本人をして「思考を見える化した(意訳)」というように変てこなものが多いのですが、それを理解する手助けとなるはずのタイトルがさらに難解で、まるでとんちクイズのようなのです。


例えば、マグリットにしては珍しく何の変哲もない単なる空を描いた絵画のタイトルが《呪い》です。謎でしょう?


まるでマグリットから出題されたなぞなぞのような、絵画とタイトルの組み合わせの数々。それを一人であーでもないこーでもないと思考を巡らせるのが、ソロ活流マグリット展の楽しみ方と言えるかもしれません。

(c)Charly Herscovici/ADAGP, Paris, 2015
▲ヒラリー&ウィルバー・ロス蔵の自画像《透視》。卵を見ながら鳥を描く姿は、まさにマグリットの創作法を表していますね。ミニくまちゃんは「どこに鳥さんがいるのー?」とボケることで作品の一部になってみました

(c)Charly Herscovici/ADAGP, Paris, 2015
▲ヒラリー&ウィルバー・ロス蔵の自画像《透視》。卵を見ながら鳥を描く姿は、まさにマグリットの創作法を表していますね。ミニくまちゃんは「どこに鳥さんがいるのー?」とボケることで作品の一部になってみました

(c)Charly Herscovici/ADAGP, Paris, 2015
▲男子中学生の認知プロセスを見事に描ききった《陵辱》(メニル・コレクション蔵)。ちなみにデジカメの顔認識システムは作動しませんでした。人間の方がすごい!

(c)Charly Herscovici/ADAGP, Paris, 2015
▲男子中学生の認知プロセスを見事に描ききった《陵辱》(メニル・コレクション蔵)。ちなみにデジカメの顔認識システムは作動しませんでした。人間の方がすごい!

やがて展示は第2次世界大戦時代の作品を集めた4章へ。多くのシュルレアリスム作家がアメリカへ亡命するなか、マグリットはナチスに占領された祖国ベルギーにとどまり創作活動を続けたそうです。


そんななかでタッチが印象派風へと劇的に変化するのですが、個人的にはそんな時代にあっても描き続けたマグリット独自の不条理な写実絵画に惹かれます。

(c)Charly Herscovici/ADAGP, Paris, 2015
▲こちらは《絶対の探求》にも似た構図の《空気の平原》。葉っぱの葉脈を木の枝ぶりになぞらえる。図形の全体と部分が自己相似をなすフラクタル理論を先取りしてますね

(c)Charly Herscovici/ADAGP, Paris, 2015
▲こちらは《絶対の探求》にも似た構図の《空気の平原》。葉っぱの葉脈を木の枝ぶりになぞらえる。図形の全体と部分が自己相似をなすフラクタル理論を先取りしてますね

(c)Charly Herscovici/ADAGP, Paris, 2015
▲お子様には刺激的なムフフコーナーも。終戦の年に描かれた《夢》では、壁に映った影にもヌードが描かれています。ミニくまちゃんは見ちゃらめー!

(c)Charly Herscovici/ADAGP, Paris, 2015
▲お子様には刺激的なムフフコーナーも。終戦の年に描かれた《夢》では、壁に映った影にもヌードが描かれています。ミニくまちゃんは見ちゃらめー!

▲4章の途中に挟まれる写真コーナー。写真でもシュルレアリスムを追求する遊び心がうかがえます。マグリットがPhotoshopを手にしたらどんな作品を作るんでしょうかね。

▲4章の途中に挟まれる写真コーナー。写真でもシュルレアリスムを追求する遊び心がうかがえます。マグリットがPhotoshopを手にしたらどんな作品を作るんでしょうかね。

難解ななぞなぞは続くわけですが、いよいよ戦争も終わり再び自身の表現に立ち返った円熟の時代5章へと向かいます。この5章は教科書だけでなく、どこかで目にしたことがある作品だらけで、本当に見どころいっぱい。なんせ全体の3分1くらいを占めていますからね。


ここまでで体力を消耗しすぎないよう、前半から考え込まないのが得策ですよ。今さらですけどね。


今さらついでに申し上げておきますと、マグリット作品の中には、絵を見た仲間にタイトルをつけてもらったものもあるんだそうです。


ええー、それって適当ってことじゃないっすか!


真面目に絵画とタイトルの関係を考えて損した気分でいっぱいですが、「中にはそういう作品もある」というだけで、別の作品では絵画の裏面にいくつものタイトル候補を考えては消した推敲の後も見られるようですから、全部が全部適当ってわけではないようです。それでも「後付けなの?」ってツッコミたくもなりますが……。

(c)Charly Herscovici/ADAGP, Paris, 2015
▲自動車の上で疾走する馬を描いた《神々の怒り》。このモダンなデザインをあしらったオリジナルTシャツが大好評で早くも売り切れちゃったのだそうです

(c)Charly Herscovici/ADAGP, Paris, 2015
▲自動車の上で疾走する馬を描いた《神々の怒り》。このモダンなデザインをあしらったオリジナルTシャツが大好評で早くも売り切れちゃったのだそうです

(c)Charly Herscovici/ADAGP, Paris, 2015
▲展覧会カタログやパンフレットの表紙にも使われている《ゴルゴンダ》(メニル・コレクション蔵)。雨のように紳士が空から降っていますね。テトリスみたいな落ちゲーにもできそうですね

(c)Charly Herscovici/ADAGP, Paris, 2015
▲展覧会カタログやパンフレットの表紙にも使われている《ゴルゴンダ》(メニル・コレクション蔵)。雨のように紳士が空から降っていますね。テトリスみたいな落ちゲーにもできそうですね

(c)Charly Herscovici/ADAGP, Paris, 2015
▲5章はお馴染みの岩をもちいた作品も増えます。部屋いっぱいの岩を描いた《記念日》(オンタリオ美術館蔵)。どうやって搬入したのか引っ越し屋さんの苦労をしのんでしまうぼくは凡人です

(c)Charly Herscovici/ADAGP, Paris, 2015
▲5章はお馴染みの岩をもちいた作品も増えます。部屋いっぱいの岩を描いた《記念日》(オンタリオ美術館蔵)。どうやって搬入したのか引っ越し屋さんの苦労をしのんでしまうぼくは凡人です

(c)Charly Herscovici/ADAGP, Paris, 2015
▲羽ばたく鳥もおなじみのモチーフ(写真は宇都宮美術館蔵《大家族》)。暗雲たれ込める空に、鳥のシルエットをした青空が覗きます。同じモチーフで描かれた《空の鳥》は航空会社のシンボルマークとして実際に空を飛んでいたそうです

(c)Charly Herscovici/ADAGP, Paris, 2015
▲羽ばたく鳥もおなじみのモチーフ(写真は宇都宮美術館蔵《大家族》)。暗雲たれ込める空に、鳥のシルエットをした青空が覗きます。同じモチーフで描かれた《空の鳥》は航空会社のシンボルマークとして実際に空を飛んでいたそうです

アート初心者の美術館デビューにもぴったり

前述したように掲載NGの有名作品もたくさんあるので、ごく一部の紹介となってしまいましたが、ともかく世界中のマグリット作品が一堂に会したボリューム満点の展示でございました。


ただ、ただですね。


一番観たかったと言っても過言ではない作品《ピレネーの城》(海に浮かぶ奇岩城)がですね、諸事情で5月13日から公開のため、観られなかったんですよ。


「あれ、なんか忘れてる」と思ったんですが、目録で気づきました。これはまた観に行かなくてはいけないようですね。


ともあれ、子どもから大人まで誰でも楽しめること間違いなしのマグリット展。普段は美術館に行かないという方でも、デビューにはぴったりの展覧会と言えるかもしれません。

▲特設ストアも要チェック。特に絵はがき、缶バッジ、ポスター、Tシャツが人気だとか。マグリットってポップアートの走りとも言えますね。ミニくまちゃんは本場ベルギービールコーナーにご執心

▲特設ストアも要チェック。特に絵はがき、缶バッジ、ポスター、Tシャツが人気だとか。マグリットってポップアートの走りとも言えますね。ミニくまちゃんは本場ベルギービールコーナーにご執心

▲館内カフェでもマグリット展にちなんだ特別メニューが。こちらは3階ブラッスリー ポール・ボキューズ ミュゼの「ベルギーワッフル 3種のソースとともに」1200円(税別)。ランチに付けると+500円(税別)なのでそっちが断然お得です

▲館内カフェでもマグリット展にちなんだ特別メニューが。こちらは3階ブラッスリー ポール・ボキューズ ミュゼの「ベルギーワッフル 3種のソースとともに」1200円(税別)。ランチに付けると+500円(税別)なのでそっちが断然お得です

“マグリット展”を楽しむための心得

その1 教科書で観た作品を探してみよう

その2 タイトルの意味をソロでじっくり考えてみよう

その3 逆に作品からタイトルを予想してみよう

その4 《ピレネーの城》を観るなら5月13日以降に行こう

その5 お土産、カフェ限定メニューもチェックしよう

国立新美術館

所在地:東京都港区六本木7-22-2

最寄駅:乃木坂

本記事内の情報に関して

※本記事内の情報は2015年04月24日時点のものです。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
※本記事中の金額表示は、税抜表記のないものはすべて税込です。