第二回 “神田 のりトースト”で検索すれば出てくる路地裏のエース
JR神田駅に降り立ってエースでコーヒーを飲むたびに、私は思う。この近くで働いていたらよかったのにな…と。
珈琲専門店エースは、ときどきしか訪れられないのが、心底もったいないと思う店のひとつだ。

▲エースに着きました。赤とクリーム色でまとめられたポップな外観

▲入る前からわくわくします
“のりトースト”をご存知だろうか。久し振りに食べたそれは、私の記憶以上の美味しさだった。こんなにおいしかったっけ!!
忙しさにかまけ、しばらく来ていなくてごめんなさいと大後悔。
のりトースト…東京の喫茶店に興味がある方ならば、きっとどこかで耳にしたことがあるフレーズではないだろうか。そして、どんな味がするのかと、気になる筈だ。
今年は特に取材が多いという。エースは私たちを魅了し続けているのである。私も最初に店に訪れた5・6年前、のりトーストが気になって仕方がなかったことを思い出した。
単純なのに心を掴むフレーズ、170円なのにこの圧倒的な存在感。その魅力を今日の取材では探ろうと思ったのだ。

▲のりトースト!コロンとした丸いカップに入ったブレンドコーヒーは420円です

▲店内。喫煙可ですが私が最初にこの店を訪れた5・6年前よりはるかに喫煙しているお客さんは減っていました

▲珍品コーヒーフェア開催中でした!4月と10月に実施

珈琲専門店エースは、昭和46年に創業。店主・清水英勝さん、徹夫さん兄弟の両親が始めた店だ。父・重忠さんは小学校給食の栄養士を辞め、念願だった自分の店を開いた。5人兄弟のうちの彼ら2人が両親と喫茶店業をやっていくことに決めたのだった。
開店当時、すでに神田には数多くの喫茶店があったという。ただ店を開くだけでは生き残っていくことは厳しいだろう。彼らは考えた。
英勝さんはこういう。
「お店に特徴を出さないといけないと思いました。それで、当時まだ珍しかったサイフォンでコーヒーを淹れることに決め、コーヒーの種類も増やしました。のりトーストも開店当初からあるメニューです。
うちの母親がお弁当によく作ってくれた、のり弁をヒントにして、ごはんをパンに置き換えて作ってみたらどうだろう?という発想で誕生したんです。これが結構はじめから評判がよくて。
トーストにお醤油を使うという発想が、インパクトが強いみたいなんですね。日本人でお醤油が嫌いな人、いないですよね。何も難しいこともしていないし、珍しいものも使っていない。パン、お醤油、のり、バター、これだけ。
でも皆さん真似をして作ってみるっていうんですけど、店で食べると家で作るのと違うって言ってくださるんです」
43年前の開店当時から、エースにはブレンド6種、ストレートコーヒー20種にバリエーションコーヒー20種、紅茶15種のメニューがある。多い。これは今も変わらない。店の内装も変わっていないという。
昭和46年というと、マクドナルドの日本1号店が開店した年。そして、ドトール1号店ができるのが昭和55年、スターバックスの日本1号店開店が平成8年だ。
この状況を鑑みると、当時いかに洗練された店だったかがイメージできる。
40年以上あまり店は変わっていないのだが、今年5月からモーニングを始めた。ワンコイン500円でのりトーストとブレンドがセットになる。ブレンドはお代わり自由だ。ブレンドの定価は420円だからかなりお得。朝の時間に余裕がある人にはイイ。

▲あちこちにメニュー紹介

▲毎日、新聞を読みにいらっしゃる常連さんも沢山います
定番メニューリストには、カフェハワイアン、ジャマイカンマジック、メキシカンバターコーヒー、ナッツミルクティー、プスタ風ジャムティーなどなど、気になる名前のものが並ぶ。英勝さんの勧めで、2杯目はメキシカンバターコーヒーにした。
これがまた結構好み! アイスコーヒーに使用するイタリアンロースト豆使用の苦みの強い濃いコーヒーに、バターを落とす。バターはみるみる溶けていく。不思議なコクのある、飲んだことのない味だった。また頼みたいな。

▲近年取材を受けた雑誌や単行本などが並ぶ。私が最初に取材した拙著も一番左にありました。その5冊隣も私の仕事です

▲メキシカンバターコーヒー
エースは、5年ほど前から取材を受けることが多くなった。そのことを、清水さん自身はどんなふうに捉えているのだろうか。
「ただコーヒーを飲みたいお客さんだけではなくて、他とは違った自分だけのお気に入りのお店が欲しい!という方が多いということではないのかなと思います。
初めて来られてのりトーストを頼むお客さんは、8割方携帯電話で写真を撮ります。そして、皆さんフェイスブックやツイッター、ブログ等で発信してくださる。
土曜日は14時までの営業なんですが、特に地方からのお客さんが多いです。ずっとのりトーストが気になっていて、東京へ来たついでにって立ち寄ってくださるんですね。とても嬉しいですよ」


▲サイフォンで淹れます
もちろん、店の魅力はメニューだけではない。店内のポップな看板はお休みの日に清水さんが手描きで作ったもの、見ているだけで一人で過ごしていても飽きない。
エースのカウンターは低いのだが、座ってみると不思議とカウンター内の英勝さんと目線の位置がほぼ同じ。これもすべて計算されたものだ。店を作るとき、カウンター内つまり厨房部分の土を30センチほど掘って低く作ってあるのだ。お客様を見下すような態勢でコーヒーを淹れたくはないし、高いカウンターだと座る方の居心地が悪いんじゃないか、そんな細かい心遣いも行き届いている。
どこにでもある材料を使っているというのりトースト。清水さんが作るとどうしてこんなに美味しいのだろう。その答えを、清水さんの話の中に見つけた。
「一番大切なのは、手を抜かないでちゃんとしたものを作っていくこと。心をこめて、気持ちをのせて作る。料理ってそうなんじゃないですか。
あとは、食べたいときに、人に作ってもらうっていうのも、料理の美味しさなんじゃないですかね。
毎日、ひとつひとつちゃんと作っています」

▲店主の清水さん兄弟。いつも誰でも温かく迎えてくださいます
日本人のDNAに組み込まれた味、お醤油を使っていることはもちろん、清水さんは何千回何万回と作ってきたのりトーストを、今日も心をこめて作っているのだ。
私はこの店を訪れると、100パーセントのりトーストを頼む。そして、だいたいカウンターに座って時間を気にせず話しまくってしまう。この日も楽しく話し、気になるメニューを試し、取材終了時、気づくと5杯もコーヒーを飲んでいた。3時間以上が経っていた。
「珈琲専門店エース」を楽しむための3か条
その1 何はともあれ、“のりトースト”。エースの代名詞を是非堪能してください。驚きの170円です
その2 ブレンドも美味しいです。でも店内を見まわして、気になったメニューを2杯目に試してみてください。新しいお気に入りを発見できるかも
その3 一人で行ったらカウンターに座ってみよう。緊張する?話したくない?人と極力関わりたくない?いやいや、いい店の喫茶店のカウンターは、とても居心地いいですよ
珈琲専門店 エース
電話 03-3256-3941
※お問い合わせの際はレッツエンジョイ東京を見たとお伝えになるとスムーズです
住所 東京都千代田区内神田3-10-6
最寄り駅 神田
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