第一回 ハヤシライスも、おでんもおしるこもある浅草の純喫茶

一人でどこかへ行ったり何かやったりすることを“ソロ活”というらしい。

私は、一人で本を読む時間が最高の楽しみという小学校時代を過ごした。子どもの頃から、比較的一人で過ごすのには慣れている。大人になって、大事な人達と過ごす楽しい時間の幸福感も十分に理解している。それでも一人で、行きたいときに行きたい場所へ行き、居たいだけ居るという時間は多い。いわばソロ活のプロ。(笑)一人で過ごす時間が多いと、行きたい場所へ行ける機会が格段に増える。

仕事柄ということもある。会社勤めをしていないから、仕事があれば土日関係なく労働し、仕事がなければ平日でも休みが取れる。また執筆と撮影を両方やることが多いので、取材でも一人は多い。


東京で暮らしていたり、東京出身でも、案外行動範囲は決まっていて、行ったことのない町は結構多い。

また、好きな喫茶店があるとその町の居心地はいい。喫茶が目的でなく町へ出ても、疲れたら喫茶店でひと息入れよう。美味しいコーヒーと居心地のいい空間、それがあるだけで“ちょっと今日はいい日”になるんじゃないか。

たぶん私が、用もないのに浅草へ年に数回来てしまうのも、浅草にいくつも好きな喫茶店があるから。

今日は浅草に来るとそれが遊びでも仕事でも、時間があれば立ち寄ってしまう喫茶店へ行こうと思う。

▲「ピーター」の外観

▲「ピーター」の外観

一番近い駅はつくばエクスプレスの浅草駅。東京メトロでいうと銀座線・田原町が近い。料理好きがわくわくする場所、かっぱ橋道具街の最寄り駅だ。だから浅草といっても、浅草寺周辺の観光地の雰囲気とはまるで別物だ。

▲外の窓にコーヒーの説明

▲外の窓にコーヒーの説明

▲店の入り口付近の席

▲店の入り口付近の席

店を訪れるとピーターママこと店主の左東正子さんが、今日も笑顔で迎えてくれる。

「今年で50年目なのよ」

開口一番左東さんはそういった。「コーヒーピーター」は昭和39年にオープン。

その2年後に、店を買い取る形で店主となった。それから48年が経った。

店主になって最初に取り組んだのは、自分の納得のいく美味しいカレーを出すこと。そう、この店カレーの美味しい喫茶店として、よく知られている。

カレーの注文が入ると、店中がいい香りに包まれる。

▲カレー普通盛り。飲み物付きのセットは並・900円 大・950円 小・850円

▲カレー普通盛り。飲み物付きのセットは並・900円 大・950円 小・850円

▲今日はセットでアイスコーヒーにしました。単品だとホット・アイスともに400円

▲今日はセットでアイスコーヒーにしました。単品だとホット・アイスともに400円

カレーは、左東さんが研究に研究を重ねて決めた味。昆布・かつおのだしで肉や野菜を煮込んでいる。お肉は豚バラ肉。肉・野菜ともに産地は決めていないが、必ず国産のものを使用する。普通盛りでも量はたっぷり、ひと品で満足してもらいたいという計らいから。普通盛りが630円、大盛り680円、小盛り580円。カレーのルウだけ頼んで、パンで食べる人もいる。パンは浅草の老舗人気店ペリカンのものを使用。

常連さんのリクエストで、あとから登場したハヤシライスも人気だ。私もいつも迷う。それから、おでんも、おしるこも、いそべ巻きもかき氷も一年中ある。たぶん、一年中頼む常連さんがいるからだ。最近はクリームソーダ人気が目立つ。若者たちが「昭和のメニュー」といって頼むらしい。わかるわかる、私もクリームソーダのビジュアルが大好きだ。

▲じわじわかわいいメニュー

▲じわじわかわいいメニュー

▲およそ30年前に描かれた壁画です

▲およそ30年前に描かれた壁画です

いつもは壁画前のソファ席に座ることの多い私、今日は入口近くの窓際の席を選んだ。ここからだと店全体が見えて、奥の壁画とテレビを見る常連さんの姿もよく見える。壁画は店の風景に完全に溶け込んでいる。

昭和60年のこと、店の常連客で『黄金バット』の作者のひとり一人であった、紙芝居作家で評論家の故・加太こうじ氏が店の突き当りの壁一面に、浅草にゆかりのある昭和のスター達を描いたものだ。

壁画の隅には『浅草公園六区で人気を高めた芸人などを描いた。今は昔、花の浅草は日本一の盛り場だった。』と書かれている。

日本の国民的スターはもちろん、「喜劇王」チャップリンも描かれている。チャップリンは浅草公園六区に数多くあった映画館のスクリーンで見られたため。 紙芝居は関東大震災直後の大正13年頃広まり、戦後から昭和三十年代に家庭にテレビが普及していくまでの間、子どもたちの楽しみとして欠かせないものだった。『黄金バット』は、その中でも大人気作品であった。

その加太氏の描いた壁画は、そのタッチも、そこに描かれるスター達もまさに昭和大衆文化そのものなのだ。

▲店全体はこんな感じ。今日座った辺りからの眺めです

▲店全体はこんな感じ。今日座った辺りからの眺めです

左東さんは、「このカレーと壁画がなかったら、店は続いていなかったんじゃないかな」と話す。どちらもかけがえのない店の財産。「ただ元気で、死ぬまで店をやりたい。それだけですね」と話を続ける。

開店から50年目を迎える現在も左東さんは日曜の定休日以外休まない。私もいつまでも店に通いたいと思う。

仕事の前に早めに浅草に着いて20分でもちょっと立ち寄る日もあるし、今日は時間があるから行こうとのんびりする日もある。ひとり一人でなく、友人とお茶をするために訪れる日もある。

私がこの店を幾度も訪れるのは、なんだかここへ来た日は、とてもあたたかな気持ちになって家路につけるから。コーヒーもカレーも美味しい、でもそれだけじゃない。左東さんの店を訪れる人への思いが、溢れている店なんじゃないかと思っている。

▲店の表でピーターママを撮影させてもらいました。「またねー」と言ってお別れ

▲店の表でピーターママを撮影させてもらいました。「またねー」と言ってお別れ

「コーヒーピーター」を楽しむための3か条

その1 ぜひこの店を訪れたらカレーを!でもハヤシもおいしいよ! おでんもかき氷も一年中あります。一人だとたくさん食べられないから、何度でも通って!

その2 店の突き当りの壁画もじっくり見ると、昭和の大衆文化が垣間見えます

その3 何度か通ってお店に慣れたらピーターママと話してみよう。その頃には自然と常連さんとの会話も生まれちゃいます。それは、ひとり一人で出かけるからこそ生まれる他者とのコミュニケーション

この場所の詳細

ピーター

電話:03-3844-5984

住所:東京都台東区西浅草3-13-1

最寄り駅:田原町

本記事内の情報に関して

※本記事内の情報は2014年10月07日時点のものです。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
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