神保町で喫茶店風自宅デート
♥神保町には、住めるイメージがない。古本屋やスポーツ用品店、そして付近の大学に通う学生たちで雑然としていて、はっきり言って高級なイメージはなくむしろ庶民的な街なのに、全く住むところではない。人の住む部屋がある感じがしない。
しかし最近は、都心回帰の流れもあって、この辺にも案外マンションが増えてきました。一本奥に入ると、古い民家と商店の間に挟まるように建っている細いマンションをよく見かけます。
♥ですから、今回は神保町が好きなあまり、神保町に住んじゃってる人とデートします。小さな出版社に勤務する30代。私とは、仕事関係で知り合いました。稼ぎはそんなに多くなくて、その割に高い家賃と、本代、CD&レコード代でほとんどの給料は消えていく。
彼はこの前まで大塚にある築年の古いアパートに住んでいたけど、持っている本やレコードが重すぎて本当に床が少したわみ、建て付けが悪くなって階下の大家さんから苦情を言われたので、思い切ってしっかりしたマンションに引っ越したのです。しかも、簡単に古本が手に入る神保町へ。
♥彼とのデートはもちろん徒歩圏内。神保町でほとんど済んでしまいます。そもそもそれはデートというより彼の買い物につきあうだけなので、私は常にちょっと不満です。でも、お互いにとても束縛のゆるい私たちなので、私は私で行きたいところには一人で行きます。つきあい方自体にあまり不満はありません。
彼の持ち物の重量で問題となるのは、本よりもむしろレコードです。ジャズマニアの彼はLPレコードを買うことも多く、狭い部屋の割にハイクラスなステレオセットでジャズを聴く。ほんとうは大きな音で心ゆくまで楽しみたいけれど、この物件では音漏れが怖いので、あくまでも音量は控えめに。
棚に入りきらない本とCDとレコードに囲まれてても、いい音でジャズが流れている彼の部屋は神保町の喫茶店にも劣らないと私は思っています。だから、どちらかというと街中でのデートよりもこの部屋に来ることが私は楽しみです。知らない間に増えていく本を気まぐれに読みながら、お互いに好きなことをしてこの狭い部屋で過ごすのだ。
……みたいなプライベート感あふれる喫茶店があったらいいのに。以上、妄想終了!
能町 みね子さん
文筆業兼イラストレーター。「オカマだけどOLやってます。」でデビューし、近刊に「『能町みね子のときめきデートスポット』、略して 能スポ」(講談社文庫)「ときめかない日記」(幻冬舎文庫)など。「久保みねヒャダ こじらせナイト」にも出演中。 https://twitter.com/nmcmnc
※この記事は、レッツエンジョイ東京のフリーペーパー「東京トレンドランキング」2012年12月号(11/25発行)に掲載されたものです。
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