ロケ地巡りが趣味の映画ソムリエがナビゲート!

映画ソムリエという肩書で映画を独自の切り口で紹介している、東紗友美です。


現地時間の2023年5月27日(土)にフランスで行われた第76回カンヌ国際映画祭の授賞式。是枝裕和監督の最新作となる『怪物』は脚本賞などを受賞し、話題を呼んでいます。


そんな同作が6月2日(金)ついに全国ロードショー。今回はそれにあわせて、是枝監督の過去作『万引き家族』のロケ地を巡ってきました。

樹木希林×松岡茉優のほっこりシーンに登場する甘味処/『万引き家族』ロケ地巡り

▲入り口からなんともこの風情ある佇まい。歴史の息吹を感じます

▲入り口からなんともこの風情ある佇まい。歴史の息吹を感じます

2018年、カンヌ国際映画祭最高賞パルム・ドールに輝いた『万引き家族』。このタイトルを聞いたことがある人は多いと思います。


家族ぐるみで軽犯罪を重ねる一家の姿を通して、人と人とのつながりと家族とは何かについてを考えさせるヒューマンドラマ。日本映画としては1997年の『うなぎ』以来21年ぶりとなるパルムドール受賞ということで、2018年当時は大変話題になりましたよね。


家族の形が多様になってきている現代で、あらためて家族とは何かを考えさせられます。また、この映画に登場する子どもたちの置かれた状況において、ただ嘆くのではなく、「こんな社会を変えていくのは私たちなのだ、と考える気持ちを忘れないでほしい」というメッセージを受け取ったことを今でもハッキリと覚えています。


今回はそんな『万引き家族』の中から、ロケ地の聖地でもあるこれからの季節にピッタリなお店を紹介したいと思います。

【西新井】『万引き家族』ロケ地の甘味処/映画ソムリエ東紗友美 連載_995946

劇中では万引きされてしまう設定のお店が多かったのですが、改めて見返していくと、ほっこりするシーンで使われているお店を発見!


劇中では本編の22分過ぎに登場し、樹木希林さん演じるハツエと松岡茉優さん演じる亜紀が、まるで本物の祖母と孫のようにあんみつとお汁粉をつついているんです。そんなシーンの舞台となる甘味処は、東京・足立区西新井にある「かどや」さん。


西新井大師のほど近くで、普段は参拝帰りに寄られる方が多いんだとか。

【西新井】『万引き家族』ロケ地の甘味処/映画ソムリエ東紗友美 連載_995947

風俗で生計を立てる亜紀と源氏名の話をしたり、年金にまつわるお金の話をしたり、女同士ならではのヒソヒソ話に静かに盛り上がっている二人。美味しいスイーツと女同士の秘密のおしゃべり。これさえあれば、いつだって年齢の垣根を越えて、女たちは強く繋がることができるもの。


子どもたちさえもが万引きせざるをえない胸が痛むシーンが多いこの映画の中でも、ヒヤヒヤしない、ほっこりする二人の様子が心に染み入ってくるシーンであります。こういうシーンがあるからこそ、万引きシーンの緊張感が倍増して、よりエモーショナルになるんですよね・・・。

【西新井】『万引き家族』ロケ地の甘味処/映画ソムリエ東紗友美 連載_995948

そんな風に作品のことを思い出しながら、私も劇中で二人が食べていた甘味を注文しました。


樹木希林さんが食べていたお汁粉は、感激の美味しさ!北海道産の小豆を使ったこだわりのお汁粉だそうで、甘さとちょっとのしょっぱさが絶妙なハーモニーを奏でます。完全に五臓六腑に染みました。


劇中では、お汁粉の中に入っているお餅をハツエが亜紀にとてもナチュラルに分けてあげているんですよね。こういった些細な動作にリアリティがあって、そういう点でもすごく印象的なシーンでした。

  • 【西新井】『万引き家族』ロケ地の甘味処/映画ソムリエ東紗友美 連載_995949
  • 【西新井】『万引き家族』ロケ地の甘味処/映画ソムリエ東紗友美 連載_995950

そしてこちらのクリームあんみつも、美味しかったです!


劇中で松岡茉優さんは、普通のあんみつを食べていたのですが、訪れたのは暑い日だったので、私はバニラアイスののった「クリームあんみつ」をチョイスしました。


どこか懐かしくノスタルジーに浸れる・・・あんみつにはそういう力があると思います。あん・寒天・蜜とあんみつを構成する材料はシンプルな面々だけれど、スプーンの上でチームになることで魅力を最大限に発揮し、圧倒的な関係性となっていく。そんなことを考えながら、万引き家族の物語を連想しました(ここまで妄想すると楽しいものです)。

【西新井】『万引き家族』ロケ地の甘味処/映画ソムリエ東紗友美 連載_995951

そして、ただ食べてきただけではありません。この日、たくさんの裏話を聞くことができました。私がお邪魔したのは5月下旬でしたが、映画のロケは12月28日だったそう。店員さんがはっきりと覚えており、教えて下さいました。


かどやさんでは、冬季は今川焼を売り、夏季に向けてはかき氷27種類(すごい数!)を販売するそうですが、師走の撮影だったので劇中では、ハツエと亜紀の座る席のすぐ後ろで、今川焼が焼かれています。


今回、この今川焼を映画本編でも焼いていたという、明るい笑顔が印象的なお店の方とお話しできました。

▲店内入口横にある今川焼を焼くスペース。劇中にもここが映っています

▲店内入口横にある今川焼を焼くスペース。劇中にもここが映っています

冒頭にも書いたように、この作品で是枝監督は世界の頂点に立つのですが、やはりその“こだわり”は人一倍に感じられたとのこと。当時のエピソードを聞いて、とくに印象深かったのは、二つ。


一つ目は、劇中で流れる「いらっしゃいませ」という声について。現場にはエキストラの方も多くいらしたようですが、より現実的であるべく、実際にこちらで働くお店の方の声でお願いしたいとの注文があったそうです。


二つ目は、今川焼の粉の流し方について。通常、今川焼を焼く際には粉を左から右に流すそうですが、是枝監督は、こちらの店員さんに「どうしても右から左に粉を流してほしい」と、丁寧にお願いし、その動きで撮影したそうです。


リアルを追求する是枝監督が、今川焼の粉の流し方を「本来とは逆に」と頼み込んだことは、映像的な魅せ方の観点からなのかもしれません。1シーン1シーンにかける並々ならぬ情熱を感じ、改めて本編を見たくなりました。


さらに、気さくでとても優しい方だったとも仰られていました。当時の思い出を振り返る時、店員さんはにこやかにお話しくださったので、本当に良い撮影現場だったんじゃないかと想像できます。

甘味かどや
  • 所在地

    東京都足立区西新井 1-7-12

  • 最寄駅

    大師前

才能のコラボに震える。是枝裕和監督最新作『怪物』

▲©2023「怪物」製作委員会

▲©2023「怪物」製作委員会

最後に、是枝監督の新作となる『怪物』について、ご紹介させていただきます。


大きな湖のある街を舞台に、子どもたちの間に起きた日常の喧嘩が、大人たち、そしてメディアまでをも巻き込む大事件に発展していくさまを描いた本作。


物語は、1つの出来事を3つの視点から眺めるスタイルで進行していきます。子どものイジメという問題に対して、母親の目線、担任教師の目線、子どもたちの目線と3つの視点で語られ、1つの出来事に対して視線が変化していることで見える景色が全く異なってくるという”羅生門スタイル”を採用しています。是枝監督にとってはこのタイプの作品は新境地かもしれないと感じました。※羅生門スタイル:同じ物語(事象)が異なる複数の視点から描かれるスタイル


またドラマ『カルテット』や映画『花束みたいな恋をした』の脚本を担当した坂元裕二さんと是枝さんの相性がこんなにも良かったことに、嬉しくなりました。才能のコラボの可能性は、いかに無限大なのか。足し算ではなく、掛け算になるんですね。


坂元さんが脚本に加わったことでこれまで以上にエモーショナルな物語になっていると感じられましたし、やはり是枝さんの子役の演出はさすがとしか言えません。試写会での鑑賞から数週間たった私ですが正直もう、ポスターに映るこの子どもたちが他人のようには思えないほど、彼らに心を揺さぶられました。ぜひスクリーンで、新作もチェックしてみてくださいね。

本記事内の情報に関して

※本記事内の情報は2023年06月09日時点のものです。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
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