クラブが怖い。これはもう、クラブに行かない人間にとって共通見解なのではないかと思う。ただ、クラブの何が怖いのか、と問われると困る。きちんとした説明ができない。これはひとえに、クラブの実態をよくわからないまま怖がっているからではないかと思う。それもそのはず、怖がっているのは、クラブに行ったことがない人間だ。つまり、ただのイメージで物を語っているのだ。何の具体性もないのに、「クラブは怖い所」と共通見解のようになっている。不思議な話である。怖がるなら、ちゃんと知った上で、敬意を表した上で怖がりたい。
そこで、渋谷にあるクラブに行ってみることにしたのだが、この時期を選んだのにはわけがある。ハロウィンの日に行けば、普段よりも“クラブ感”が薄れるのではないかとニラんだのだ。しかも、この日はただハロウィンなだけでなく、「泡ハロウィン」というイベントをやっている。ハロウィンのどさくさに紛れたクラブビギナーがきっといる。私もそのどさくさに紛れようと思う。そのどさくさで、私がクラブにうまく馴染めない感じも、うやむやになればいい。人は非常時には正常な判断ができないと言う。ハロウィンは日常ではなく、非日常だ。みんなにとっての非日常であるハロウィンの中に、私にとっての非日常である「一人クラブ」が混ざり合うというわけだ。木を隠すなら森の中なのだ。何言ってるか全然わからないけど。
会場のオープンは17時、イベントが始まる18時までは、イベントホール手前のスペースで待機する。すでに踊り狂う人もいるほか、仮装した姿を写真に撮り合うグループも多い。
▲一人で待つのは暇だった
ちなみに来ている人たちについては、上から下まできちんと仮装でコーディネートしているか、まったくの私服かの両極端だった。「ハロウィン思い切り楽しんじゃうウェイ!」か「ハロウィン?関係ないね、アタイはクラブで踊りたいだけさ」のどちらか、というわけだ。
一方で私は今回、近くのドン・キホーテで調達した申し訳程度の仮装をしていったため、むしろ何がしたいのかわからない人みたくなっていた。ちなみに私は、「平服でお越しください」の意味に直前まで悩んだ結果、「平服」的なものにふさわしい服がクロゼットに一つも並んでおらず、準備不足に慌てるタイプの人間だ。無難にもなれず、個性的にもなりきれぬ、哀れで醜い私だ。
▲写真を撮るか、踊るかして待つ人々
▲泡モコモコ
イベントが始まると、床がモコモコの泡でいっぱいのホールに通された。雪が積もったときのように、みんなで泡を触りに行く。……クラブ、楽しいじゃないか。
が、あっという間に泡は触り散らかされ、みんなステージ上のDJに向けて踊り始めてしまった。出た。これだ。これだからクラブは困るのだ。音楽のズン、ズン、というリズムに合わせて、誰もが跳び、踊っている。なぜだ、なぜなんだ……!なぜキミたちは跳ぶのかね。振り付けも決まっていない中、どうしてかように踊れるのかね。
▲触り、踏み散らかされた泡
▲踊る人々
しばらくぼんやりと見ていると、曲の盛り上がりに合わせてステージ上の人が砲台の準備を始めた。どうやらもうすぐ新しい泡が出てくるらしい。踊りの楽しさはわからなくても、泡の楽しさはわかる。泡を求めて端から真ん中へ移動した。
▲泡が出てきた
▲泡を拾う女
今回、クラブに来るにあたって、泡イベントをやっている日を選んで正解だった。泡がある間だけは、手持ち無沙汰にならない。
▲泡が出ていない間は暇だ
その後も、泡が出るタイミングだけ真ん中へ行き、泡を触ったら端へ戻る、を繰り返した。これは一体何なんだろう、何をしているのだろう、私は。いや、私だけではない。泡が噴出されるのに合わせて、泡のもとへ人々が群がる。そこに人の意志はない。泡が人を支配している世界。人が作りし泡が、人を超えた瞬間を見た。
そこに何か、答えを見た気がした。
踊るクラバー(クラブ好きの連中をこう呼ぶらしい)と、踊らない私。踊るか、踊らないかで隔てていたものが、泡によってひとつになるのを感じた。泡が出ているこの瞬間だけは、同じ感覚を共有している。泡、意外と崩れないな、と。あと、触った後の手が結構べたべたするな、と。
その場の大多数との「属性が違う」、おそらくこれが「クラブが怖い」の正体だ。ひいては、「一人で行きづらい場所」の原因でもある。女性客の多いパンケーキ屋に男性は行きづらいし、男性客の多い牛丼屋に行きづらいという女性は多い。属性が違うからだ。
露出の高い恰好で踊る人。ズン、ズン、という聞き慣れないクラブミュージックで盛り上がる人。属性が違うから肩身が狭いし、その場の暗黙の“ルール”のようなものがわからなくて、怖い。
この属性というものをもう少し掘り下げると、属性が同じだと、その場所の「背景」になれるのだと思う。クラブという場所において、「クラブで踊る人」はセットだ。例えばイラストにしようとすると必ず描かれる要素である。牛丼屋のイラストを描くなら、たぶんそこに紅をさしたハイヒールの女性客がたくさん描かれるということはないだろう。カジュアルな服やスーツを着た男性客が「背景」として描かれるはずだ。
泡が出ていた瞬間だけは、私はクラブの「背景」になれていた。まさに魔法。泡が消えるまでの儚き夢。泡がくれた魔法の時間。
▲泡がくれた魔法のひととき
一人クラブを楽しむ三か条
- その1
- ハロウィンの日に行けばどさくさに紛れられる
- その2
- 「泡」などのイベントをやっているときなら楽しめる
- その3
- 一人で行きやすいかどうかは、「背景」になれるかなれないか次第
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※本記事は2018年10月31日時点の情報です。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
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