以前、この連載で取り上げた吉祥寺で、たまたま出会った古本屋「すうさい堂」。店主こだわりの選書は、ディープ、この世の闇を感じるものが多い。そんな店の趣に似合いすぎる黒猫が一匹。看板猫「ヂル」だ。
選書はディープだが、店内はすっきり清潔、店主の方も丁寧に対応してくれた。POPYEなどカルチャー誌でも取材を受けている知る人ぞ知るお店に、主役となる「本」についてではなく、こちらの目的はあくまで「ネコ」。相当なこだわりをお持ちのところ申し訳ないが、こちらもネコ偏愛者として、そこは曲げられない。
ヂルは、店主さんが友人から引き取って飼い始めた9歳のメス。漫画「ねこぢる」から付けた名前は可愛らしくもあり、ミステリアス。この店のコンセプトにもピッタリで期待を裏切らない。一つの風景として完成している。チンチラとか、アメショーだと甘すぎてチグハグ、なんか落ち着かない感じになるに違いない。
ヂルは、本棚の下から出てきて、ガラスケースの上で一休み。おとなしくて、じっと見つめられると突然しゃべりだしたりするんじゃないかと、ちょっと怖くなるくらい…と言いたいところだが、そうしたお店の雰囲気(カルチャー)には全く飲まれず、甘々モードでヂルにまっしぐら。
頭から突っ込んで顔をスリスリしたところを我慢して、やさしく手を伸ばす。やわらかい。とくにこのアゴの下、今まで触ったネコの中でおそらく最上級のやわらかさ!「触って初めて良さがわかるんですよね」と店主さんも同意してくれる。
そしてはじまる撮影会。黒ネコを撮るのは難しいが、うまいこと店の照明が効いて、千差万別なヂルの表情を写すことに成功した。
十二分にヂルを撮ってお腹いっぱいになって、やはりお店にも悪い気がしてきたので、本についても紹介。お店は、吉祥寺で古本屋を始めて13年ほど経つ。選書のこだわりは、「なるべく奇怪な本を集めるようにしています」とのこと。お天道さまに照らされた場所から、横道を逸れて影や湿度のあるような世界へと連れて行ってくれる、その辺の本屋ではあまり目にしないセレクト、気になるタイトルがたくさん並ぶ。
無意識に手を伸ばした本に「あ、その本、ちょっとやばいです(笑)」と言われると余計に読んでみたくなる。タイトルからして後ろめたいものもあり、興味をそそるけどなかなか踏み込めなかったジャンルの本たち。
そういう好奇心をかき立てられるラインナップから、店主さんに、「今オススメの本ってありますか?」と聞くと、教えてくれたのが平山夢明のホラー小説。「その人はひどい話をかかせるとナンバー1ですね。救いのない話だけど、サクサク読めてしまいます。」
ディープな面ばかり紹介したが、赤塚不二夫とか、筒井康隆とか、リリー・フランキーとか、演劇パンフレットでは大人計画とか、一般の人にもちゃんと開かれている作品も扱っているので、なんていうか、なんか大丈夫だと思います。
さて本筋に戻って。棚の上にいるヂルにまた向かう。抱っこされるのが大嫌いで、その目には人間を絶望に追いやる魔力とか持ってそうなヂルだが、本当の性格はかなり恐がりで、店の前を通る車の音におびえるほど。
「たまにネコ目当てでくる若いお客さんもいるけど、ヂルは相手にもしないですね」。この日もポーカーフェイスで撫でられていたが、そんなネコこそゴロゴロと言わせがいがある。どんなに闇が深かろうと、たとえそこが地獄でも、ネコさえいればいつでも天国というのがネコ編愛者なのである。
石井芳征(ネコ偏愛者/クリエイティブディレクター/Cat’s Whiskers編集長)
すうさい堂
電話:0422-22-1813
住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町1-28-3ジャルダン吉祥寺103
最寄り駅:吉祥寺駅
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