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喫茶ライターの川口葉子です。今回わたしがご紹介するのは「初心者でも楽しめる神田の音楽喫茶といえばココ!」というお店。
魅力的な音楽体験とともにコーヒーとドライカレーを/On a slow boat to ...

かつて昭和の街角にひしめいていたジャズ喫茶や名曲喫茶は、日本独自の喫茶店のスタイル。衰退の一途をたどるかと思われましたが、近年のレコードブームの影響を受け、再び注目を集めています。
その文化に触れてみたいけれど少し抵抗を感じるという人に、ぜひおすすめしたいのが2021年に神保町にオープンした「On a slow boat to ...(オン ア スロー ボート トゥ)」です。
店主の白澤茂稔さんは、『ジャズ批評』誌上でレビューを執筆するなど、ジャズに造詣の深い方。しかしOn a slow boat to ...は、「“敷居の低い音楽喫茶”にしたい」という白澤さんの意図により、「レコード大音量、おしゃべり禁止、店主は怖い顔」という往年のジャズ喫茶とは正反対の空間になりました。
音圧も店主の圧も柔らかで優しく、お客さまはみなくつろいで談笑したり読書したりと、思い思いの時を過ごしています。

小さなイヤホンで音楽を聴くのが当たり前になった時代に、レコードと1978年発売のアルテックのスピーカーが生みだす豊かな音楽空間に身を置くのはまことに魅力的な体験です。
ジャズだけではなく、国内外のロックやポップスが流れることも。「これをかけてほしい」と、自分のレコードを持ちこむお客さまのリクエストにも応じています。
その場に居合わせた人々と自分、それにコーヒーの香りがゆるく一体となってボートに乗りこみ、きらめく音楽の波に揺られている・・・そんなイメージが浮かんでくるのです。

店名は村上春樹の短編集『中国行きのスロウ・ボート』と、ジャズのスタンダードナンバー『On A Slow Boat To China』に由来するそう。白澤さんが素敵な説明をしてくれました。
「slow boat to Chinaという英語のイディオムは、非常にゆっくりしていることの例え。遅いボートで海を渡って中国へ到着するには時間がかかるでしょう?この店ではどうぞごゆっくりお過ごしください」
“to China”ではなく“to ...”としたのは、「行き先はあなた次第」の意味をこめて。

白澤さんは90年代に吉祥寺に引っ越したのを契機に、当時、吉祥寺にあった有名ジャズ喫茶「MEG」と自家焙煎珈琲の名店「もか」に出会い、ジャズとコーヒーに開眼。会社員生活を送りながら、疲弊したときには表参道にあった「大坊珈琲店」のカウンターに座り、ネルドリップされる深煎りコーヒーのほろ苦い甘みに心癒やされる日々を過ごしました。
そんな体験が活きているのが、白澤さん自ら手廻しのロースターで焙煎してネルドリップするコーヒー各種(680円~)と、「シンプルだから素材には良いものを」と、カルピスの生クリームやカルピス発酵バターでつくる「レアチーズケーキ」(500円)。
そして、ぜひ味わっていただきたい名物メニューが「ドライカレー」(単品900円/セット1,400円)です。「神保町には個性的なカレーの名店が多いので、ここでは食べやすい味を目指しました」と白澤さん。
カルダモンやクミンなど17種類のスパイスを使い、大根とトマトの水分だけでペースト状に仕上げて寝かせるカレーは、野菜のうま味と甘み、スパイスの複雑な香りが混然一体となったおいしさです。

ライブや落語会、金継ぎの会、壁面ギャラリー等のイベントを催したり、近くにある明治大学の政治経済学部大森ゼミが屋上養蜂でつくるハチミツ「MEIDAI ECO HONEY」をトーストに用いたりと、かつて日本のカルチエ・ラタンと呼ばれた神保町にふさわしい、文化の交差点のようなスロウ・ボート。あなたも気軽に乗ってみてくださいね。
ゆっくり過ごすなら、とくに平日か土曜日の17時以降がおすすめです。そして土曜日はライヴ営業も。詳細はお店のサイトをチェックしてみて。

〒101-0064
東京都千代田区神田猿楽町 1-5-20 田端ビル1F
神保町駅
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東京都千代田区神田猿楽町 1-5-20 田端ビル1F
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※本記事内の情報は2023年04月06日時点のものです。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
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