合わない二人の市ヶ谷坂上&坂下デート
♥私は運命のいたずらで、まるっきり趣味の合わない男と付き合うことになったのである。付き合ってみると、私のやることには干渉してこない人だったので楽だったのだけど、いつも私は「こんなんでいいんだろうか」と思いながらデートをしている。……って、もちろん前提からして妄想なんですが、ご了承ください。続けます。
今日は彼が、釣り堀にでも行かないかという。
ちょうど暑くなってきた今日この頃ですが、インドア派の私は汗をかくのが嫌いです。なるべく夏は日なたを避けて室内にいたいのに。
でも、私も釣り堀は気になっていた。JR総武線の市ヶ谷駅ホームから見渡せる、お濠の中の謎のスペースにある釣り堀です。しかし私は釣りなんてやったことないしなあ。
消極的な私ですが、当日は運よく曇っていたので日ざしは弱く、風もあるので、外を出歩くのもそこまで苦痛ではない。このくらいの気候だったら少し散歩してもよさそう。
♥南北線の市ケ谷駅で降りて釣り堀に行くはずだった私たちですが、私のわがままで逆方向へ。とんでもない勾配の左内坂は避けて、裏道から「大日本村」を目指します。
「大日本村」とは?……市ヶ谷から北西に坂を上ったあたりには大日本印刷の古い工場が建ち並び、道をまたいで工場専用の通路が張りめぐらされていたりして、東京の中心にありながらプチ工業地帯となっている。大日本印刷関係の施設ばかりなので、このへんの通称を「大日本村」と呼ぶのである。そして私は、このあたりを散歩するのが好きなのです!
しかし釣り好きの彼は、街歩きにまったく興味がない。私が釣りに付き合う代わりに、先に私の趣味に付き合ってもらったわけなのだ。
♥周辺をぐるりと回ったら坂を下りて釣り堀へ。正式名称は市ヶ谷フィッシュセンターと言うらしい。彼に教えられながらぎこちなく人生初めての釣りに挑戦します。JR駅のお客さんたちに見下ろされる場所で釣りをしていることがちょっと面白い。
「大日本村、どうだった?」「いや、そう言われても別に……。釣りもおもしろかっただろ?」「えー、別に……」
こういう風にかみあわない二人だけど、なぜか相性はいいみたいで……ってあーもうこの先の妄想が経験不足により生産不能。でも市ヶ谷はいろんな楽しみ方ができる街ですよ!
能町 みね子さん
文筆業兼イラストレーター。「オカマだけどOLやってます。」でデビューし、近刊に「『能町みね子のときめきデートスポット』、略して 能スポ」(講談社文庫)「ときめかない日記」(幻冬舎文庫)など。「久保みねヒャダ こじらせナイト」にも出演中。 https://twitter.com/nmcmnc
※この記事は、レッツエンジョイ東京のフリーペーパー「東京トレンドランキング」2012年7月号(6/20発行)に掲載されたものです。
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