連載 清水美穂子のBread+something good in Tokyo

「365日」のカウンターで、大人可愛いワインを愉しむ夕方

代々木八幡の「365日」にはちょっとすましたフォルムのパンが並んでいる。
味は気どっていない。身体になじみ、ほっとするほどだ。それはシェフの杉窪章匡さんが従来の枠に囚われず、今ここ(2015年の東京)で求められている食についてまじめに考え、答えとして出したパンだからかもしれない。

引き戸を開けるとコの字のカウンターがあって、右手に6席のスツールがある。ここで午後のひとときを過ごすなら、おいしいワインのことを思い出してもらいたい。ショウケースから好きなものを選んで席につこう。

ハムやベーコンは豚を一頭単位で仕入れて加工しているし、マヨネーズはもちろんスモークサーモン、セミドライトマトなども店内で調理している。丁寧に作られたパンには、丁寧に作られたワイン。

ワインは一杯560円から、赤白それぞれ約3種類から選ぶことができる。ひとつひとつの説明が楽しいのは、愛を持ってセレクトしていることが伝わってくるからだ。365日で扱っている自然派ワインはゆっくり熟成する。飲み頃は長く続くが、その年の出来栄えによっても違ってくる。飲み頃を見計らうことができる専門家がいると、さらにおいしくなる。スタッフの渡邉紀子さんはそんな人だ。

八ヶ岳の「ドメーヌ ミエ・イケノ」のシャルドネはキリッと透明感があって、シンプルなサンドイッチによく合ったし、もうひとつ薦めていただいた「セバスチャン・リフォー」の「オクシニス サンセール ブラン」はそれとはまったく違った感じの、蜂蜜の香りがするワインだった。オクシニスはリトアニア語で「黄金」の意味。これはキッシュや「ハタケ」に合わせた。

「ハタケ」というのは、杉窪さんのスペシャリテ「ソンプルサン」というみずみずしいパンにアパレイユ(卵液)を浸み込ませた、いわば和のフレンチトースト。赤味噌とオリーブのペーストと葉野菜(この日はケールと大葉と空芯菜)をのせて畑の土と野菜を表現している。この日、空芯菜は販売もされていた。

和素材でフレンチの愉しみとしてもうひとつ、共働学舎新得農場の国産のチーズプレートもお薦めだ。深い味わいの「セーグル70」とミルキーなバゲットが添えられている。

コート・デュ・ローヌのシラー100%、「マチュ・バレー プチ・ウルス・ブラン」は深まる秋にぴったりな赤ワインだ。エチケットにはテディベアが笑っている。「ドメーヌ ミエ・イケノ」は八ヶ岳の山稜を模ったエチケットにシュッとした猫がいた。栓のフォイルには足跡まであった。猫といいクマといい、この店のワインは可愛いのである。が、味はその上をゆく。大人可愛いワインである。

奥の厨房では石臼が静かに回り、北海道産のライ麦が挽かれている。厨房のドアが開いて焼きたての魅惑的なパンが目の前を横切っていく。カウンターで大人がワインを飲みながらパンを食べている風景とパンを買う人たちの風景がカウンター越しに対面する。東京のおでかけルートにうってつけの、幸せな眺めだ。


text&photo / Mihoko Shimizu

2015年10月中吊り・ポスター掲載記事

SHOP DATA

365日
住所:東京都渋谷区富ヶ谷1-6-12 サンハイツ三沢1F
最寄り駅:代々木八幡

他にも美味しいワインが愉しめるパン屋さん

パーラー江古田

好みでカスタマイズできるサンドイッチとイタリアを中心とした既存の製法に囚われない「自由なワイン」が愉しめる。ワインも、ナチュラルチーズの販売もある。満月の夜に定期的に開催される満月バーも人気が高い。

パーラー江古田
住所:東京都練馬区栄町41-7
最寄り駅:江古田

EPPE

フランスの自然派ワインを中心にグラスも4~6種類から取り揃え、17時半からはカンパーニュ、バゲット、レザンなどのパンが好きなだけ食べられるビストロになる。切りたての生ハムやサラミの盛り合わせがお薦め。

EPPE
住所:東京都武蔵野市吉祥寺南町1-10-4 1F
最寄り駅:吉祥寺

ブラッスリーVIRON 東京店

最高においしいバゲットを堪能できるブラッスリー。グラスワインも何種類もある中から選べる。本日の料理の書かれた黒板がテーブルまで運ばれてくる。メインはボリューム満点。パリへのショートトリップが愉しめる。

VIRON 丸の内店
住所:東京都千代田区丸の内2-7-3 東京ビルTOKIA1F
最寄り駅:東京

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※本記事内の情報は2015年10月08日時点のものです。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
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