野心に燃える男と女の休息デート

♥私は、古い建物を愛し、新築超高層マンションや巨大ビルのそびえたつ風景にはちょっと嫌悪感を持ち、道ばたの鉢植えを愛でながら身の丈にあった生活をすることでそれなりに満足できる人間です。基本的には。

でも、それと対極の、野心、出世欲、名誉欲にどっぷり浸かった生活にもうっすらと憧れがあるんだ! だから今回の私は芸能人だよ。自分の容姿を想像すると冷めるけど、そこには目をつぶる! 山陰の田舎町から上京してきて、グラビアを経て最近はバラエティなどにも出るようになった25歳ということにさせていただく。

♥そんな私は、六本木や麻布ではあまり飲みません。仕事がらみの用事ではその辺で飲むこともあるけど、プライベートではもうちょっと落ち着いたところに行きたいからね。

ということで、収録が終わった夜、向かったのは代々木公園駅そばです。駅から代々木上原方面に少し歩いていくと、閑静な住宅街の中に、ひっそりと雰囲気のいいバーがあるのです(いやもちろん想像ですが、この地域ならそんな店があるはず。絶対ある)。

そこで落ち合うのは、山手通り沿いのマンションの最上階に住む32歳のIT関連会社社長。以前にパーティーで知り合って以来、たまたま家が近かったこともあって仲良くなり、週に何回かはここのお店で飲むようになったのです。お店のオーナーは彼の古くからの知人で、信頼できる人。

こうして頻繁に会い、たまに車でデートにも行く私たちはつきあっているのだと思う。この世界でやっていくためには将来設計も大事だし、私はいろんな面で安心できる人と結婚することを近い目標として考えていた。でも、いくら打算的に考えようとしても、ことが結婚となると少しロマンチックにならざるをえない。

♥彼のセンスは悪くないと思う。いつも仕事で一緒になる業界の人とまったく違った見地で話が聞けるのもおもしろい。ただ、もうちょっといろんな人に会って、わくわくする気持ちを思い出してみてもいいのかなぁ……なんて思いつつ、私は彼とわかれて今日は一人で家に帰る。広々とした山手通りを歩いていると、輝く新宿のビル群が見える。ふと、故郷の夜空を思い出す……。

って今回は自分と住む環境も考えも違う人に挑戦したので、すごい難しかったよ! でも代々木公園~上原のあたりのこじゃれたバーにはマジで誰か連れてってほしい!



文・イラスト:能町 みね子さん


能町 みね子さん
能町 みね子さん

能町 みね子さん

文筆業兼イラストレーター。「オカマだけどOLやってます。」でデビューし、近刊に「『能町みね子のときめきデートスポット』、略して 能スポ」(講談社文庫)「ときめかない日記」(幻冬舎文庫)など。「久保みねヒャダ こじらせナイト」にも出演中。
https://twitter.com/nmcmnc

※この記事は、レッツエンジョイ東京のフリーペーパー「東京トレンドランキング」2012年9月号(8/20発行)に掲載されたものです。
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※本記事内の情報は2015年12月16日時点のものです。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
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