映画監督・入江悠のミニシアターは止まらない!

ミニシアターは止まらない!


2020年4月より、新型コロナウイルスの影響で存続の危機に陥ったミニシアターを救うために、いち早く立ち上がり精力的な活動を続けてきた映画監督・入江悠さん。

10年ぶりの自主映画となる最新作の公開を控えた今、Hat!では「ミニシアターは止まらない!」と題し、入江監督による対談企画を全3回でお届けします。記念すべき1回目は入江監督とも縁深い「ポレポレ東中野」代表の大槻さんと。


「作品をつくっている人たちと映画館とは運命共同体」

ミニシアターは止まらない!

▲ポレポレ東中野、客席にて。

————まずは入江監督とミニシアターとの関わりについて、聞いてみたいです。

入江監督(以下敬称略) : やっぱり自主映画で撮った『SR』(『SR サイタマノラッパー』/2009年)の上映ですね。もともとは東京のミニシアターの1館からはじまって、そこから徐々に上映してくれる映画館が増えていって全国に広がっていったので、キャリアのスタートという感じですね。

そのあとの『神聖かまってちゃん』(『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』/2011年)も全国のミニシアターでも上映されているんですけど、この作品をプロデュースしたのが実は大槻さんで。それが最初の出会いなんです。

大槻さん(以下敬称略) : そうだね。その縁ではじまって、この前の4月にも『神聖かまってちゃん』の10周年のイベントに登壇してくれたけど、他にもなぜか入江くんの作品ではないのに、映画のトークイベントにもゲストとして登壇してくれたり・・・(笑)。いろいろと絡んでるよね。 

入江:ですね(笑)。ポレポレ東中野もそうですが、『SR』のときも『神聖かまってちゃん』のときも、数えきれないくらい全国のミニシアターをまわって、いろんな映画館の支配人とかスタッフさんと交流しているんです。

そこで、どうやって自分の映画をお客さんに観てもらうかということを学んだので、そういう意味でもやっぱり僕のキャリアの原点はミニシアターなんでしょうね。


————来月公開となる『シュシュシュの娘』は、コロナ禍の映画館や製作スタッフ、俳優を救うために自己資金とクラウドファンディングの支援金で作り上げたそうですね。昨年4月から入江監督は誰よりも早く活動をはじめていましたよね。

入江 : 昨年4月の時点でも、ほとんどの映画館が閉まっていましたからね。みんな休館して「しんどくなってきたぞ」という声も「これからしんどいな」という声もあがってきて。これは急いだほうがいいなとは思いました。そういう映画館の声がダイレクトに伝わってくるのもミニシアターの良いところなんですが(笑)。

それで、映画館の取り組みを ブログでまとめたんですが、こういうのは一過性のものとしてバッと広がるけど、映画ファンの人もこういう応援を続けることは厳しいじゃないですか。自分の生活すら危うくなっている中で、寄付を続けたり、Tシャツを買い続けたりなんて。そこで継続してできることって何かなと考えたときに、やっぱり「自主映画を作ろう」と思った。良いことも悪いことも、ミニシアターと一緒に味わっていく気持ちで。


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©2021『シュシュシュの娘』製作委員会

————「良いことも悪いことも」ですか。

入江 : そうですね。だって『シュシュシュの娘』にお客さんがたくさん入ると、おたがいに「やった!」って喜べるけど、逆に全然入らないと「すみません・・」みたいな感じですからね(笑)。作品をつくっている人たちと映画館とは運命共同体なので。そこは部外者として応援してるんじゃなくて、一緒に中に入ってやりたいなと思ってます。

大槻 : 同じようなことを、この前(井浦)新くんも言ってたね。「役者は撮影の現場が仕事場だと思われているんだけど、作品が上映される映画館も同じ仕事場なんだ」って。そうやって考えてくれるのは、映画館としてもうれしいなと思う。


「東京が文化的な意味で荒野になっていたら、それは僕らの責任だなって思う」

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————入江監督が考える、ミニシアターの魅力ってどんなところですか?

入江 : そうですね、例えばここ(ポレポレ東中野)ならここでしかやっていない作品がある。シネコンだとだいたい同じものを上映していますからね。

この前も撮っていたドラマ(『ネメシス』)が終わって、なんかいい映画を観たいなと思って探したら『海辺の彼女たち』(藤元明緒監督/2021年)ってのがあるぞと。この作品、ちょっと話題になっていたんですよね。あ、ポレポレ東中野でやってるんだ、よしじゃあ観に行くか、みたいな。そういう映画館ごとの色が分かってくるのも面白いですよ。


————それぞれの映画館の個性ですね。ちなみにポレポレ東中野はどんなイメージでしょう?

入江 : なんかね、あんまり固めすぎちゃうとつまらなくなるんですけど・・・。骨太な映画が多い気がしますね。といっても社会派というわけじゃない、世界が広がる感じですね。

大槻 : まあ一言でいえば、雑多だよね(笑)。ポレポレはドキュメンタリーを多く上映しているイメージがあると言われるんだけど・・・、僕はそんな風には思ってなくて。ドキュメンタリーと、海外の作品と、ピンク映画とか。そういうのを一緒に上映できる映画館でありたいと思ってる。

入江 : 確かに、雑多かもしれないですね(笑)。でも、僕はやっぱりポレポレさんによく観に来るのは自主映画ですよ。ここで観る映画は「すごい新人が出てきたな~」みたいな発見があるのが多いですね。これって大槻さんが目利きしているんですか?

大槻 : いや、僕一人でやっているんじゃなくて、どちらかというとスタッフがやりたいと言ってくるかな。彼らがやりたいと言ったものがあって、それを観て、(決める)という感じ。僕から「これはダメだよ」というのはないかな。


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————え、大槻さんからのNGはないんですか。

大槻 : うん、むしろ僕がこれいいんじゃない?って選んだ作品を、スタッフがダメと言うかな。

(一同、笑い)

入江 : 風通しがいいんですね(笑)。やっぱり目利きがいるというのがミニシアターだと思っていて。こういう映画を観るならポレポレさんとか、通っていると少しずつそういうのが分かっていくんですよね。

例えば神保町とかも、あの街を「古本屋街でしょ」って思っている段階ではまだまだ初心者で。通っていると徐々に細分化されていくじゃないですか。このお店は映画が強いとか、ここは演劇中心の書店だなとか。

大槻 : そうだね。みんなが雑多なことやっているように見えるんだけど、実は雑多の中にも個性がある。ミニシアターもそういう場所だと思う。


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————奥深いですね、東京の『街』そのものにも通ずるところがありそうですね。

入江 : うん、でも東京ってすごいですよ。世界的に見てもこんなに映画を観られる街はない。大槻さんも海外で過ごしてたから分かると思いますけど、ニューヨークでもこんなにないですよね。

大槻 : こんなに恵まれた都市はないよね。東京が一番。僕の場合は大学時代をシカゴで過ごしてたんだけど、やっぱりこれだけ世界の大作から自主映画まで、コンスタントに観ることができるっていうのは東京だけだと思うね。他の都市でも特定の期間だけフェスティバルとかで上映する場合はあるんだけど、東京のミニシアターでは日常的に観られるでしょ。これは珍しいよね。

ただ、今回のコロナウイルスの影響でそれが減るんじゃないか、そういうものに出会う機会が減るんじゃないかって、その危機感はあるかな。

入江 : そうですね、だからミニシアターを守ろうっていう運動もそういう意味があって。僕の子供時代は埼玉県の田舎だったので、ミニシアターがすごい遠かったんです。イメージとしては西部劇の・・・荒野みたいな(笑)。あのまっさらな感じ、伝わるかな。東京もそうなる可能性があるなと。僕は40代になったけど、コロナが去っていざ60、70代になったときに、東京が文化的な意味で荒野になっていたらそれは僕らの責任だなって思う。だから守らないといけない。

一方で、若い俳優さんとかで東京に住んでるのにミニシアターに通わないっていうのは、本当にもったいないなと思う。

大槻 : そうだよね。東京は地下鉄に乗ったらいくらでも映画館をまわれるからね。


「ただ、やっぱりこの先ミニシアターがなくなることはないよね」

————東京のミニシアターでしか出会えない映画が多くありますよね。一方、コロナ禍ということもあってオンラインでの配信も盛んになっています。改めてミニシアターの役割ってなんでしょう。

入江 : これは面白いエピソードがあるんです。シカゴで映画プロデュースを学ばれたこともあってか、大槻さんは出会った時からあんまり支配人というイメージがないんですけど・・・(笑)。『神聖かまってちゃん』の初上映のタイミングに合わせて、ニコ生でも同時配信しようって言いだして。普通は支配人として劇場にお客さんを集めたいから、ネットの配信は嫌がるはずなんですけど、大槻さんはノリノリで「やろうよ!」って言ってて(笑)。


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©2011 『劇場版 神聖かまってちゃん』制作委員会

大槻 : うん、やりたかったんだよ(笑)。初日の2011年4月2日。ここと下北沢(トリウッド)で、同じ時間に劇場とニコ生でやろうってみんなに提案して。入江くんのほうが、なんか最初は複雑な顔してなかったかな。

入江:そうでしたっけ(笑)。でも普通、映画館のひとは映画館に観に行くっていう文化を大事にするんですけど、なぜか大槻さんはいちばん積極的で。それが面白いなって思いましたよ。

大槻 : そういえば、あのとき震災直後で電気を使っちゃダメ、営業を自粛しないといけない、夜の街に出ちゃダメ・・・っていう状況のなかで映画館として震災のチャリティ企画もやったし。なんか去年と似ているよね、それを入江くんと一緒に乗り越えた感覚があるね。

入江 : それこそ、『神聖かまってちゃん』は編集のときに余震が続いてましたからね。一緒に乗り越えた体験は貴重でした。


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————そうした経験を経て、やはり大槻さんは映画館とオンライン配信は別物だと思いますか?

大槻 : うん、完全に別物。どっちがどっちかを食うってことは絶対にないと思う。配信を観た人たちにとって作品が面白かったら、次は映画館に観に行くだろうし。映画館で観て「もう一回!」って思ったら配信で観ると思う。どっちが優れている、劣っているということではなく、観るということ自体は一緒なんだよね。だって、僕自身がいちばん最初に映画を観たときの記憶はテレビなんですよ。テレビで映画を観て「面白いな!」というのがきっかけなんだよね。

入江 : なるほど、たしかにそうですね!

大槻 : テレビで(放映されている)映画を観て、面白いと思って映画館へ行くようになって。テレビでも映画館でも観られないものがあるってなったら、今度はレンタルビデオ屋で借りてきて、テレビで観るんだよね。だから何も映画館だけを特別にしたり、いちばん上にする必要はない。ホントに面白いものはテレビだろうがフィルムだろうが配信だろうが、どこで観ようが変わらない。ただ、映画館に行って観た映画っていうのはなかなか忘れない。映画館に行って観た作品は「体験」として記憶に残りやすいんだと思うね。


ミニシアターは止まらない!


入江 : 面白いですね。なんか、いい話だなと思いました。僕は映画の世界に入ってきて、映画館で上映する作品を撮っているから、どうしても映画館の環境を意識してしまうけど、よく考えると確かに最初はテレビだったなと。

大槻 : うん。ただ、やっぱりこの先ミニシアターがなくなることはないよね。それは楽観的に捉えているわけじゃなく、知らない人とでも映画館のなかで一緒に同じもの観るっていうのは体験としての価値があがるんじゃないかなと思うから。

入江 : その通りだと思います。最近、シネコンはどんどん無人化が進んでいて、お客さんも事前に予約して目当ての作品を観たらそのまま帰っちゃうし、チラシすら置いてなかったりするんだけど、ミニシアターは違いますよね。さっきも僕がここに来たときに、お客さんが看板を見て上映作品をチェックしてたんですけど・・・。そういう時代が取り残されている感じとか雑多な感じ、そこにミニシアターならではの価値があるって思います。


ポレポレ東中野
所在地:中野区東中野4-4-1ポレポレ坐ビル地下2F
電話番号:03-3371-0088
最寄駅:東中野



入江 悠(いりえ ゆう)

1979年、神奈川県生まれ、埼玉県育ち。
03年、日本大学芸術学部映画学科卒業。09年、自主制作による『SR サイタマノラッパー』が大きな話題を呼び、ゆうばり国際ファンタスティック映画オフシアター・コンペティション部門グランプリ、第50回映画監督協会新人賞など多数受賞。『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』(11)で高崎映画祭新進監督賞。その他に『ジョーカー・ゲーム』(15)、『22年目の告白』(17)、『ビジランテ』(17)、『AI崩壊』(20)など。2021年は『シュシュシュの娘』と『聖地X』の公開を控えている。

[Twitter] @U_irie



<大槻さん厳選!「ポレポレ東中野」の周辺グルメ>

1. Space&Cafe ポレポレ坐

「ポレポレ東中野に併設したカフェです。名物はキーマカレー。映画を観るまで時間をつぶしたいときも、観たあとの余韻に浸りたいときも、気軽に使ってください。上映作品とのコラボメニューも不定期で提供してますよ」

Space&Cafe ポレポレ坐
所在地:東京都中野区東中野4-4-1 ポレポレ坐ビル1F
電話番号:03-3227-1445
最寄駅:東中野



2. PAO Caravan Sarai(パオキャラヴァンサライ)

「アフガニスタン料理のお店で、とにかく日本人の口に合うんです。ここでぜひ食べてほしいのはカラヒィ(鉄鍋料理)と、アフガニスタン風ナン。手の込んだ料理ばかりで、お酒にも合うし、本当におすすめですよ」

PAO Caravan Sarai
所在地:東京都中野区東中野2-25-6 1F
電話番号:03-3371-3750
最寄駅:東中野



3. 十番

「東中野の定番といえばここですよ。最近は割と若い女性が一人で食事をしているのをよく見かけるようになりました。タンメン、餃子、そしてビール。シンプルに美味しいものを食べるなら十番でしょう」

十番
所在地:東京都中野区東中野3-7-26
電話番号:03-3371-0010
最寄駅:東中野



取材・文/東 紗友美
撮影/西谷 圭司

※2021年7月28日時点の情報です。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
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