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喫茶ライターの川口葉子です。今回わたしがご紹介するのは「向島でレトロ喫茶の世界に浸るならココ!」というお店。

“親子の共同作品”のような奇跡の一軒/カド

小さな美術館のよう!向島「カド」喫茶ライター川口葉子のイチ推し。_1068994

かつて東京一の花街として繁栄を誇った向島に、当時の文化の残り香を記憶しているお店があります。素晴らしいインテリアが印象的な、喫茶店好きにはおなじみの「カド」。文字通り交差店の角に1958年に誕生して以来、65年にわたって変わらぬ姿でお客さまを迎えています。


扉を開ければ、そこはまるで小さな私設美術館!天井や壁を彩る絵にこまやかな木彫、シャンデリアに目を奪われます。壁にずらりと並ぶ名画は、定期的にテーマを決めて掛け替えているのだそう。

小さな美術館のよう!向島「カド」喫茶ライター川口葉子のイチ推し。_1068995

カドを設計した建築家・志賀直三は作家・志賀直哉の弟であり、ロンドンで建築を学んだ後、東京藝術大学の講師をつとめました。その志賀直三と初代店主が親しい間柄だったのです。店内にあしらわれたレリーフや外壁の楕円形の看板は、当時の生徒の一人だった彫刻家・小畠廣志が手がけています。


カウンターをやわらかに照らす灯りの植物文様は、初代店主がオーブリー・ビアズリーのイラストを参考にして、なんと自分の手で造ったもの。さらにカドの2階には、初代店主が趣味で集めた膨大な絵画のコレクションが保管されているといいます。


そんなお話を聞かせてくれたのは、亡き父からお店を継承した2代目店主の宮地隆治さん。宮地さんは「ほかに直せる人がいないから」と、みずから店内の補修をマメにおこなっており、天井やテーブルに薔薇の花を描いたり、配線を直したりの大活躍。カドが往年のゴージャスな姿を保っているのは、この方が受け継いだおかげですね。

小さな美術館のよう!向島「カド」喫茶ライター川口葉子のイチ推し。_1068996

「昭和の頃、この店は花街を訪れるお客さんの待ち合わせ場所だったんですよ」と、宮地さんはにこやかに語ります。煉瓦の壁のかたわらには、向島の芸妓屋組合から贈られた大きな温度計がありました。


夜通し遊ぶ人々も多かったという、夢のように元気だった高度経済成長期。カドの長年の名物である「活性生ジュース」は、二日酔いの料亭客や芸妓さんのために先代が考案した栄養ドリンクでした。壁の黄ばんだメニューには先代の筆跡が残っています。

小さな美術館のよう!向島「カド」喫茶ライター川口葉子のイチ推し。_1068997

カドを訪れたらぜひ味わいたいのがこの「活性生ジュース」(650円)と、自家製くるみパンを使った「サンドイッチ各種」(550~650円)。注文を受けてから絞る新鮮な名物ジュースは、アロエ、セロリ、パセリ、グリーンアスパラという緑の野菜にレモンとリンゴとハチミツを加えた、爽やかな苦みが特徴的な一杯です。

 

私が注文した「くるみブルーベリーパンのなすモッツァレラサンド」(550円)は、全粒粉にくるみとブルーベリーを練り込み、カボチャの種をのせた大ぶりの自家製パンに、なすとモッツァレラチーズを挟んだもの。カリッと強めにトーストしてあり、香ばしいおいしさに手が止まらなくなりました。

小さな美術館のよう!向島「カド」喫茶ライター川口葉子のイチ推し。_1068998

芸術家肌の趣味人だったであろう先代と、器用に修理しながらモノの寿命をのばすことのできる2代目。カドは親子の共同作品のような奇跡の一軒です。近年では若いカップルの来店も増えたとか。向島を散歩するときにはぜひお立ち寄りください。

【閉店】カド

所在地:東京都墨田区向島 2-9-9

電話番号:03-3622-8247

最寄駅:月曜

※こちらのお店は閉店しました。

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※本記事内の情報は2023年02月28日時点のものです。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
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