どうも昔から、感情の高ぶりを反射的に身体で表現するのが苦手である。ハイタッチなんかが最たる例で、よほど喜ばしい出来事が起こったときは別だが、だいたいは、周りがお手てのしわとしわを合わせてハイタッチをしている間、(あ、みんなハイタッチしてる、私もしなきゃいけないのかな、でもハイタッチするほど感情高ぶったかと言われるとそうでもないかもしれないな……、どうしようかな……)などといらないことを考えているうちにタイミングを逃すのだ。
よって、たまに知人らとボウリングに行くと、ああ、今日もうまくハイタッチができなかったな、という感想を抱いて帰路に着くことになる。ボウリングは、誰かがスペアやストライクを出した際、それを自分のことのように喜び、ともにハイタッチをして分かち合うスポーツだと認識している。言ってしまえば、人がピンを10本倒そうが、6本倒そうが、私は内心あんまり興味がないのかもしれない。それゆえ、反射的にハイタッチしてしまえるほど高ぶらないのかもしれない。なお、自分自身の倒す本数に関して言えば、だいたいガーターなので、問題ない。ハイタッチの心配は、無用だ。
ともかく、ハイタッチに乗り切れない私にとって、ボウリングとはむつかしいスポーツなのである。
だから私は一人で行く。ハイタッチの無い世界、一人ボウリングへ。
隣のレーンはこのようによくあるボウリング風景なのに対し、
私はこんな感じである。
黙々と投げ、黙々と戻り、黙々と投げ、黙々と戻り。……なんというか、地味だ。
時折たけだけしい歓声が上がる隣のレーンとのあまりの落差に、念のため「あ、私、ボウリングが趣味で、ときどきこうやって一人でやりに来るんですよ」という顔をしながら投げるなどもしておいた。隣の面々からは気にも留められてないとは思うが、念のためだ。なにしろ、流れ作業かのように黙って淡々と投げて戻りを繰り返す姿は、客観的に見て、あまりに妙だ。お前は一体何をしに来たんだ感が、ものすごい。
また、このように少しでも休むと、
「はやく投げてね」と機械が大音量で騒ぎ出す。容赦ない。こっちが一人でひっきりなしに投げ続けていることなどおかまいなしだ。機械の煽りも手伝って、より一層、投げて戻って投げて戻っての作業感は増していった。
こうして、修行のような30分間、ボウリング2ゲームを、口角をピクリとも動かすことなくこなしたのだが、悪い事ばかりではなかった。1ゲーム目こそ、ガーターに次ぐガーターにより、スコアはたったの61だったのだが、2ゲーム目、一人でボールを投げることにも慣れてきてからは、なんと3連続でストライクを出すことができた。
見られている緊張から解放されていたからなのだろうか。ボウリングは確かに、自意識が邪魔をする場面が少なからずある。ボウリングが苦手であれば、当然かっこいい体勢で投げることなどできないし、たとえ形だけ上手い人を真似てかっこいい投げ方をしてみたとて、結果ガーターだったら、普通に投げたときと比べてかっこ悪さはむしろ倍増する。
その点、一人ボウリングは、変な投げ方だろうと、かっこつけた体勢だろうと、どんな身体の使い方をしようと、このレーンは私だけの楽園。レーンという名のユートピアである。ユートピアが、私に3連続ストライクをくれたのだ。そんなことを考えながら私は、スコア表を眺めながら、ストライクを分かち合うハイタッチをしたい、と生まれて初めて思ったとか、思わなかったとか。
ボウリングをソロで楽しむ3ヵ条
その1 隣のレーンがハイタッチなどで盛り上がっていても、涼しい顔で黙々と投げ続けること。
その2 一人でひっきりなしに投げるので、短時間で結構運動した気持ちになれる。
その3 ボウリングが苦手でも、ソロで集中して投げることで高いスコアが出せるかも。
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