映画監督・入江悠のミニシアターは止まらない!

ミニシアターは止まらない!


2020年4月より、新型コロナウイルスの影響で存続の危機に陥ったミニシアターを救うために、いち早く立ち上がり精力的な活動を続けてきた映画監督・入江悠さん。10年ぶりの自主映画となる最新作『シュシュシュの娘』が公開され注目を集めるなか、Hat!では「ミニシアターは止まらない!」と題し、入江監督による対談企画を全3回でお届け。

第2回目は都内のミニシアターのなかでも長い歴史を誇る、ユーロスペース渋谷の北條誠人さんと。(第1回目の記事はコチラ


なんか北條さんが毎日ニコニコしていたのを覚えてます(笑)

ミニシアターは止まらない!


————ここユーロスペースでも、2021年8月21日(土)から入江監督の10年ぶりの自主映画『シュシュシュの娘』が公開されました。また同作のプレミアム試写会の舞台挨拶で全国のミニシアターとつないだ拠点もユーロスペースの地でした。入江監督にとってどんな思い出がある映画館ですか?

入江監督(以下敬称略) : 僕がはじめて観客として来たときは、当時まだ大学生でしたね。ユーロスペースがココ(円山町)に引っ越す前、渋谷の桜丘町にあった頃です。こっちに移転してどれくらい経つんでしたっけ。

北條さん(以下敬称略) : 今年で15年だけど、もっと長い印象があるよね。震災もあったし、コロナもまだ長引いているし・・・。“問われ続けている15年間”という感じです(笑)。

入江:たしかに、もっと長い印象がありますね。僕が映画監督として、自分の作品で関わったのが『SR』(『SR サイタマノラッパー』/2009年)ですね。シネマ・ロサの次に、ユーロさんで上映していただいたんです。その時には北條さんもいらっしゃって、たしか一週間くらいで上映を快諾してくれたんですよね。当時は若いパワーで毎日のようにトークイベントをやっていて、ラッパーの宇多丸さんとかもゲストで登壇してくれたり・・・。なんか北條さんが毎日ニコニコしていたのを覚えてます(笑)。

北條 : そう、毎日満席だったから。お客さんが入るとどうしても顔がゆるんじゃう(笑)。

入江あの映画の口コミが広まったきっかけが、ユーロさんだったんですよ。ここで上映してから一気に全国の映画館へ広がっていった印象があって。

北條 : 『SR』が当時の渋谷のお客さんと合っていたんですよ。ユーロスペースはミニシアターのなかで比較的客層が若いといわれるんだけど、その中でも特に『SR』のお客さんは若かったし、やっぱり他の映画と比べて勢いがあったんだよね。

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▲『SR サイタマノラッパー』/2009年


最近は日本映画が若返っているから、面白いですよ

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入江 : ユーロスペースって、『SR』の頃はあんまり自主映画を持ち込んで上映してもらうというイメージがなかったんですけど、この10年くらいはすごい勢いでやっている気がしてます。もともと持ち込んでもらって、観て決めるというスタンスは変わらないですか?

北條 : うーん、『SR』以前も小さい規模ではやっていたんだけど、当時はまだ16ミリとか8ミリのフィルムの時代だったからかな。お金もかかるから作品の数は少なかったんだけど、ここ数年は映画の作り方がデジタルに移行していろんな場所で映画が作られているから、一気に多く、若くなったよね。上映してほしいっていう売り込みも多いし。最近は日本映画が若返っているから、面白いですよ!

入江 : たしかに、20代の監督とかも増えてて。日本映画が若返っている印象はありますよね。


————前回のポレポレ東中野に続き、今回のユーロスペースはどんな映画館という印象でしょう?

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入江 : やっぱりユーロスペースはミニシアター文化の中心という感じがするんです。日本映画に限定するとテアトル新宿もありますけど、もうちょっと広く洋画・邦画問わず、ミニシアター文化を担ってきた中心ってイメージですね。あと、僕の中では自分の作品をユーロで上映するなら“夜”っていうイメージがあるんですよ。そういう映画館それぞれの色ってあるなと思ってて。

北條 : 闇の映画ですから(笑)。でも、自分の劇場の色って映画館に勤めていると分からないよね。一番最近だと、山田洋次監督の『男はつらいよ お帰り 寅さん』をユーロで上映したんですけど・・・、3カ月間くらい悩みましたね。もちろん作家主義で考えたら、いちばんの現役監督だし、失われたスタジオシステムの最後の作品。映画史という文脈では非常に価値が高いよなと思いながらも、渋谷のお客さんと年齢的に合うのかなとか。

入江 : なるほど。普段ユーロスペースに来るお客さんじゃない層に来ていただくというのもひとつの戦略ですか。

北條 : そう、それも仕事のひとつ。もちろん普段から来ていただいているお客さんに満足してもらって、また来てくださいというのもあるし、もう一方で広げていきたい気持ちもあって。昨日上映した『野火』の塚本晋也監督が61歳、先月上映した『夜叉ヶ池』の篠田正浩監督が90歳、来月『由宇⼦の天秤』の春本さんが40歳くらい。それに、レイトショーは20代の人もいるから、劇場としてはどれだけ幅の広い日本映画と対峙できるかっていう意識も最近出てきたかな。

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入江 : どこか尖っている印象はありますね、いまだに。僕が大学生の頃はユーロスペースってもっと尖ってて怖かったんですよ(笑)。

北條 : あの頃はミニシアター黄金期だったから、尖っていたかもね(笑)。

入江 : 僕の日芸の同級生の中でもシネフィルなやつが通ってて。(当時発行された映画雑誌をめくりながら・・・ )そうそう、ジャームッシュとかヴェンダースはやっぱり僕ら世代で、渋谷のミニシアターのイメージですよね。ヨーロッパの感じもちょっとありますね。キアロスタミとかラース・フォン・トリアーとか、カウリスマキも、ユーロってイメージあります。

北條 : 懐かしいでしょ。今の劇場はその頃の“桜丘時代の反省”をすべて込めて作った劇場なんです。桜丘は比較的小さい劇場だったから尖った作品でも採算がとれていたけど、ハコが大きくなればなるほど尖ったものは排除されるので、そのバランスは大事だと思ってます。

入江 : 今、ミニシアターを応援する活動の中で、ミニシアターに初めて来てもらえるようにいろいろ工夫しているんですが、ちょっと敷居が高いというのも魅力の一つじゃないかと思ってて。大人の階段を上った先に、まだ楽しみが残ってたみたいな。シネコンは行ったことがあっても、ユーロに来ると違う世界が見えるよという敷居の高さって魅力的なんですよね。


先輩たちの自主映画を観て、やっぱり楽しそうだなと思って(笑)

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————現在上映中の『シュシュシュの娘』は、全国のミニシアターを応援するクラウドファンディングで作られた作品としても話題を集めています。入江監督にとって10年ぶりの自主映画ですが、コロナ以前から構想があったんですか?

入江 : そうですね、そろそろ自主映画を作りたいなとは思っていました。ポレポレ(東中野)で、鈴木卓爾監督の自主映画の『ゾンからのメッセージ』とか、瀬々さんの『菊とギロチン』とか観てて。先輩たちの自主映画を観て、やっぱり楽しそうだなと思って(笑)。なんか商業映画ではできないところに挑戦しようとしてるんだなと感じて、そういうのを前から作りたいとは思ってたんです。

北條 : やっぱり尖っている人があってこその自主映画。だから(コロナ禍で)みんな大丈夫かなって心配になっていたんだけど。

入江 : そうですね、ちょうどコロナで僕自身の仕事もなくなっていたので、そういうタイミングだったっていうのはありますね。ユーロでも佐藤零郎監督の『月夜釜合戦』では舞台挨拶にも参加しましたけど、宮崎彩監督の作品とか、そういう尖った自主映画を観て刺激をもらっていた感じです。今回は脚本も自分で書いたんですけど、ほとんど初稿のまま書き上げて、ほぼ推敲していないんですよ。推敲していくと普段商業映画でプロデューサーとかと打ち合わせしてやっていくのと一緒になっちゃうなと。カドが取れてくかなと思って、4日くらい徹夜して書いて。


————ほぼ初稿というのはすごいです。自主映画ならではの社会問題に対する提起も随所に見られました。ああいった要素は意識的に入れているものですか?

入江 : もともと外国人に対する不寛容の問題とか、災害時における排外主義的な態度とかっていうのは関心があった問題なので、ずっと調べていたんです。それこそ昔、井筒監督と飲んだときに「関東大震災の時の問題ってお前の地元でもあったぞ」と言われて、僕も「えー!」って調べたんですよ。そしたら確かに東京から噂が広まって、深谷とか秩父まで行ってるんですよね。

自分が地元(深谷市)に居た頃は知らなったけど、そうやって噂が影響力を持って流布していく怖さはずっとあったんですよね。主人公の特殊な設定だけパッと見えたときに、勢いで書いちゃったんですよ。

北條 : 初動の欲求のままに、ってやつですね。


ミニシアターは止まらない!

▲©2021『シュシュシュの娘』製作委員会

入江怖いですよね、映画監督って。そういうの知ってるから。先輩と話したときにハッとすることが多いんです。あとは苦労した点でいうと外国人の差別問題とか、謎の自警団に襲われるとか、ネガティブなことが起きる場面が多かったので、ロケーションには気をつかいました。コロナの中でただでさえ知らない人に来てほしくないじゃないですか。

でも、ロケ地の方々に、どうしてこの映画を作ろうと思ったのか時間をかけて説明して。最終的には応援していただけて良かったです。最初はよく話を聞いてくれるな~と思いましたけど、本当にありがたかったです。


————入江監督は今作の制作発表時から、仕事を失った人たちを助ける、若い映画人を育てる、ミニシアターを応援するという3つの方針を掲げています。ミニシアターとしてはどんな気持ちなのでしょう?

北條 : ありがたいとしか思えないですよ。よく見捨てずに応援してくれた・・・うれしいです(笑)。昨年は「ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金」とか「SAVE the CINEMA」が誕生して、今年はついに入江さんの映画を上映させてもらえるところまで来て。

入江 : 去年の方が「みんなで乗り切ろう!」という感じはありましたけど、今年は問題が細分化されちゃって難しくなっているように感じます。映画館ごとに少しずつ問題が違うんですよね。母体が民間なのか、市民が支えているのか、行政が支えているのか。ほかにも異業種が入っているとかで温度差が変わってきているので、今後はより難しくなっていく気がしますよね。


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北條この先ミニシアターが生き残ったら、今度はみんなに恩返しをしなきゃいけないなと思うようになりましたね。とは言っても、私たちからの恩返しのアイデアは具体的にはまだ分からないんですが。

入江 : でも、続けること、続いてることで良いんじゃないんですか。攻め続けること。経営母体によって全然違うので、その苦しみって一概には言えないですよね。続ける方がしんどいこともあると思うけど、僕はそう思いますね。

北條 : 数年前の春休みに『この世界の片隅に』を観に、女子中学生の制服を着た女の子たちが4人やってきて。よくこんなところまでたどり着けたなと。ユーロでは中学生は500円なんですよ。彼女たちが受付でお札を出したときに、500円ですから、といわれたときのぽかんとした顔が印象的で。何年か経ってバラバラの人生を歩んだときに、「中学の終わりくらいにあそこでみんなでアニメを観たよね」なんて思い出を持っていてくれるのかなと。ほとんど親父の視点ですけど(笑)。そういう役割でも、続けたいなと思いましたね。


————最後に、まだミニシアター訪れたことがない読者も多く居ます。そういった方々に向けてミニシアターの魅力を伝えるとしたら?

北條 : まずは映画を楽しんでほしい、という気持ちが第一です。DVDでもネットでも、映画を観て楽しんでほしい。でも、例えば美術館に訪れて絵画を鑑賞するのと、画集とか写真集で絵を見るのはぜんぜん違うでしょう? 筆の動きとか、同じ場所で見ている人たちと時間を共有できる点とか。そういう楽しみ方がミニシアターにもあるんですよ。テレビで映画を観ることが画集を楽しむことと同じだとすると、それが入り口でいいんです。僕ら映画館は、美術館のような場所を目指しているのかもしれないですね。


ミニシアターは止まらない!

▲ユーロスペースの劇場内にて。

ユーロスペース
所在地:東京都渋谷区円山町1-5 KINOHAUS3F
電話番号:03-3461-0211
最寄駅:渋谷



入江 悠(いりえ ゆう)

1979年、神奈川県生まれ、埼玉県育ち。
03年、日本大学芸術学部映画学科卒業。09年、自主制作による『SR サイタマノラッパー』が大きな話題を呼び、ゆうばり国際ファンタスティック映画オフシアター・コンペティション部門グランプリ、第50回映画監督協会新人賞など多数受賞。『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』(11)で高崎映画祭新進監督賞。その他に『ジョーカー・ゲーム』(15)、『22年目の告白』(17)、『ビジランテ』(17)、『AI崩壊』(20)など。2021年は『シュシュシュの娘』と『聖地X』の公開を控えている。

[Twitter] @U_irie



取材・文/レッツエンジョイ東京編集部
撮影/西谷 圭司

※2021年8月25日時点の情報です。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
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