友禅職人が染める白革の小物―文庫革専門店「浅草文庫」
東京下町には、伝統的な技を受け継ぐ工芸品の工房が数多くあります。ただ、「伝統」という言葉のイメージで少し敷居の高さを感じ、遠ざけてしまう方もいるのではないでしょうか。
本連載「池田エライザが出会う 旧くて新しいmade in TOKYO」では、数ある工房の中でも伝統の技を受け継ぎながら、新しい発想をプラスして進化を続ける3つの工房をピックアップ。女優・モデルとして活躍しながら、映画監督や歌手として多彩な才能を見せる池田エライザさんと、その魅力を探ります。
第3話でやって来たのは、雷門通りに店を構える「浅草文庫」。真っ白になめした革に、独特な加工を施した「文庫革」製品の専門店です。
元は着物メーカーからスタートした同店。時代とともに着物の需要は減ったものの、伝統の技術を活かし、何か新しいものが作れないかと試行錯誤を重ねるなか、この「文庫革」にたどりついたそう。着物作りで培った友禅の技術を活かし、色彩豊かで細やかなデザインの商品を多く取り揃えています。
2種類の友禅を組み合わせて実現した、繊細なデザイン
華やかでモダンな革小物は若い方にも好評とのこと。浅草本店の店内には財布をはじめ、カードケースやスマホケース、腕時計などさまざまな小物が並びます。
池田さん(以下、敬称略):革製品って、長く使うほどに馴染んで表情が変わるのが魅力ですよね。私も大好きなんですが、「文庫革」は初めて聞きました。柄に合わせて凹凸がありますが、こちらが文庫革の特徴なんですか?
店舗スタッフ:そうなんです。文庫革は姫路の伝統的な工芸品である白くなめした革に、凹凸と彩色を施したものなんですが、うちでは少し珍しい作り方を取り入れています。いわば、姫路生まれ、浅草育ちの文庫革ですね。
通常、文庫革は凹凸をつけた革に、手描きで彩色を施していくんですが、うちでは「型友禅」と「手描き友禅」という2種類の方法で彩色し、最後に凹凸をつけています。実際の様子はぜひ工房で見て欲しいのですが、この方法により従来よりも細かなデザインが可能になりました。
池田:キャラクター商品も多いですね。ピーターラビットに…このピカチュウとイーブイも、すごく可愛い!
店舗スタッフ:うちはデザインの再現性が高いので、メーカーさんなどから別注オーダーのお話を頂くことも多いんです。これまで、「美少女戦士セーラ―ムーン」「ムーミン」「カードキャプターさくら」「夏目友人帳」「ふなっしー」などの人気キャラクターの別注オーダー商品も手掛けています。
着物メーカーならではのアイデアで生まれた、新しい文庫革
今回は特別に作業の様子を見せていただけるとのことで、浅草橋にある工房へ。職人さんたちの作業に池田さんも興味津々の様子。
工房スタッフ:彩色は、まず型紙を使って色を付ける「型友禅」を施します。色ごとに型を変えながら重ねることで多色の柄が出来上がります。色数はデザインによって違いますが、さっき店で見ていただいた「花菱」は18色なので、この工程を18回繰り返します。
池田:18回も!まったくズレることなく色を重ねるのは、まさに職人技ですね。
工房スタッフ:型友禅の後は、「手描き友禅」で細かい部分を彩色していきます。花びらの中心部分などに手描きで彩色を加え、より自然な陰影や濃淡をつけていきます。
池田:型友禅だけでも素敵ですが、確かに手描きが加わると立体感が出て、印象が全然違いますね。
工房スタッフ:手描き友禅の後は型押し。加熱した金型でおよそ100トンの圧力をかけてプレスし、柄を浮き上がらせます。あとは色焼けや傷を防ぐコーティングをして、裁断・縫製を経て商品になります。
池田:改めて工程を見せていただくと、非常に時間と手間をかけて作られているのを実感します。
工房スタッフ:そうですね。文庫革では「型友禅」を行っている工房は少ないんですが、型友禅と手描き友禅、両方の技術を持っていることが元着物メーカーである「浅草文庫」の強みです。
モノづくりにおける“創作と商業”。多くの人の感性に寄り添うために。
実は、浅草文庫の商品のほとんどを一人でデザインしているのは取締役常務兼デザイナーの齊藤直樹さん(写真右)。モノづくりにおける“創作と商業”について、池田さんも共感できる価値観があったようです。
池田:齊藤さんは、もともと小物のデザインなどをされていたんですか?
齊藤さん(以下、敬称略):昔は着物メーカーとして、振袖などのデザインをしていました。着物は形が決まっているので、変えられるのは色と柄だけ。そういう意味では、浅草文庫の小物もお財布など形が決まっているので、似たところはあるかもしれません。
池田:そうなんですね。私、中学生の頃から着物モデルのお仕事をしていたんです。その時にいろんな和柄を知って、ルーツや意味についても学びました。小花柄は明るい気持ちになれますし、大輪の花は大胆な気持ちになれる。どれも、人の心が躍るきっかけがありますよね。
齊藤:当時、口酸っぱく言われたのが「おまえは作家ではなく、商業デザイナーなんだ。一人でも多くの人に寄り添うものを作れ」ということ。私は油絵を描いていて作家志向の面もあったので、最初は苦しかったですね。
池田:私の仕事でも、商業として割り切らなければいけない部分があります。でも、大衆に向けて作るというのは、多くの人の感性に寄り添うこと。そういうプロフェッショナルな精神も素敵だと思います。
と言っても、私はあまのじゃくなので、お店の隅っこにある商品を選んでしまうところがあって(笑)。決して目立たなくても、きっと誰かが作りたくて作ったもの。そういうものに魅かれるし、お金を払いたいと思ってしまいます。
齊藤:分かります(笑)。
齊藤:デザインするものは着物から革小物に変わりましたが、ものづくりへの情熱は変わらないですね。大きかったのは、いろんな別注オーダーの依頼をいただけたこと。キャラクターものはアニメーターさんの絵をもとにデザインするんですが、「こんな色使いがあるんだ」とか、自分にはない感性に刺激をもらっています。
池田:染め物の専門ではないアニメーターさんの感性が加わるからこそ、意外な色の組み合わせやデザインを生むのかもしれませんね。それが、伝統を古くしない原動力になるというか。
伝統=古き良きものって言われると間口が狭くなりますけど、現代的なものと融合させることによって受け入れられ、続いて行く気がします。
再現性の高い浅草文庫のデザイン。今後の作品も楽しみ!
池田:今日はありがとうございました。お話を聞き、職人さんたちの作業を見学して、ひとつの商品にかかる手間と時間を肌で感じました。
お店でたくさんの商品を拝見しましたが、伝統的な和柄はもちろん、アニメキャラクターの商品などバラエティの豊かさに驚きました。今後もどんなデザインが生まれるのか楽しみにしています!
〒111-0032
東京都台東区浅草 1-10-2
浅草駅
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浅草駅
映画『真夜中乙女戦争』
4月。上京し東京で一人暮らしを始めた大学生の“私”(永瀬 廉)。友達はいない。恋人もいない。そんな無気力なある日、「かくれんぼ同好会」で出会った凛々しく聡明な“先輩”(池田エライザ)と、突如として現れた謎の男“黒服”(柄本 佑)と出会ったことで、“私”の日常は一変。カリスマ的魅力を持つ“黒服”に導かれささやかな悪戯を仕掛けるなか、次第に“黒服”と孤独な同志たちの言動は激しさを増していき、“私”と“先輩”を巻き込んだ、壮大な破壊計画“真夜中乙女戦争”が秘密裏に動きだす…。
12月25日未明―痛々しくも眩しい物語は、予測不可能なラストへと加速していく。
2022年1月21日(金)公開。
出演:永瀬 廉、池田エライザ、柄本 佑 ほか
特別協力:TOKYO TOWER 配給:KADOKAWA ©2022「真夜中乙女戦争」製作委員会
取材・文/佐々木志野、写真/土佐麻理子
ヘアメイク/豊田千恵
スタイリング/Lim Lean Lee(りん りぇん りー)
衣装:トップス・インナー・ジャケット/MAISON SPECIAL
- 本記事内の情報に関して
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※本記事内の情報は2021年12月08日時点のものです。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
※本記事中の金額表示は、税抜表記のないものはすべて税込です。
※撮影カット以外ではマスク着用を徹底するなど、当日は取材先とスタッフの安全に配慮して取材・撮影を行いました。