第五回 かしこまっていない名曲喫茶は、敷居も高くない。一人で過ごすのにも最適
店主は新井富美子さん。昭和2年生まれで、今年の初夏に米寿を迎える。静かににこやかに毎日お客様を迎える。この日は花柄のベレー帽とエプロン姿。素敵な女性だ。
亡きご主人と二人で始めた店だが、ご主人は33年前に他界。それから、30数年、一人で店を続けてきた。
『名曲喫茶』というと、皆がスピーカーの方向を向いて座り、私語厳禁、音楽を聴くことに集中しなくてはいけないのかな?と思ってしまう。そういう店だと、初めての客にとっては入店のハードルが高くなってしまうが、「でんえん」はそんなに厳しくない。例えば、二人で訪れても会話もOKだ。もちろん一人で音楽を聴きたい他の客に対しての配慮が必要ではあるが、とはいっても、求められるのは当たり前のマナーのレベルのもの。この気楽さが、一人にとってももちろんいい。
開店当時は当然CDなど存在していなかったからレコードのみだったが、今はレコードとCDの両方をかける。傷んだためにだいぶ処分してしまった、と新井さんはいうが1000枚近いレコードがある。店には「レコードリスト」というファイルがあって、それを見てリクエストも可能。リクエストがなければ、新井さんが曲をセレクトしてかけている。そのセレクト方法についてこう聞かせてくれた。
「私は主人ほどクラシックには詳しくありませんが、このお客様はこういうのがお好きかな?って自分で判断して、CDやレコードをいつもかけています。外れることもありますけれど(笑)。そうするとね、あ、私この曲聴きたかったのよって言ってくださる方もいます。長年の経験ですかね。
私は、あまり深刻な雰囲気になっちゃうような曲はかけたくないんです。皆さんがクラシックに詳しいわけでもないから。あまり暗くなくて、重くなくて、感じのいい曲を、と心がけてかけています。『でんえん』へ行って、いい時間を過ごしたなって思っていただきたいですからね。CDの音は完璧で面白くないですね。やっぱりレコードの音はやわらかくていいです」
自分が店に入って、どんな曲がかけられるのかこれからは注目したい!と思うお話だ。
店には、食べ物のメニューはほんどない。唯一あるメニューは自家製のレアチーズケーキ。珈琲とよく合うから私もこれ、大好き。やはりセットで頼む人が多い。
40年くらい前から出しているメニューなのだが、新井さんの娘さんがどこか外国のホテルのシェフに聞いたレシピで作っているのだそう。「娘に聞いてももうどこで教えてもらってきたか忘れちゃったっていうのよ!」と新井さんは笑う。どこの国の人が考えたレシピなのかは謎のままだが、珈琲に合うのは間違いない。
店に響くクラシック音楽を聴きながら、チーズケーキと珈琲を楽しむ。たまには本も読まずに、手紙も書かず、ただ座っているのもいい。そんな古くて新しいひとりの時間の過ごし方ができる店だ。
名曲喫茶でんえんを楽しむための3か条
その1 まずは昭和32年から変わらない、店の佇まいを楽しんで
その2 一人で行ったら、自分が入店したらどんな曲をかけてくださるのか少し注目してみよう
その3 店にあるレコードリストで、好きな曲・レコードで聴いてみたい曲がある人は、ぜひリクエストを(他のお客様もいるので、暗い曲ばかりセレクトしないでね)
でんえん
電話 042-321-2431
住所 東京都国分寺市本町2-8-7
最寄り駅 国分寺
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