透明な飴細工「金魚」で飴細工界に革新を―浅草飴細工 「アメシン」

東京下町には、伝統的な技を受け継ぐ工芸品の工房が数多くあります。ただ、「伝統」という言葉のイメージで少し敷居の高さを感じ、遠ざけてしまう方もいるのではないでしょうか。
本連載「池田エライザが出会う 旧(ふる)くて新しい made in TOKYO」では、数ある工房の中でも伝統の技を受け継ぎながら、新しい発想をプラスして進化を続ける3つの工房をピックアップ。女優・モデルとして活躍しながら、映画監督や歌手として多彩な才能を見せる池田エライザさんと、その魅力を探ります。

第1話目で訪ねるのは、日本随一の技術を誇る伝統飴細工専門店『浅草 飴細工「アメシン」花川戸店』。アメシンでは、できあがった作品だけでなく作る過程も楽しんでもらうため、実際に飴細工作りを体験することもできます。

店内には、お菓子よりアートと言ったほうがふさわしい、繊細な飴細工たちが並びます。金魚やカエルなどアメシンを代表する透明感のある飴細工(2,980円~)をはじめ、パンダやペンギンなどの動物をモチーフにしたミニサイズの飴細工「ちょこざい飴」(980円)などがずらり。

和柄が施された「うちわ飴」(630円)は、ギフトとしても人気です。夏には朝顔やとんぼ、秋には紅葉に鹿、菊の花など、季節に合わせてさまざまな柄が並びます。
池田さん(以下、敬称略):たくさん柄があるから、どれもかわいくて迷いますね。
店舗スタッフ:はい、うちわ飴には伝統的な和柄をモチーフとして多く取り入れているんですが、それぞれの柄に意味や願いが込められています。「鶴」や「亀」、「梅にウグイス」は縁起物なので結婚式のギフトとしても人気があります。秋の柄ですと、例えば桔梗には「除災、運気向上」、月・波・ウサギを組み合わせた柄には「繁栄、飛躍」の意味があるんです。
池田:なるほど。絵柄で選ぶのも、意味や願いで選ぶのも楽しいですね。
まるで魔法のような職人技。飴の塊がたった5分でアート作品に

アメシンの代表を務めるのは、それまで白く不透明なものが主流だった飴細工業界に、透明な飴細工で革新をもたらした飴細工師、手塚新理さん。代表作である「金魚」を実演していただきました。
手塚さん(以下敬称略):基本的な材料は水飴と砂糖。鍋の温度は90℃に設定していますが、取り出した瞬間からどんどん冷えて固まってきます。(鍋から飴を取り出しながら)もう70℃くらいまで下がったかな。
池田:今取り出したばかりなのに、本当に時間との闘いですね。
手塚:そうなんです。5分くらいで固まってしまうので、短時間でどれだけ形にできるかは、職人の技術力が試されます。
道具はハサミだけ。江戸時代は砂糖が貴重だったので、ムダにしないよう切り落とさずに形を整えていきます。
池田:すごい、話してる間にもう金魚になってる。おなかのぷっくり感、ちゃんと内臓が入ってる感じがします(笑)。本当に生きてるみたい。
手塚:はい、あとは小さなヒレをいくつか作って、形は完成です。
池田:金魚ってこんなにたくさんヒレがあるんですね。今まで知ったつもりになって、ちゃんと見ていなかったんだなと気づかされます。
手塚:飴細工ではデフォルメされた形の生き物を作ることが多いんですが、私は写実性にこだわっています。だから、ヒレなどはあえて左右非対称にしたり。飴が固まる数分間でどこまでリアルにできるか、常に挑戦しています。
飴細工師の手仕事に、池田エライザさんも初挑戦
職人技に感動したところで、池田さんも飴細工でのウサギ作りに挑戦することに。実際の体験教室(大人3,100円)でも、初体験の方はウサギを、2回目以降の方は、イヌやネコなどを作ることができます。
手塚:ハサミの冷たさでも温度が下がってしまうので、切るときも手早くするのがコツです。表面が冷えても、中の方はまだ温度が高いので、切ってすぐなら指で形を整えることができますよ。
池田:どこにどうハサミを入れようか考えているうちに、飴が垂れて形が変わってしまう。本当に難しいですね。

池田:なんとか完成しましたが、今回は少し悔しい仕上がりになってしまったので、また挑戦したい。私、白ネコを飼っているので、次回はぜひそのネコを作りたいです。
手塚:そういった理由でリピーターになってくださる方もいます。うちはオーダーメイドもできるので、ペットをモチーフに作って欲しいというリクエストも多いんです。
池田:私も、家のネコと鳥をぜひ作って欲しいです。寿命があるからこそ飴細工として形にすることで、その思い出も一緒に残せる点がすてきだと思います。
「伝統」にとらわれないからこそ、進化を続けるアメシンの飴細工

アメシンには、代表を務める手塚さんをはじめ、現在9名のお弟子さんが所属。店内では、お弟子さんが製作した販売商品の他に、手塚さんの代表作(非売品)も間近で見ることができます。
手塚:私自身は独学ですが、職人の世界って弟子入りして何年も無給で修行するイメージですよね。でも、そのやり方はもう無理だと感じていて。
池田:あの技術を独学で身に着けられたんですか?
手塚:自宅の台所で特訓しました(笑)。弟子入りしようにも飴細工職人がほとんどいませんでしたからね。それに、結局自分で試行錯誤するしかない部分が大きいので。それでも教えられることは弟子に伝え、ある程度力がついたら店頭に並ぶ商品作りを任せています。

池田:実際に販売する商品を作るとなると、かなりのプレッシャーがかかりそうですが、職人としての自覚が強くなるでしょうね。
手塚:そうなんですよ。最初は店に並べる商品も全部自分で作っていたんですけど、それだと弟子はなかなか成長できないし、モチベーションも下がってしまう。でも、店の商品作りは任せると伝えたとたん、めきめき成長し始めたんです。おかげで私は、イベントでの制作実演など自分の挑戦に注力できるようになりました。
伝統を守るという言い方がありますが、長く続いているものって、むしろ攻めの姿勢でいろいろ工夫してきたからこそ、今も生き残っているんですよね。「飴を透明のまま細工できないか」というアイディアも、昔からある飴細工をより良いものにしたいと考え続けて生まれたものですし。私自身も、もっと腕を磨いて進化し続けていきたいです。
「楽しい!」って、体験する一番の醍醐味

池田 : 今日はありがとうございました。飴細工師さんは、お祭りなどで拝見したことがあって、かなり尊敬していたんですが、これほど時間との闘いの中で作品が生み出されているとは知りませんでした。何より、作っているのを拝見するのも自分で作るのも、本当に楽しかった。下手でもみんなで笑えたり、その思い出も含めて、「楽しい」って記憶に残りますよね。体験の醍醐味ってそこだと思います。
無料で見られたり、さわれたりするコンテンツが多い世の中で、そもそもお金を払って、自分で判断して体験するっていうことは、価値が大きい。私も映画や音楽というお仕事をする中で、それを実感しています。アメシンさんの飴細工は、お金を払ってでも体験したい価値がある。またぜひ、お邪魔させていだだきます。
浅草 飴細工 アメシン 花川戸店
所在地:東京都台東区花川戸2-9-1 堀ビル1F
電話番号:体験教室について 080-9373-0644(木曜日を除く10:30~18:00)
オーダーメイド、商品、出張体験教室について 03-5808-7988(木曜日を除く11:00~18:00)
最寄駅:浅草


映画『真夜中乙女戦争』
4月。上京し東京で一人暮らしを始めた大学生の“私”(永瀬 廉)。友達はいない。恋人もいない。そんな無気力なある日、「かくれんぼ同好会」で出会った凛々しく聡明な“先輩”(池田エライザ)と、突如として現れた謎の男“黒服”(柄本 佑)と出会ったことで、“私”の日常は一変。カリスマ的魅力を持つ“黒服”に導かれささやかな悪戯を仕掛けるなか、次第に“黒服”と孤独な同志たちの言動は激しさを増していき、“私”と“先輩”を巻き込んだ、壮大な破壊計画“真夜中乙女戦争”が秘密裏に動きだす…。
12月25日未明―痛々しくも眩しい物語は、予測不可能なラストへと加速していく。
2022年1月21日(金)公開。
出演:永瀬 廉、池田エライザ、柄本 佑 ほか
特別協力:TOKYO TOWER 配給:KADOKAWA ©2022「真夜中乙女戦争」製作委員会
取材・文/佐々木志野、写真/土佐麻理子
ヘアメイク/豊田千恵
スタイリング/Lim Lean Lee(りん りぇん りー)
衣装:ワンピース/UJOH

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※本記事は2021年10月13日時点の情報です。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
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