喫茶ライターがナビゲート!店主が長年の想いを実現した喫茶店/月待チ珈琲店

喫茶ライターの川口葉子です。今回ご紹介するのは風雅な茶室を改装した「月待チ珈琲店」。八王子エリア・JR横浜線の片倉駅から徒歩5分の場所に木戸門を構えています。
訪問した際、わずか5席だけの小さな喫茶空間でありながら、なぜこんなにも心を惹きつけられるのか、珈琲を飲みながら考えずにはいられませんでした。
それは「自分があったらいいなと思うものをカタチにしてみようと、長く、ゆるく、強く考えていました」と語る店主の久住則子さんが、この茶室に出会ったことをきっかけに、長年の想いを実現した空間だからだと思うのです。さっそく店内にご案内しましょう。

引き戸を開け、靴を脱いで畳敷きの空間に上がると、まず正面で迎えてくれるのは玉砂利を敷いた水琴窟。こちらは元からこの茶室にあったもの。玉砂利の下に甕(カメ)が埋め込まれていて、細く流れこむ水の音が甕に反響して微かな音をたてるのです。
国道16号線を行き交う車の音が途切れると、席に座っていてもよく聞こえるので、ぜひ耳を澄ませてみてください。

にじり口や窓の障子越しに透けて見える庭木の緑と、ほのかな光の美しさ。凝った造りの天井。美しく整えられた床の間の花。どっしりした本棚に並ぶ、月にまつわる本の数々。しばらく座っていると心に満ちてくる静謐さ。一人で味わうための空間です。
築25年ほどのこの茶室は、華道の先生である大家さんのご主人が趣味で建てたものだそう。
「日本的なもの、大事にされてきた古いものに惹かれ、骨董市に通ってはうつわなどを集めてきた」という久住さんにとって、たまたま出会ったこの茶室の風情と、背後に片倉城跡公園の豊かな自然が広がる環境は、焦らずに時間をかけて準備を進めてきた小さな喫茶店を開くのにピッタリだったのです。

メニューはハンドドリップで淹れる深煎りのコーヒー2種類(850円~)をはじめ、「抹茶」(950円)、「紅茶」(950円)などの飲み物と、久住さんが手作りする数種類の「本日のお菓子」(550円)。
この日は、自家焙煎珈琲の名店「ねじまき雲」の豆を使った「ツキシズクコーヒー」(写真左1,050円)と、「ベイクドチーズケーキ」(写真右550円)を楽しみました。「コーヒーのほろ苦さやコクを感じながらも、お茶のようにスッキリと飲み終えられるのが理想」という久住さんの抽出する一杯と、コンテチーズを加えてつくる絶品のベイクドチーズケーキは相性も最高です。

▲写真左「水ようかん 抹茶ソース」(550円)、写真右「酒かすスコ―ン」(550円)
月待チ珈琲店には特別なものは何もありません、と久住さんは言います。
「ただ、素朴なお菓子を一生懸命に用意し、私自身が大好きな珈琲屋さんが丁寧に焙煎してくださった豆を、大事に淹れさせていただいています。訪れた人に、ほんの少しでも気持ちが喜ぶ時間を過ごしてほしい。そしてこの店のことを、記憶のどこか片隅に置いていただけたら嬉しいです」
記憶の中に残る、さまざまな喫茶店で過ごした良い時間。このお店も、誰かのそんな記憶のカケラになれるよう種まきをしているのです、という久住さんの言葉に、私自身の幸福な記憶を重ねずにはいられませんでした。
- 月待チ珈琲店
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所在地
東京都八王子市片倉町 2405-1
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最寄駅
片倉
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※本記事は2023年09月17日時点の情報です。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
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