クリスマスや誕生日などのイベントごとの日に、一人でいるのは悪しきことだという価値観がある。めでたい日なのに一緒に祝う人がいないのは“悪”なのだ。だが、本当にそうなのだろうか。騙されてやいないだろうか。せめてもののと一人で買って帰ってきたケーキの味は美味しくないのか。否。一人だろうと二人だろうと100人だろうと、ケーキはケーキであり、美味しさに変わりはない。
ケーキにしたって、購入者が一人で食べたというだけの理由で、「美味しくない」と言われたらたまったものではなかろう。「みんなで食べると美味しいね」は嘘である。「一人で食べたって美味しくないよ?」はもっと嘘である。一人で食べたって、美味しいものは美味しい。それと同じで、みんなで祝おうが、一人で祝おうが、楽しいものは楽しいはずだ。
イベントごとやパーティーは一人で行っても問題がないことを、ここらで証明しておきたい。そこで、一人でリムジンを貸し切ってパーティーをしてみることにした。あまりピンと来ない人もいるかもしれないが、リムジン貸し切りは、パーティーの最高峰のひとつに数えられているのだ(私調べ)。「リムジン パーティー」で検索すると、ドレスを身にまとってシャンパンで乾杯する様子が山ほど出てくる。
なお、いくつかあるリムジンの貸し切りプランの中で選んだのは、「バースデープレゼントプラン」。来月は私の誕生日だからだ。一人誕生日パーティーを執り行うのだ。今っぽい言葉で言えば、私はリムジンでパーティーをするパーリーピーポー(パリピ)である。一人だから厳密に言えばパーリーピーポーではなくパーリーパーソン、パリピではなくパリパかもしれない。
まずはレンタルリムジンの予約をし、その際に出発地点と到着地点を決める。それに応じて時間内に回れるルートを相談、という流れになっている。クリスマスイルミネーションの時期(取材時は12月)のため、けやき坂、東京タワー、お台場、とイルミネーションを堪能できる王道ルートにしてもらうことにした。
最初は新宿アルタ前から乗車し、青山を通って、けやき坂へ向かう。新宿アルタ前から乗車する、ということはすなわち、アルタ前にレンタルしたリムジンが堂々とやってくる、ということだ。当日、アルタ前に向かうと、何事かという様子で周囲の人々がリムジンを気にしていた。私はリムジンの乗車場所をうっかり利便性だけで指定してしまったからこんな事態になったわけだが、大きな車が一時停車できるところならば、もっと人の少ない場所でも可能である。というか、そのほうが絶対にいい。
リムジンの前まで行くと、ドライバーの熊谷さんが出てきた。さしずめこのリムジンを運転してくれる“じいや”である。問題は私がおおよそじいやを従えていそうな風貌ではないこと。私は精一杯、「あら、じいやありがとう。寒いから早く出発してくださる?」という顔をして乗り込んだ。見世物のようにスマホで写真を撮る面々もきっと、新宿に迎えに来てくれたじいやといつもリムジンで送り迎えをしてもらっているお嬢様に見えたことだろう。
リムジンの内部は、風船で埋め尽くされ、「HAPPY BIRTHDAY」の文字がぶら下がり、すぐにでも誕生日パーティーを始められるようになっていた。バースデープランに、「レターバナー&バースデーバルーンセット」のオプションを追加すると、あらかじめこのような内装をセッティングしてくれるのだ。
私はさっそくパーティーの準備を始めた。パーティーの主役には、主役らしい格好をしてもらわなければならない。持参したバースデーハットと「本日の主役」のタスキを身につける。
誕生日なのでケーキも用意した。ただし、リムジンの中で食べ物は食べることができないため、ケーキのレプリカである。
まずはシャンパンで乾杯。シャンパンはリムジンの貸し切りプランについている。そして、事前に買っておいたくす玉を引く。煙の出るものは車内で禁止されているため、クラッカーを使えなかったのは残念だが、なかなかそれらしくなってきた。世の人が誕生日パーティーでやりそうなことをだいたい網羅しているはずである。たぶん。
そうこうしているうちに、最初の目的地であるけやき坂に到着した。バースデーハットをかぶって、タスキをつけている私に、「車の外に出て写真を撮りましょう。シャッター押しますよ」とじいや(ドライバー熊谷さん)は言う。随分ハードな要求である。イルミネーション輝く12月の六本木で、この格好でリムジンの前で写真を撮れというのか。
通行人に怪訝な顔をされつつも、じいやの要求をこなして無事車内に戻った。次は東京タワーへ向かう。
この時点で、すでに持参したタスキやくす玉などのバースデーグッズは使い切ってしまったため、なんと早くもやることがなくなってしまった。プレゼントの贈呈やバースデーソングを歌うことのない一人誕生日パーティーは、結構暇である。一人で使うには広すぎる車内を、ごろごろ寝転がりながら過ごした。おめかしして大勢でリムジンを貸切ると、寝転がるなど到底できまい。もしかしたら私はレンタルリムジン史で初めて寝転がった人間かもしれない。
東京タワーへ着いた。じいやは再び、車を降りろとしきりに言ってくる。東京タワーの目の前ではタワー全体を写真におさめるのが難しいため、全体の見える少し離れた場所で下車することが多いらしい。
最後の撮影スポットであるお台場は、東京タワーを出たらあっという間に到着。16時から18時までのドライブの予定が、すでに18時半を過ぎていた。「バースデープレゼントプラン」などのパッケージプランで予約していれば、道の混雑などで利用予定時間を過ぎても、延長料金はかからない。じいやのエスコートに従い、海沿いまでやってきた。これでリムジン及びじいやともお別れである。
リムジンに送られる帰り道、私は今日の一人誕生日パーティーについて振り返っていた。誕生日やクリスマスを一人で過ごすのが“悪”、とされるのは、お祝い事の日に誰も祝ってくれる人がいない、だから自分は人気がない、人に承認されていない存在だ、と思う気持ちが根底にあるからだ。
逆に言えば、自分で自分を承認できてさえいれば、一人で過ごす=悪、という発想にはならないのだろう。周りに人がいないまっさらな単体の状態の自分を、どれだけ自分で認めることができるか。自分のことを認められた分だけ、一人で行ける場所も増えるのではないだろうか。自己啓発本のようなことを言ってしまったが、きっとそうだ。一人で誕生日パーティーやクリスマスパーティーをするのは、何も悪くない。それは自分を愛せている証、自分へのアガペーなのである。
【取材協力】スターリムジン
一人リムジンを楽しむ3ヵ条
その1 予約時に混雑しにくいルートを希望すると多めにスポットを回れるかも
その2 自分で小道具を持ち込むとより楽しめる
その3 一人でパーティーをして何が悪い
※2015年12月時点の情報です。サービス、価格等は変更になる場合があります。
※この記事の写真の撮影は三脚を使うか、もしくはリムジンの運転手さんにシャッターを押してもらっています。
ライター紹介
ライター・コラムニスト。著書「ソロ活女子のススメ」(大和書房)がテレビ東京で連続ドラマ化。2024年4月にはシーズン4が開始する。他著書に「ひとりっ子の頭ん中」、「『ぼっち』の歩き方」。テレビ東京「二軒目どうする?」の準レギュラーとして居酒屋の案内人を務める。
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※本記事内の情報は2015年12月24日時点のものです。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
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