切子をもっと身近に。体験もできる工房兼ショップ―東京ガラス工房「凛然」

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東京下町には、伝統的な技を受け継ぐ工芸品の工房が数多くあります。ただ、「伝統」という言葉のイメージで少し敷居の高さを感じ、遠ざけてしまう方もいるのではないでしょうか。

 

本連載「池田エライザが出会う 旧くて新しいmade in TOKYO」では、数ある工房の中でも伝統の技を受け継ぎながら、新しい発想をプラスして進化を続ける3つの工房をピックアップ。女優・モデルとして活躍しながら、映画監督や歌手として多彩な才能を見せる池田エライザさんと、その魅力を探ります。

凛然外観

第2話で訪ねるのは、江戸川区平井にある切子の工房兼ショップ「東京ガラス工房 凛然」。大手ガラスメーカーから独立した職人たちにより、2021年1月にオープンしました。

凛然店内

凛然では「より身近に切子に触れてほしい」という思いから、店内には体験スペースを併設。小皿に好きなデザインをカットできる切子体験(1回60分、4,000円)や、スクールも開催しています。

伝統の柄を進化させた芸術的で複雑なデザイン

凛然

入り口で出迎えるのは、藍色や紅色など伝統的な色合いの切子グラスたち。

 

池田さん(以下、敬称略):こちらのグラス、よく見る切子の色ですが、デザインは現代的な雰囲気のものが多いですね。

 

職人さん(以下、敬称略):実は、凛然のコンセプトは「モダンとクラシックの融合」なんです。伝統的な色・デザインの切子はもちろん素敵ですが、凛然ではより多くの方に手に取ってもらえるよう、現代人の感覚に合った、アート的で複雑な模様を多く展開しています。

凛然グラス

職人:例えばこちらのグラスは、伝統的な切子にはない曲線と、伝統的な柄の菊紋(グラス上部)を組み合わせています。菊紋自体は長く愛されている柄ですが、その菊紋を従来よりも細かく入れることで、より複雑で繊細な印象に仕上げています。

 

全国から素材を取り寄せ、多彩な色の作品を提案

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凛然切子は、豊富なカラー展開も特徴の一つ。店舗奥の窓際には、水色やオレンジなど、珍しい色合いの作品が光を受けて輝きます。

 

池田:わあ・・・!かわいい・・・!!淡い色の切子って、あまり見ないですよね。

 

職人:そうですね。凛然では、東京だけでなく北海道など地方のガラスメーカーから厳選したガラスを取り寄せることで、多彩な色の作品を提案できるようにしています。

凛然グラス

池田:2色使いの切子も素敵。瑠璃色とオレンジ色の組み合わせは、まるでステンドグラスみたいですね。


職人:はい、一般的な切子は透明なガラスに色ガラスをかぶせ、削ることで内側の透明な部分が模様となって現れます。「瑠璃オレンジ」はうちの店でも人気のカラーで、こちらはオレンジのガラスに瑠璃色のガラスを重ねてあります。そのため、削る前は瑠璃一色ですが、削るとオレンジ色が現れるんです。

 

池田:淡い色同士の2色グラスは、グラデーションにようにも見えますね。光の加減で表情が変わるので、見ていて飽きません。

美しい仕上がりの秘密は、手作業へのこだわりにあり

凛然グラス

まるで宝石のような輝きを放つ凛然切子ですが、高いクオリティを維持する秘密は制作の過程にあります。職人技を拝見したあと、池田さんも小皿のカットに挑戦していただきました。

 

職人:まず、凛然ではすべての工程を一人の職人が担当することはありません。それぞれの得意な工程を分担し、複数人で検品を重ねることで、基準以上のクオリティを出しています。その上で、すべての工程を手作業にこだわっています。


まずはカット。最初にグラス下部の太い線をカットし、その後は砥石をより目の細かいものに替えながら、網目状のマーカーに沿って細かなカットを繰り返し、整えていきます。

作業風景

池田:体験してみると、切子の難しさが分かります。あ!違うところに傷が入ってしまいました・・・。ガラスと砥石の遠近感がつかみづらいです。

 

職人:ガラスに厚みがあるので、思っているのと実際の距離に微妙なズレがあるんです。でも、初めてとは思えないほど上手ですよ。

作業風景

池田:線の太さを揃えるだけでも大変ですね。コツをつかむのが難しいですが、これはハマってしまいそうです(笑)。

 

職人:カットも大切ですが、もう一つ重要なのが磨きの工程です。薬品を使って楽に磨く方法もありますが、溶解や色褪せによって美しさが損なわれる場合があるので、私たちはすべての商品を手磨きで仕上げています。カットより長い時間をかけて、とにかく丁寧に。そうすることでエッジが残ったキリッとした印象になるんです。

 

池田:なるほど。細かなカットやデザインも、丁寧な磨きがあってこそ生きてくるんですね。

「シルバー×切子」異素材コラボで広がる切子の可能性

凛然

池田:アクセサリーも充実していますよね。デザインも、幅広い年齢の方に似合いそう。

 

職人:切子グラスは比較的、高齢層に好まれる品物なので。アクセサリーは若い方にももっと興味を持ってもらいたくて積極的に展開しています。若い時代から年配まで、長年にわたって切子に触れてもらえるのが理想ですね。

凛然ジュエリー

職人:こちらのアクセサリーはこの秋の新作なんです。凛然初の試みとして、異素材との組み合わせに挑戦しました。シルバーアクセサリーを得意とするジュエリーブランド「VACATION.Jewelry」とのコラボ商品なんですが、お互い伝統を大事にしつつ新しいものを生み出したい、という思いに共感して実現しました。

凛然
凛然

池田:身に着けた感じも存在感があって、シンプルなファッションのアクセントになりそう。きらめきつつ、透明感があるというか・・・宝石とはまた違った魅力がありますね。

先入観なく、純粋に作品を楽しんでほしい

凛然

池田:凛然さんの作品はすべて、個人名を出さずに発表されているとお聞きしました。

 

職人:そうですね、今回も名前や顔出しは遠慮させていただきました(笑)。分業しているので、作者が一人ではないというのもありますが、先入観を持たずに純粋に作品を見て欲しいという思いもあります。

 

池田:先入観を持って欲しくないというのは、分かる気がします。

 

職人:例えば、職人名や職人歴などの情報があると「ベテランの作品だから」「無名の割には」みたいな枕言葉がつきかねないんですよね。作品を見るときに、年齢や性別といった情報に左右されて欲しくないんです。

凛然

池田:確かに映画でも、レビューを見てから「レビュー通りか確認する」ために観に行く方がいますが、少しもったいないですよね。「この人の作品だから」というのは良い買い物だと思いますが、一方でブランドや名前、他人の評価といった付加価値にお金を払う方も多い。もっと純粋に買い物を楽しめばいいのにな、と思います。

気軽に切子の世界に触れられる楽しいスポット

凛然

池田:切子のカット制作は初体験だったのですが、ずっと気になっていたので、今日は念願がかなってうれしかったです(笑)。

 

こちらでは多彩な色の作品がありますが、実は一番気になったのは白・黒のペアグラス。オンラインショップではまだ未発売とのことで、こういった偶然の出会いも、足を運ぶ買い物の楽しみの一つだと感じました(11月12日よりオンラインショップでも販売予定)。

 

新作のアクセサリーをはじめ、今までにない作品を生み出す凛然さん。今後の作品も楽しみにしています。

東京ガラス工房 凛然
  • 所在地

    東京都江戸川区平井 5-42-6 1F

  • 最寄駅

    平井

  • 電話番号

    03-6231-9407

池田エライザ

池田エライザ

1996年4月16日生まれ。女優。福岡県出身。
2009年に『ニコラ』専属モデルとしてデビュー。2011年、映画出演をきっかけに女優として注目を集め、映画、ドラマと活躍の場を広げる。Netflix『FOLLOWERS』(2020年春配信)で演技の幅を開拓し、2020年には、映画『夏、至るころ』で映画監督も務めた。2021年は映画『騙し絵の牙』、『賭ケグルイ 絶対絶命ロシアンルーレット』をはじめ話題作品に多数出演。9月6日放送NHKよるドラマ『古見さんは、コミュ症です。』にヒロインとして出演。2022年公開映画『真夜中乙女戦争』が公開を控えている。

映画『真夜中乙女戦争』

映画『真夜中乙女戦争』

4月。上京し東京で一人暮らしを始めた大学生の“私”(永瀬 廉)。友達はいない。恋人もいない。そんな無気力なある日、「かくれんぼ同好会」で出会った凛々しく聡明な“先輩”(池田エライザ)と、突如として現れた謎の男“黒服”(柄本 佑)と出会ったことで、“私”の日常は一変。カリスマ的魅力を持つ“黒服”に導かれささやかな悪戯を仕掛けるなか、次第に“黒服”と孤独な同志たちの言動は激しさを増していき、“私”と“先輩”を巻き込んだ、壮大な破壊計画“真夜中乙女戦争”が秘密裏に動きだす…。
12月25日未明―痛々しくも眩しい物語は、予測不可能なラストへと加速していく。
2022年1月21日(金)公開。
出演:永瀬 廉、池田エライザ、柄本 佑 ほか
特別協力:TOKYO TOWER 配給:KADOKAWA ©2022「真夜中乙女戦争」製作委員会

取材・文/佐々木志野、写真/土佐麻理子

ヘアメイク/豊田千恵

スタイリング/Lim Lean Lee(りん りぇん りー)

衣装:トップス・ボトムス/beautiful people

アクセサリー:e.m.

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本記事内の情報に関して

※本記事内の情報は2021年11月10日時点のものです。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
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