第四回 小岩最古?の老舗が昔からずっと大切にしていることとは?

「新しい店はきれいな店・古い店はきれいじゃない店」という考えがあるとしたら、「古い」ということと「きれいじゃない」ということは全然違うと、いい喫茶店が教えてくれるだろう。


ひとりで純喫茶を訪れると、誰かと訪れるよりも店の端々にまで目がいくもの。そんな「おひとり様」を楽しませてくれる仕掛けや気遣いがあるのが、小岩で一番古い喫茶店「木の実」だ。

▲カプセルホテル、サウナの向かいにあります。「スペイン瓦の山小屋風」をイメージしたのだそう

▲カプセルホテル、サウナの向かいにあります。「スペイン瓦の山小屋風」をイメージしたのだそう

▲窓際の席

▲窓際の席

最盛期は小岩に80軒以上も純喫茶があった?

創業は昭和30年。今から60年前のことである。当初は小岩駅南口に店を構えたが、昭和39年に現在の場所に移転。移転を機に15坪から42坪の大きな店となった。


店主は2代目の山本義一さん。初代店主は彼のお母さんで、病気で休職をよぎなくされた夫を支えるために始めたのだという。

お一人様だからこそわかる 創業60年の純喫茶「木の実」で体感するその歴史_213065

「木の実」の創業時、小岩にあった純喫茶は1、2店。最も多かったと山本さんが記憶している1970年代には、小岩駅周辺に純喫茶は83軒ほどあったという。現在はそのほとんどが残っていない。

▲入口上のガラスには開店した年が記されている

▲入口上のガラスには開店した年が記されている

じっくり観察すると、店の「仕掛け」が見えてくる

私がこの店を好きなのは、席に座りじっくり店そのものを見ていると、店が作られてから50年が経っても、素敵な店にしたいと思って彼らが店づくりをしたことが伝わってくる、そんな空間であるということがひとつ。店へ行ったら、天井の形や店の仕切り柵、壁に掛けられた絵、額に入ったマッチラベルのデザインなどをゆっくり見てほしい。何度見ても素敵だなと思う。


開店する際「他にはない店を作ろう」という思いで作った店。店内のいろいろな場所に仕掛けられた「店づくりの証拠」を少しずつ探してみるのも面白い。ひとりならではの楽しみ方かもしれない。絵やラベル、山小屋に合う自然をモチーフにした鉄製の仕切り柵は、山本さんのお父さんがすべて描いたもの、作ったものだ。

▲店のマッチラベルは亡きお父さんが全て描いたもの

▲店のマッチラベルは亡きお父さんが全て描いたもの

▲店に飾ってあります、見てみてください

▲店に飾ってあります、見てみてください

▲いつもは出していないマッチラベルのスケッチも見せてもらいました。このほかにも沢山の絵を山本さんのお父さんは残していました

▲いつもは出していないマッチラベルのスケッチも見せてもらいました。このほかにも沢山の絵を山本さんのお父さんは残していました

▲店の奥から全体を眺めると、天井など面白い店の作りがよくわかります

▲店の奥から全体を眺めると、天井など面白い店の作りがよくわかります

▲店の隅に貼られた気遣い

▲店の隅に貼られた気遣い

適度な植物は空間を快適にすると考え植物を置き、植物のための酸素を出す植物灯や、少しでもお客さんが快適に過ごせるようにと空気清浄器を使っている。純喫茶は新しい家電を置かないイメージもある。喫煙可のお店がいまだに多いのが現状なので、店の空気のきれいさにまで心を配っている喫茶店店主がいることは驚きだった(ちなみに木の実は分煙)。また狭い厨房で作れる限りのおいしいものをと考え、メニューはレストランのもののように何ページもあって選ぶのも楽しい。飲み物と食べ物を合わせると、メニューは100種類以上ある。


コーヒー・紅茶以外では、生レモンスカッシュ(650円)や、小松菜発祥の地・江戸川区らしく、小松菜とフルーツの生ジュース(630円)も人気。食べ物では、クリームシナモントースト(790円)や、ほたて貝柱の玉子あえサンドイッチ(950円)もとても気になった。

パリでは40年以上通っていても「新参者」?

▲クラブハウスサンドイッチ(950円)

▲クラブハウスサンドイッチ(950円)

▲コーヒーはブレンド3種、アメリカン3種の中から、飲みやすい60番ブレンドをセレクト。(430円)

▲コーヒーはブレンド3種、アメリカン3種の中から、飲みやすい60番ブレンドをセレクト。(430円)

▲ボルシチセット(1190円)。ボルシチも美味しかった! たっぷりついてきたサラダのドレッシングがオリジナルでこちらもおすすめです

▲ボルシチセット(1190円)。ボルシチも美味しかった! たっぷりついてきたサラダのドレッシングがオリジナルでこちらもおすすめです

近年、安くても美味しいコーヒーが手に入りやすくなった。そのことについて、また店の在り方について、山本さんはどう考えているのか尋ねる。


「母が店を始めた昭和30年代と今では、全然社会が違っている。今若い子達は、生まれたときからチェーンのコーヒー屋さんや、インスタントコーヒーのある世代です。昔からあるうちのようなこういうスタイルもあるんだよ、ともっと知ってもらいたいですね。


昭和46年頃、1か月かけてヨーロッパを旅したことがあったんです。フランスのパリで見るからに古いカフェに入り、そこの常連らしき客に『この店は古いんですか?』と聞いた。そうしたらその客は、『自分はまだ40年しかこの店に通っていないから、新参者だ』って言ったんですよ。それを聞いて驚きました。そして店の人も客もとてもその店を大事にしていると感じました。そういうカフェで時間を過ごして、ああ店って古くなっても大丈夫なんだなって思ったんです。うちの店も、古いことを大事にできるような店になっていこうってそのときに思いました」


画一化された町も店も、便利であると同時に、いつも同じでは面白くない。私はいつもこういう店々がいきいきと町の中に存在して、自分たちの生活の中に組み込まれた、表情豊かな日々を送りたいと願っているから、喫茶店へ行くのかもしれない。こういう場所があることが、その町の面白さそのものなのだと思う。

「木の実」を楽しむための3か条

その1 山小屋のような雰囲気、店内に飾られている創業時にデザインされたマッチのラベルデザインや、店のつくりも日常の中のアートを堪能しよう!

その2 窓際の席が空いていたら、明るいその席に座ってゆっくり本を読むなど、ひとりの時間を満喫!

その3 たくさんあるメニューを眺めるだけでも楽しいかも!

※2015年1月時点の情報です。メニュー、価格等は変更になる場合があります。

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※本記事内の情報は2015年01月16日時点のものです。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
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