
vol.8 とにかく改名しがいのある有楽町線。窪地が多いことも判明。

土地の歴史や地名の由来に強い愛とこだわりを持つ能町みね子さんが、独自の視点で新たな駅名を考案する本連載。第8回目は、歴史的にそこまで古い地名がないエリアを走る有楽町線。それでも明治時代の地名をもとに考えていくと、駅名がガラッと変わる結果に。あなたの住むあの駅も、毎日通っている会社の最寄り駅も、本当は違う名前がふさわしいのかもしれません!
命名時に「どこの時代までさかのぼるのか」の基準が難しくなってきた
私は「古くて味のある地名」が好きでこの連載をやっているんですが、調べていくと、だんだん「古さ」がどのへんを基準にすればいいのか分からなくなってきます。例えば、昭和初期に作られた地名も十分古いけど、それよりは明治時代からある地名を優先したい。でも、それよりも江戸時代が、それよりも室町時代が……とさかのぼりすぎるのは、データもないし、やりすぎです。どこかで基準を作らないといけない。
今回の有楽町線はそのへんを迷いました。だって、有楽町線の端のほうって、明治までさかのぼると完全に農村や荒野、あるいは海。迷った結果、やっぱり明治くらいの地名を優先したんですが、そしたらかなり大胆に名前が変わってしまいました。でもまあ、私が気に入ってるからこれでいいか~。
いかにも歴史のなさそうな地名にメス!台地ではなく窪地だということも判明
有楽町線は「和光市」から始まる。まずこの和光市、東武線の駅としてできた頃は新倉村にある「新倉駅」でしたので、迷うことなく新倉に戻します。その次、「地下鉄成増」と「地下鉄赤塚」については東武東上線の「成増」と「下赤塚」のすぐそばで、同じ駅のような立ち位置なので、こういうときは方角を使いたい。南成増、南赤塚で決定。ここはもともと営団地下鉄だった頃には「営団成増/赤塚」、東京メトロになってからは「地下鉄成増/赤塚」なんだけど、私は駅名の上に会社名をつけるのもあんまり好きじゃないんですよね。長いし。
さて苦労したのがここから先でした。平和台、氷川台と、いかにも歴史のなさそうな駅名が続きます。
平和台駅の真上にある交差点はなんと江戸時代からあったみたい。このへんが農村地帯だったとき、この辻のあたりは「丸久保」という集落だったようなので、丸久保で行きます。氷川台の駅を出たところの橋も江戸の頃からあり、今でも「正久保橋」という。なので氷川台も古い地名を取り、正久保。
二つとも、「台」が「久保」へ。台地ではなく窪地だということがどんどん判明していく……。
小竹向原は小竹で充分。その後は窪、窪、窪とへこみが続く
つづいて「小竹向原」は、小竹と向原という二つの集落をくっつけただけの名前なので、もとの集落が近いほうの「小竹」だけで十分です。「千川」も、地名ではなくここを流れる千川上水から取っているようなので、消滅した旧集落の名前を取って「境窪」に。
要町は古い地名かと思っていたら、元々このへんは谷端川沿いのただの田んぼで、駅の位置にぴったりくる集落もない。要町は昭和になってからの地名で、旧・北豊島郡長崎町のまんなかへんにあるから「かなめ」なんだそうです。意味的には「中央○丁目」と大差ないので微妙。「要町」で手を打とうかと思ってたのを却下して、こういうときは駅のそばの橋から取って「長崎橋」にします。
こんな感じでとにかく変更しがいのある有楽町線。池袋はそのままでいいと思うけど、東池袋は、都電の「東池袋四丁目駅」が開業時に「水久保」だったのを採用して、古い地名の「水久保」にします。また久保だ。ここまで、丸久保・正久保・境窪・水久保と、窪地のクボだらけです。有楽町線沿いはこんなにへこんでいたのね。
ランドマークをきちんと押さえている駅名は高評価
護国寺・江戸川橋はランドマークとして文句なし。神田川の上にあるのになんでここが江戸川橋かというと、かつてこの神田川が江戸川と呼ばれてたんだそうです。ややこしい。
飯田橋については、JRの駅と乗り換えが離れているし、この駅こそ神楽坂に出るのにいちばん近いので、ここを「神楽坂」にします。東西線の「神楽坂」はすでに改名してますし。(※vol.6 東西線の回を参照)
市ヶ谷から有楽町までは特に異論なくそのままでいくけど、銀座一丁目には迷った。ここの地名は明治期から銀座一丁目。しかし私の美学として、「○丁目」の名前はバス停みたいな軽さに感じるので駅に使うのは少し嫌なのです。かといって、ここの近くにはちょうどいい橋や古いランドマークもない(というか、橋が多すぎて決め手に欠ける)。迷った結果、丸ノ内線のときに西銀座駅を作ってるし、ここは場所のイメージ的にも「銀座」以外に当てはまらないので、「北銀座」でいいかなあ。妥協。
あとは、わりと納得の名前が続く。新富町も月島もそれ以外考えづらい。豊洲や辰巳も埋め立て地なのでそれ以外の地名はない。
数奇な運命をたどった島「夢の島」を忘れてはいけない
で、ラスト、新木場。ここは新木場でもなんら問題ないんですけど、あえて、いろんな思いを込めて「夢の島」にしたいです。いま、新木場駅のあたりは北半分が夢の島公園、南半分が新木場(貯木場など)になっているけど、この「東京湾埋立14号地」という人工島全体の通称がもともと「夢の島」。その真ん中にある駅ですもん。
夢の島はもちろんゴミを埋め立てて作った島ですが、当初(戦前)は大飛行場を作るつもりだったそうです。しかし飛行場計画は頓挫、そのあと海水浴場になったり、遊園地計画ができたりと「夢」っぽい時代があったものの、その後は大量のゴミで蠅の大群が発生して社会問題になったりと、数奇な運命をたどった島。この業の深い島の名前をラストにつけたいです。
ということで、台がほんとうは窪地だらけだったり、埋め立て地を通ったりと、×もたくさんついてかなりおもしろかった有楽町線。長い原稿となってしまいました。

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※本記事は2017年01月11日時点の情報です。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
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