「アートは大喜利」片桐仁、独自の視点で挑む“日展”の楽しみ方

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「アートは大喜利」片桐仁、独自の視点で挑む“日展”の楽しみ方


「アートって、なんだか難しそう」と思う人にこそ見てほしい展覧会、「日展」が今年も11月23日(日・祝)まで開催中。5部門3,000点を超える作品が一堂に会する、日本最大級の総合美術展を、俳優・造形作家として活動する片桐仁さんが体験!独自の視点とユーモアで語られる“アートの楽しみ方”をお届けします。あわせて、国立新美術館から10分圏内のおすすめ店もご紹介。感性を磨く“アートな一日”をお楽しみください。



“作家の熱気”がすごい! 全国3,000作品が集まる「日展」へ



会場を訪れ、大興奮の片桐さん。今回は、日展特別会員であり日本画家の長谷川喜久さんとともにお話しながら会場をめぐりました。

片桐仁さん(以下、敬称略):うーわー!入った瞬間から情報量がすごい(笑)。この“熱量”が日展っぽいですね。

長谷川喜久先生(以下、敬称略):ようこそ、いらっしゃいました。会場には入選と会員作品などを合わせて、3,000点を超える作品が並んでいるんです。ひとつひとつ見ていくと、3日はかかると言われています。

片桐:3日!いいですねー。わくわくします。僕は高校生ぶりに来ました。当時、美術部で学校からチケットをもらったんですよ。上野の東京都美術館でやっていた頃ですね。30数年ぶりの日展、楽しみだなー。

長谷川:先ほど“日展っぽい”という言葉がありましたが、日展にはどんなイメージをお持ちですか?

片桐:「日本画・洋画・彫刻・工芸美術・書」と5部門あるのは知っていますが、僕はやっぱり「日本画」と「洋画」のイメージが強いですね。あそこに“第118回”って書いてありますけど、日本で最も歴史がある公募展なんですよね。ほかの美術展よりも「作品=個人の思い」が強い印象があって、すでに迫り来る熱量を感じます。


▲片桐仁(かたぎりじん)
芸人、俳優、タレントとして活躍するほか、粘土造形作家やデザイナーとしても活動。

長谷川:片桐さんは造形作家としてもご活躍されていますが、日展に応募なさったことは?

片桐:ないないない、考えたこともないですよ。ちゃんと真面目に作品に取り組んでいる人のための美術展というイメージがあるので。先生はいつごろから出品されているんですか?

長谷川:私は40年くらいですね。

片桐:じゃあ、僕が前に見に行ったときも展示されていたのかもしれない。40年間ずっと入選されているんですか?

長谷川:いえ、3回くらい落選しました。日展作家あるあるなんですよ(笑)。みんな数回は落ちた経験を持っています。毎年全国から11,000点を超える応募がありますから、作家にとっては挑戦の場です。それぞれの個性が放出される場でもあるので、ユニークな作品も多いんですよ。

▲長谷川 喜久(はせがわ よしひさ)
日本画家。1964年岐阜県出身。日展特別会員、新日春会会員、名古屋芸術大学教授。

片桐:一年かけて用意した絵が展示されないのは、とんでもなく悔しいでしょうね。

長谷川:そりゃあもう。日展には会期中数万人もの来場者がありますから、作家にとっては念願の晴れ舞台。落選するとその機会を失うわけですから、「くそー、なんでだよ!」って落ち込みましたね。

片桐:その悔しさも熱量になって、今ここに集約されているんだろうなー。





静かに見えて、大胆な表現も!マニアックでアツい日本画の世界



片桐:わー、すげーなぁ。日展の日本画って、サイズ大きいですよね。これ、200号くらいあります?

長谷川:日本画はとくに大きいんです。縦240cm×横190cm以内など、縦もの・横ものなどで規定はありますが、その範囲なら自由。150号から200号の作品が多いですね。日本画はふだんからご覧になりますか?

片桐:中目黒にある日本画専門の小さな美術館が好きで、桜の作品だけ展示する企画とかもあって、すごくいいんですよ。

「日本画っぽいって何だろう」っていつも思うんです。やっぱりこの質感ですよね。マットで、落ち着いていて。岩絵具にニカワを混ぜて描くという手間もまたいい。砂絵みたいな、つぶつぶした質感がたまりません。

長谷川:おっしゃる通りです。岩絵具は岩石を砕いた粉末でできているので、「膠(にかわ)」という接着剤を加えて描きます。さすがご自身でも造形をされるだけあって、制作過程を想像されながら見ていらっしゃるんですね。

片桐:そんなことばっかり考えちゃいますね。ラピスラズリなんか使ってたら、すごいお金かかってそうだなとか(笑)。


▲長谷川 喜久『colors - wb』

片桐:長谷川先生の作品ですか。カラフルですねー!先生の作品もそうですが、日本画部門は思った以上に派手でした。これもう、全部の色が入ってますよね。

長谷川:今回の絵は、僕が現地で感じた色をすべて入れています。自分の目で捉えられる限りのリアリティと、現地で感じた情感を再現したくて。僕はまず、コントラストの強い部分から描き始めます。たとえばこの木は、形を“描き残し”ているんですよ。

片桐:……ちょっと何言っているのか全然わからない。えっと、描き残しているというと?

長谷川:物を描くのではなく、物の“まわり”を描いて、残った部分で形をつくるんです。たとえばこの葉は幹の前にありますが、葉そのものを描くのではなく、あえて後ろの幹を描くことで前の葉を表現しています。

片桐:はー、なるほど! 濃い色を先に塗って、上に白や黄色を重ねていく。色を積層しているんですね。取材には何度も行かれるんですか?

長谷川:これは長野の景色ですが、何度も訪れます。寒さや暑さ、空気の匂い——そういう体感がすべて絵に宿ると思っています。目に見える景色だけでなく、感情として捉えることを大切にしています。

片桐:土地を知ると、見える景色が全然変わりますよね。感情で観察する。まさに“五感”というやつですね。あ、ここにまっすぐの線が入ってますけど、これは何ですか?

長谷川:さすが、いいところに気づかれました。垂直線と水平線をわざと入れているんです。人は何かを見るとき、どこかに垂直や水平があると安心する。絵にも安定感を与えるために、あえて見えるように入れています。

片桐:線が画面を安定させる。どこに水平を置くか、そのバランス感覚も問われるわけですね。面白いですね。


▲土屋禮一先生と、作品『雲湧く・不動明王』

片桐:うわ、すげえ。不動明王だ……かっこいい。

長谷川:ちょうど作者の土屋先生がいらっしゃるので、お話を伺いましょう。日展では作家が会場にいることも多く、直接交流できるのも魅力なんですよ。

片桐:最初に見たときは、空を見上げて雲の合間から不動明王が現れているように感じました。でもずっと見ていると、紅葉が水に浮いているようにも見える。ということは、不動明王は水面に映っているのかも。どっちなんでしょう?

土屋禮一先生(以下、敬称略):うん、いいね。どっちの見方も正解だよ。そもそもこの絵の発想は“夢”なんだから。

片桐:夢の中に不動明王が出てきたんですか!?

土屋:そう。不動さんが雲の間からふわっと近づいてきた。僕はね、よく夢を見るんですよ。夢の中ではいつも傑作ができて、自分の絵に感動している。ところが朝起きると、がっくりするんだ。傑作が消えてなくなっているって。

片桐:あぁ〜、わかります。締め切りに追われてるとき、僕も見ますね。夢の中で「終わった!」って思って、起きたら「終わってなかった!」って焦る(笑)。夢の中の絵って、再現できないんですか?

土屋:それがね、全然描けないんだよ(笑)。

この作品には、その夢に「紅葉散り積む今さらに師の訓へ」という句のイメージを重ねているんです。紅葉が散ると、いつもお世話になった先生方から「土屋、大丈夫か」と語りかけられているように感じてね。

片桐:なるほど……。淡い雲の中から浮かび上がる不動明王の強さが、より際立って見えますね。


▲池内璋美『色葉散る』


片桐:うわー、細かい!これ、筆何本使って描いてるんだろう。描き始めたとき、終わりが見えないだろうなぁ。

長谷川:点描画ですね。遠くから見ると色が溶け合って、ちょうどいい具合に見える。一枚仕上げるだけでも、筆を何本も駄目にするっておっしゃっていました。

片桐:ですよね。トントン、トントン、描くんですもん。そりゃ筆もやられますよ。これ、どれくらい時間かかったんでしょう。半年とか?

長谷川:この先生はいつもすごい密度。でも、そこまで時間はかけていないはず。フルで一か月半くらいじゃないかな。

片桐:え!! そんなに短いんですか。いや、一か月半でも長いか。ずーーーっとトントンしてるってことですもんね。気が遠くなる。

長谷川:片桐さんはご自身の作品で、そんなに時間をかけることは?

片桐:僕は締め切りギリギリに作るタイプなので(笑)。いつも「もっと早くやっとけばよかった」って、毎回反省してます。

長谷川:わかります。人間にはやっぱり締め切りが必要ですよね。





光を操ると奥行きが生まれる!“濃い存在感”を放つ洋画のリアル


片桐:うわ〜、油のにおい! 一瞬で“洋画の世界”に来た感じがします。2段構成ですごい迫力。日本画よりも洋画の方がちょっと小さめですか?

長谷川:そうですね。洋画部門における応募作品の規定は100号(長辺162cm、短辺130.3cm)以下なので、日本画に比べると少し小さいですね。

片桐:それでも100号あるのか。全然小さくなかった。それにしても洋画は濃いな。モチーフも人物や景色も写実的なものが増えますね。日本画のように見える作品もありますが、違いはやはり画材ですか?

長谷川:そうですね。日展では主に画材で分けていますが、たとえば風景画でも洋画と日本画は構図が少し異なります。遠景、中景、近景とありますが、現代日本画は近景と遠景の二景が多くて、洋画は「三景構成」と呼ばれる奥行きのある構図が多いですね。

片桐:なるほど、だから洋画は奥行きがあるのか。空間とよく言いますよね。

長谷川:日本画は平面的とよく言われますが、洋画は外側から当たる光を表現する絵画なので立体的と言われます。逆にいうと、光の方向を感じない近景で構成された作品は、日本画的な表現になります。



▲長船善祐『可食閾値ストラテジー』

長谷川:こちらは、日展では非常に珍しい作品ですね。ご覧の通り、大きな作品ばかりの中で、目を引きますよね。一般的に小さなサイズの絵は評価されにくい傾向がありますが、この作品は評価されたようですね。

片桐:ザ・リアリズムですね。めちゃくちゃうまい。鶏の前に落ちた実が宝石みたいに輝いている。一見、日本画のような絵ですね。掛け軸のような。なんでこんな縦長の絵にしたんだろう。古い看板のような材をそのまま使ったのかなぁ。雰囲気を感じますね。

長谷川:杉板に描いています。板は絵の具の油分を吸ってしまうので、地塗りをしてから描きます。その下地によるツヤ感がまた、独特の雰囲気をもたらしていますよね。

片桐:額もいいですよね。これ、額の木目は書き足していませんか。

長谷川:そうかもしれません。額の役割も大きい絵ですよね。

洋画は絵の具に光沢があるので、強くて重厚な額を持ってきてもしっくりくるので、日本画とはまた違うベクトルで額にこだわる作家さんも多いんです。額から描く絵を決める作家さんもいらっしゃいます。

▲右/桐生義也『愛馬の日』

片桐:あ、これ木版画じゃないですか。版画も洋画、なんですね。

長谷川:はい。日展では洋画の中に版画も含まれています。片桐さんは、美大は版画科専攻でしたよね?

片桐:そうなんですよ。僕の代から新しくできた学科だったんですが、結局、造形ばかりを作ってましたね。版画はエディション刷り(複数枚刷ること)も魅力ですが、これは落款も押してるし、パネルにも貼ってるから一点ものかな?

長谷川:そうですね。ナンバリングも見当たらないので、1枚しか制作しない「モノプリント」かと思います。

片桐:現代版画は原画を描いて、彫って、刷るわけですが、刷るという工程が思った通りにならない。そこが楽しいところでもあるんですが、なかなかいい刷りがでない。この方もこの一枚のために、何枚も刷っているんじゃないかな。

長谷川:日本画もまず下図という小さい図を描いて、そこから4段階くらいを経てどんどん大きくしていき、完成と同寸の絵を3、4枚描いた中から選びます。一点でバシッと決まるアートは案外少ないのかもしれませんね。



遊び心と職人技が出会った!覗いたら抜け出せない工芸の沼


▲片桐さんが撮っている作品・小林このみ『nobody knows』

片桐:工芸だ!すげー!膨大だぜー!この毛糸のタペストリーや布みたいのも工芸作品に入るんですか。これはフエルト!?ジャンルがとにかく多い!楽しいぜ!

長谷川:はい。タペストリーや布ものは「染め」や「織り」などのジャンルになります。工芸にはこのほかにも、陶芸、磁器、漆、彫金、鍛金、鋳金、木彫、竹、籐、ガラス、人形、七宝、紙、革など、さまざまな素材の作品が並んでいます。

片桐:中央にあるのは、女の子モチーフなのかな?光が当たると顔っぽくも見える。タイトルは……「nobody knows」。誰も知らない。どんな意図があるのか作者さんに聞きたいですよね。

長谷川:先ほどもタイトルをご覧になっていましたが、ご自身の作品でもタイトルをつけられますか?

片桐:めちゃくちゃ大事ですよ。タイトルが一番悩むかもしれません。アートは大喜利なので。タイトルから作るときもあります。今日も自作のネコ型iPhoneケースをぶら下げてますが、これは『CatwaiiPhone(キャワイーフォン)』です。ほかにも、サイの形の『サイPhone』。鯛の形の『鯛Phone』、『モアイフォン』、目の『eyePhone』とか。

長谷川:ユニークですね!タイトルも作品も、遊び心の中に確かな観察眼があって、片桐さんの創作への情熱を感じます。



▲中央/宮田亮平『シュプリンゲン25-2』

▲鈴木良一『Walking Brain』

長谷川:あちらの作品はお好きですか?

片桐:いいですね〜!タイトルは「歩く脳」?愛らしいなぁ。虫っぽさもあり、動物っぽさもありますね。作者の鈴木さん、なぜ日展にこれを出されたんだろう。

長谷川:良かった、虫がお好きと聞いていたので。

片桐:虫は100匹くらい飼ってます。これ、よく見ると金属っぽい素材が部分的に埋め込まれてますね。でも表示は「木」。木彫……じゃないんですか?工芸なんだ?

長谷川:木彫作品ですね。日展では出品ジャンルを作家自身が申告するんです。彫刻部門に出すか、工芸に出すかは自由。どちらに出すかで評価も変わることがあります。工芸で入選しても、彫刻では落選するかもしれませんし、もちろんその逆もあります。

片桐:思っていたよりずっと自由なんですね。自分の勝負したい場所で挑戦できるのはいいなぁ。工芸部門はいろんな技術の話ができるから、つい長居しちゃいますね。




見るだけじゃもったいない!息づかいまで感じたい彫刻の粋

▲丸田多賀美『画布と語らう』

長谷川:続いては彫刻部門です。作品名の横に手のマークが付いているものは、実際に触ってOKです。

片桐:えー!触っていいんですか!?嬉しい!

長谷川:「ハンズ・オン(触れる体験学習)」という考え方は、ボストン・チルドレンズ・ミュージアムが始まりです。やっぱり、触れてわかること、感じることがたくさんありますよね。

片桐:実はさっきの工芸も、触りたい欲がうずうずしてました。これも触ってOKなんだ。素材は樹脂かな。絵もそうですが、立体作品はとくに大きさや質感が写真では伝わりにくいですよね。

長谷川:立体作品は、撮影時にも空間の扱いを意識します。僕ら日本画家には絶対にできない表現で、羨ましさがありますね。そして彫刻作品は、どんな素材を使っても制作の痕跡がダイレクトに残るのも魅力です。人の手の存在を強く感じます。

片桐:人の温もりを感じますね。このおじさんなんて、靴が片方脱げちゃってるんですよ。足の角度も絶妙。しかも作者は女性、なのかな?会場を見渡すと、いかにも“彫刻”という作品から、粘土造形のようなものまで幅広い。

※手のマークのある彫刻作品についてのお願い
・どなたでも触れることができますが、やさしく触れてお楽しみください。
・着色してある作品は、色が落ちる可能性があるのでお気をつけください。
・疑問や質問などがございましたら、お気軽に会場にいる作家までおたずねください。


▲中央/白石恵里『方舟−漂−』

片桐:この作品はちょっと真似ができませんね。残念。同じポーズをすると、作品をより感じられる、そんな気がしています。

長谷川:それは面白い鑑賞方法ですね。案外、的を射ているのかもしれない。(笑)

片桐:あ、オウムの彫刻がある!こっちはバランスボール!?彫刻といっても、ジャンルの違いがありますね。

長谷川:そうなんです。近年はさまざまな素材を取り入れた表現が増えていて、最も自由な分野ともいえます。

片桐:先日ある企画で、全盲の美術鑑賞者の方にお会いしたんです。ご本人は目が見えないから、「どんな絵なのか教えてください」とおっしゃる。ひとつの作品で30分くらい対話を重ねるんですが、タイトルや情報ではなく“自分がどう感じているか”を言葉にする。あれは、自分の“見る”という感覚を改めて知る体験でしたね。

長谷川:それは興味深いですね。さきほどの土屋先生の夢の話とも重なりますが、比べて見てみたい。その方が対話を経て、どんな絵を思い描いたのか。土屋先生の夢の中の傑作も、ぜひ見てみたい。

片桐:人の頭の中を覗く――それこそ、全人類の夢ですよね。



ごまかせない一瞬にわびさびが光る。究極のライブアート「書」の美学

▲中央/鹿倉碩齋『奔濤』

片桐:次は書だ。いよいよきたぞ。全然わからない分野だ。うわー!!すごい量の作品だ!

長谷川:書は、実は日展で最も応募数が多い部門なんです。約9000点の中から選ばれた、約1000点が展示されています。

片桐:すげえ……。でも読めないもんなぁ。どう観たらいいんですか?これは角が四角いけど、筆で書いているんですよね。墨の色も表現なんですよね。

長谷川:そうですね。書は「運び」と「空間」ではないでしょうか。とくに“余白=留白(りゅうはく)”を見ます。白の形があるから、書の形がある。そこに空間意識が宿るんです。

片桐:なるほど。長谷川先生の作品と同じ考え方ですね。余白も表現していると。

長谷川:そうなんです。まさに私は「ある」と「ない」を逆にする“留白”を意識しています。

片桐:ということは、書も書かれるんですか?

長谷川:いえ、全然書かないです(笑)。

片桐:なんという裏切り!(笑)でも、日本画のサインって書ですよね。

長谷川:画家の場合は、書というより“字の形をデザイン”している感覚ですね。書の先生が見たら怒るかもしれません。書の世界は、何十枚、何百枚と書いて、飛沫(しぶき)一つまで満足いくものを提出される。まさに命がけの世界です。

片桐:最後ここで失敗したら、もう一度最初から。ごまかしがきかない世界だなぁ。




片桐:うわー、巻物とか気が遠くなるな。絶対失敗できない。ここまでスルスルと流れるような文字になると、正直、適当に書かれても誰もわからない気がしちゃいます。

書体とか流派とか、種類の多さはすごく伝わりますね。文字だと思うから、つい読もうとしちゃうんですよ。あれなんてタイトルが「アルチュール・ランボーの詩」!? アルチュール・ランボーも、自分の詩が日本語の書になるとは思わなかったでしょうね。

長谷川:書は、どんな文字を書くか、墨の濃さ、紙だけでなく箔や布など、素材も世界観の一部です。書に押すハンコ、つまり「篆刻(てんこく)」も書部門の一つですが、最近は若い作家さんが増えているんですよ。

片桐:えぇ!? 渋い! 彫刻でも工芸でもなく、なぜ篆刻に!?

長谷川:篆刻は、きれいな四角ではなく、あえて傷や切れ目を入れると勢いがあっていいと評価されるんです。

片桐:篆刻に勢いって発想、面白いですね。彫って押すものに“勢い”の評価があるなんて。日本のわびさびにも通じるなぁ。完璧じゃない方がいいというか。知らない人が見たら、失敗したのかなって思いそうですけど(笑)。

長谷川:世界が内で閉じないという表現なんだそうです。高校生で篆刻に夢中になって、「授業より楽しい」と言っていた子もいました。

片桐:そりゃそうだ。やらされてないことは、全部楽しいですもんね。

長谷川:日展は、そんな“勉強じゃない楽しいこと”を見つけた人たちの集まりかもしれませんね。



片桐仁が感じた“日展の可能性”

▲右/清島浩徳『When the sky forgot to listen』

長谷川:最後に、今日いちばん印象に残った作品を選んでいただきましたが、彫刻作品でしたね。どんなところが気に入りましたか?

片桐:僕の中でアートって、あまり極端な表情を出すと“アートじゃない”気がしてたんです。アルカイックスマイルみたいに、見る人の心の状態で表情が変わる──そういう“受け手に委ねる余白”があるのが美術の表現だと思っていました。

でもこの作品は、感情が全開なんですよ。歯も剥き出しで(笑)。漫画っぽさもあって、いい意味で“アートの枠に収まらない”感じが魅力的でした。「日展にもこんな作品があるんだ!」っていう驚きと感動がここに集約していますね。

工芸作品も本当に素晴らしかったけど、ひとつに絞れない。先生と回ったので日本画もめちゃくちゃ楽しかったです。もう少し見たかったなぁ。

長谷川:駆け足でしたが、高校生以来の日展、いかがでしたか。

片桐:もう“膨大”のひと言ですね。このスケールのアーティストが一堂に会するなんて、日本でここだけじゃないですか。10代の学生から100歳のベテランまで並ぶ。日本最大で最古の公募展という歴史を、肌で感じました。

美術館にあまり行かない人ほど、おすすめしたいですね。よく聞かれるんですよ、「美術館で何を見たらいいかわからない」って。そういう人こそ、来た方がいい。きっと、たくさん発見があります。

長谷川:片桐さんの視点で見る日展、僕も新しい発見がたくさんありました。本当に楽しい時間でした。ありがとうございました。


日展(第118回 日本美術展覧会)

開催期間:2025年10月31日(金) ~11月23日(日・祝) ※毎週火曜休館
開催時間:午前10時~午後6時(入場は午後5時30分まで)
開催場所:国立新美術館 東京都港区六本木 7-22-2
問い合わせ:03-3823-5701(日展事務局)
最寄り駅:乃木坂、六本木



片桐仁 プロフィール



片桐仁(かたぎりじん)
1973年11月27日生まれ 埼玉県出身。
多摩美術大学在学中にコントグループ【ラーメンズ】を結成。
現在はドラマを中心に、舞台・映画などで活躍中。
近年の主な作品に舞台『No.9-不滅の旋律-』『ハロルドとモード』『BACK TO THE MEMORIES PART5』『ある日、ある時、ない男。』ドラマ『99.9-刑事専門弁護士-』『あなたの番です』『雲霧仁左衛門』『失踪人捜索班-消えた真実-』などがある。
俳優業の傍ら粘土創作活動も行い、個展も開催している。
2019年には初の海外個展を台湾で、2021年には自身の創作活動20周年を記念した大規模展覧会を東京ドームシティ Gallery AaMo にて開催した。


◆片桐仁Instagram
https://www.instagram.com/jinmansan/
◆片桐仁X
https://x.com/JinKatagiri_now

片桐仁 出演情報



映画『おいしい給食 炎の修学旅行』
「おいしい給食」は、80年代のある中学校を舞台に、給食マニアの教師・甘利田幸男と、給食マニアの生徒による、どちらが給食を「おいしく食べるか」という闘いを描く学園グルメコメディ。
1984年から刻まれてきた給食を愛する教師、甘利田幸男の大いなる旅の記録。その旅はまだまだ終わらない。時代は遂に平成に突入。1990年。三年生担任になった甘利田は、青森岩手への修学旅行の旅に出る。シリーズ初めて学校から外に出て、果たして甘利田はどんな食を堪能するのか。

『おいしい給食 炎の修学旅行』
【主演】市原隼人
【出演】片桐仁、武田玲奈、栄信、田澤泰粋、藤戸野絵、いとうまい子、小堺一機、高畑淳子、六平直政、ほか。

【監督】綾部真弥
【製作総指揮】吉田尚剛
【企画・脚本】永森裕二 【プロデューサー】岩淵規
【配給】AMGエンタテインメント
【製作プロダクション】メディアンド
【公開】2025年10月24日(金)
【公式HP】https://oishi-kyushoku4-movie.com/



日展とあわせて立ち寄りたい!新国立美術館から徒歩10分圏内にあるアートを感じられる立ち寄りグルメスポット3選

感性をくすぐるスポットが点在する、新国立美術館周辺エリア。日展をゆっくり楽しむ休日に、合わせて立ち寄りたい3つのグルメスポットをご紹介します。鑑賞前に気分を高めるのも、鑑賞後に余韻に浸るのもいい時間。六本木周辺エリアならではのグルメが、心も満たしてくれます。

待ち合わせにも最適!懐かしくも新しい喫茶時間を/アマンド六本木店




日展を訪れる際の待ち合わせには、六本木のランドマーク「アマンド」からのスタートはいかがでしょう。1964年の開店以来、待ち合わせの定番として親しまれてきた老舗喫茶は六本木交差点の一角にあり、目を引くピンク色が目印です。

開店当時のブランドカラーを取り入れて2024年にリニューアルした店舗は、クラシカルな家具やパラソルが店内に並び、フォトスポットとしても人気。

“懐かしくて新しい”雰囲気に、昔からの常連も、初めて訪れる人も胸がときめくでしょう。

「懐かしのナポリタンスパゲティ」(1,200円※単品)

2016年には開店当時のメニューを復刻。「プリンアラモード」や「コーヒーゼリーアラモード」などの喫茶スイーツが並ぶほか、昔ながらの喫茶飯も充実していて、ランチや軽食にもぴったり。

イチオシは「懐かしのナポリタンスパゲティ」(1,200円)。ケチャップをベースに甘みを引き出した玉ねぎとサルサポモドーロを加えた、昭和より受け継ぐオリジナルソースが少し太めのパスタに良く絡みます。

おでかけ記念の六本木土産もおまかせを。人気No.1は、自家製カスタードと生クリームが二層仕立ての「六本木リングシュー」(600円※テイクアウト価格、店内でも提供)。テイクアウト専用の「六本木アフターパフェ」(800円)をおみやげに、展覧会の感想を語らう時間も楽しんで。


アマンド六本木店
住所:東京都港区六本木6-1-26
電話番号:03-3402-1870
最寄り駅:六本木駅

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上質な器と紅茶で、展覧会の余韻に浸るギャラリーカフェ/FUKAGAWA SEIJI 1894 ROYAL KILN & TEA




生きた工芸品に触れたくなったら、東京ミッドタウンへ。
日本の磁器発祥の地・有田で創業130年を誇る老舗窯元「深川製磁」が手がけるギャラリーカフェ「FUKAGAWA SEIJI 1894 ROYAL KILN & TEA」で、優雅なひとときをどうぞ。

日本でもわずか数名という紅茶鑑定士が厳選した紅茶を、皇室御用達ブランドの伝統技法で精巧に仕上げた器で味わえます。ティーポットやシュガーポット、ミルクジャグにいたるまで、すべて深川製磁製。繊細な器に注がれる紅茶の香りが、アートを見た後の感性を静かに満たしてくれます。

ホットティーをオーダーすると、約5種類のカップから好みの器を選べるのも魅力。カップやプレートは併設ショップで同型の購入も可能です。

「ジャーマンケーキセット」(ドリンク付2,300円)

イチオシは「ジャーマンケーキセット」。沖縄の老舗スイーツブランド「Jimmy’s」の味を東京で初めて提供した一品で、バタークリームとチョコスポンジが重なり合うどこか懐かしい甘さが紅茶にぴったりです。

特別なティータイムを楽しみたいなら、「ダージリン・ファーストフラッシュ(通称“GOLDEN DROP”)」(2,500円)をぜひ。トップクオリティの希少茶葉で日本茶のような爽やかな味わいがあり、紅茶好きならずとも体験してほしい一杯です。ひとくちスイーツとともに提供されます。

新国立美術館やサントリー美術館の半券を提示すると、ドリンク注文の方に日替わりのひとくちスイーツサービスが付くのも、嬉しいポイントです。展覧会の余韻を、上質な器と紅茶とともにゆっくり味わってみては?


FUKAGAWA SEIJI 1894 ROYAL KILN & TEA(フカガワセイジ 1894 ロイヤルキルン アンド ティー)
所在地:東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガレリア 3F
電話番号:03-6447-5500
最寄り駅:六本木駅

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目の前で芸術が誕生!職人の手仕事にうっとりする贅沢なひとときを/九九九




出来立ての和菓子と淹れたての茶を堪能できる茶寮「九九九」は、国立新美術館から徒歩1分。2024年のオープンからわずか10か月でミシュランガイドに掲載された注目の一軒です。

カウンター越しに職人が和菓子を仕立てる姿は、まさに一瞬の芸術。手の動きや道具の音、漂う香りまでが“アート作品”のようです。一方で、格式ばらずに楽しめる心地よさもこの店の大きな魅力。職人との会話を気軽に楽しみながら、アートなトークに花を咲かせてみては。

店主であり和菓子職人の藤田海斗さんは、もともとパティシエを志していたという異色の経歴の持ち主。四季やその日の空模様から着想を得るという和菓子は、色彩やかたちが一皿ごとに移ろい、自然や時間の美しさを映し出します。

「練り切り」(1,320円※単品)

メニューは、季節に即した良質な素材を使った和菓子と茶のペアリングコース「今月の菓席(八菓九茶)」(19,800円)をメインに、ミニペアリングコース「小菓席(三菓三茶)」(9,900円)や、和菓子・茶・茶酒を一品ずつ楽しめるアラカルトも用意。

コースでは締めくくりに登場し、アラカルトでもオーダー可能な「練り切り」は、日替わりでテーマが変わる“その日限りの作品”。どんな一皿に出会えるのかも、訪れるたびの楽しみです。

お席は完全予約制ですが、12か月の暦に合わせたあんが楽しめるグルテンフリーのどら焼き「こよみどら」(1個378円)や、オリジナル茶葉は店頭で購入可能。アートな休日の手土産としても人気を集めています。


九九九(くくく)
所在地:東京都港区六本木7丁目5−11 カサグランデミワ 2F
電話番号:03-6447-0333
最寄り駅:乃木坂駅

公式サイトはこちら>



取材・文/君島有紀
写真/日展:土佐麻理子
スタイリング/片岡麻弥子
ヘアメイク/邦木奈帆

情報提供/公益社団法人 日展





芸術の秋を楽しもう!アート特集 2025



レッツエンジョイ東京では「アート特集2025」と題し、イチオシのアートイベントや美術館をはじめ、アートホテルなど様々な角度からアートを楽しめるスポットをご紹介しています!

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