【第12回・“おおみや盆栽美術館”編】君は大宮盆栽村を知っているか

▲2017年にさいたま市で第8回世界盆栽大会が開催されるそうです。なんと28年ぶりだとか

▲2017年にさいたま市で第8回世界盆栽大会が開催されるそうです。なんと28年ぶりだとか

自然はいい。


なぜならぼくが大好きな登山も、川遊びも、公園でのチルアウトも、すべてひとりで楽しめるからです。もちろん、気のあう仲間やイチャコラしたい恋人と共有するのもありですし、より楽しさが増したりもするのですが、究極は相手がいなくても成立する遊びには変わりありません。自然は懐が深いのです。

とすれば自然相手の趣味も、ソロ活に向いているものが多いと言えましょう。釣り、バードウォッチング、ゴルフなんかも自然かどうかはさておき、基本的に一人でも楽しめるもの。なかでも特に歴史が古い自然遊びといえば、盆栽です。


なんだ、ここにパチンコを入れたら全部おっさんの趣味やんけ、というツッコミはさておき、今回ご紹介するのは究極のソロ遊び「盆栽」にまつわる世界初にして日本唯一の公立美術館です。


そう、そんな酔狂な美術館が埼玉県さいたま市の旧大宮エリアにあるのです。実はぼくも開館当時から気になっていたのですが、今回ソロ活とからめ、ようやく訪問を実現することができました。というわけでJR東北本線に揺られて埼玉へGO。

100年以上受け継がれた収蔵品には岸信介や大隈重信の盆栽も

▲館内の展示スペースは、屋内のギャラリーと企画展示室、屋外の盆栽庭園とに分かれています。
入館料はたったの300円

▲館内の展示スペースは、屋内のギャラリーと企画展示室、屋外の盆栽庭園とに分かれています。
入館料はたったの300円

JR土呂駅から徒歩6分、東武アーバンパークライン(野田線)大宮公園駅から徒歩10分の先にあるさいたま市大宮盆栽美術館。実はこのあたり、江戸時代に駒込東部にあった盆栽園が、関東大震災を機にこぞって移転し、「大宮盆栽村」として江戸東京の盆栽文化を発信してきた一大盆栽マーケットなのです。


いわば盆栽のメッカともいえる大宮盆栽村に2010年3月爆誕したのが、さいたま市大宮盆栽美術館、略して「盆美」。ここには、もともと市ヶ谷にあった高木盆栽美術館の大コレクションを買い取り、さいたま市が維持・管理・公開しているのだそうです。収蔵品は名品盆栽約100点をはじめ、盆栽を植える盆器、自然石を愛でる水石、盆栽にまつわる資料など。

▲「日本の涼景 水石と盆栽の美」展より《楓 銘 早春の譜》。
深い切り込みをもつ石に、楓を根付かせた珍しい石付き盆栽の名品

▲「日本の涼景 水石と盆栽の美」展より《楓 銘 早春の譜》。
深い切り込みをもつ石に、楓を根付かせた珍しい石付き盆栽の名品

お邪魔した7月中旬はちょうど企画展「日本の涼景 水石と盆栽の美」が公開されていたのですが、盆栽は長期の屋内展示が難しいため、実に年間15回もの企画展がおこなわれるのだとか。つまり、訪れるたびに異なる作品が見られるため、好事家なら足繁く通ってしまう美術館でもあるのです。

▲ギャラリー壁面には「盆栽の見方」「樹種と形態」「盆栽の技」「大宮盆栽村の歴史」などがわかりやすくまとめられたパネル展示があるので初心者でも安心

▲ギャラリー壁面には「盆栽の見方」「樹種と形態」「盆栽の技」「大宮盆栽村の歴史」などがわかりやすくまとめられたパネル展示があるので初心者でも安心

でも、盆栽の良さがわからないって? ぼくもそうです。


ご心配なく。盆美のコレクションギャラリーの壁面には盆栽の“いろは”がパネル展示されているので、まずはここでカンニングしておけば、園内の盆栽を前に「うーん、この根張りは立派だね」「枝ぶりが見事だ」「渋いシャリだねえ」などとわかったような口をきくことができます。

▲「真」「行」「草」3つの座敷が用意され、企画展に応じて飾りが変わります。真の間《瀬田川石》日本水石協会・島村宣伸氏所蔵

▲「真」「行」「草」3つの座敷が用意され、企画展に応じて飾りが変わります。真の間《瀬田川石》日本水石協会・島村宣伸氏所蔵

ちなみに盆栽や水石をはじめるにあたって必要なのは、「水やり」だけで3年かかるともいわれる技術なのですが、何より大事なのは大自然の情景がイメージできる「美的センス」なのだそうです。その点、普段から登山やピクニックで自然に親しんでいる人ほど有利とも言えましょう。ええ、つまりぼくです。


そして、もうひとつ盆栽をはじめるにあたって有利なポイントがありまして、それが「若さ」なのだとか。なんせ盆美には100年を超える作品も収蔵されているように、盆栽は手をかければかけただけ長持ちするもの。手をかけるには時間が必要ということは、なるべく若いうちから盆栽をはじめた人の方が断然有利だというわけです。若いうちなら、若木を買って自分でイチから育てられる楽しみ方もできます。


逆に言えば歳食ってから盆栽をはじめたら、時間を金で買うしかないのかもしれません。ぐぬぬ……。

▲常時40~50点の盆栽を展示する盆栽庭園。ここにはヘビー級のお宝盆栽が目白押ししてます。
2階のテラスから撮影

▲常時40~50点の盆栽を展示する盆栽庭園。ここにはヘビー級のお宝盆栽が目白押ししてます。
2階のテラスから撮影

では、その証明をこれからご覧いれましょう。屋内のコレクションギャラリーから、屋外盆栽庭園へと移動します。

▲大隈重信が所蔵していたという《黒松》。
まるでクッキーモンスターみたいにどでーんとそびえていますが、重量級はまだまだこれから。

▲大隈重信が所蔵していたという《黒松》。
まるでクッキーモンスターみたいにどでーんとそびえていますが、重量級はまだまだこれから。

▲元首相の佐藤栄作や岸信介のもとを渡り歩き、日本初の貴重盆栽1号ともなった《花梨》。
少なくとも明治から存在するこの作品は、春には可憐な花を咲かせるとか

▲元首相の佐藤栄作や岸信介のもとを渡り歩き、日本初の貴重盆栽1号ともなった《花梨》。
少なくとも明治から存在するこの作品は、春には可憐な花を咲かせるとか

▲園内最大級の《五葉松 銘 千代の松》。高さ1.6メートル、幅1.8メートル超の威容に、ミニくまちゃんのツリーハウスが建てられそう

▲園内最大級の《五葉松 銘 千代の松》。高さ1.6メートル、幅1.8メートル超の威容に、ミニくまちゃんのツリーハウスが建てられそう

▲経年劣化で枝や幹の一部が枯れた「シャリ」が味わい深い《五葉松 銘 青龍》。
オーバーハングした枝ぶりも立派すぎて、思わずマトリックスごっこ

▲経年劣化で枝や幹の一部が枯れた「シャリ」が味わい深い《五葉松 銘 青龍》。
オーバーハングした枝ぶりも立派すぎて、思わずマトリックスごっこ

▲公募により名前が決まった《黒松 銘 獅子の舞》の見どころはなんといっても、幹の肌。亀の甲羅のように見事に割れた樹皮が大きな魅力です

▲公募により名前が決まった《黒松 銘 獅子の舞》の見どころはなんといっても、幹の肌。亀の甲羅のように見事に割れた樹皮が大きな魅力です

いかがでしょうか。時間って大切なんですね。


あくまでミニくまちゃん視点だったので、カッチョいい作品ばかりをチェックしてしまいましたが、繊細なお盆栽もたくさんあるので、きっと誰もがお気に入りの逸品に出会えることでしょう。また、前述しましたが、訪れるたびに展示作品や作品の姿が変わるのも盆美ならではの見どころ。年パス1,020円ですから、買ってしまうのも手です。

▲大宮盆栽協同組合が運営する盆栽共同即売所。最初の一鉢をゲットするのにぴったりかもしれません

▲大宮盆栽協同組合が運営する盆栽共同即売所。最初の一鉢をゲットするのにぴったりかもしれません

そして、ここで盆栽の魔力にとりつかれてしまった方は……盆美の駐車場にある盆栽共同即売所へGO。1,000円台から鉢植えが手に入るので、手始めに盆栽を“飼って”みるのもありでしょう。


そう、手間ひまかけて育てなくてはいけない盆栽は、プラモデルというよりはペットに近いもの。買っておしまい、作っておしまいではない、エンドレスな泥沼……もとい魅力があるのです。


また、盆美では毎月第3日曜日に盆栽ワークショップを開催しているそうなので、右も左もわからないという方は参加してみるものよいでしょう。ただ見るだけでなく、盆栽文化を発信し愛好家を育てる。ひいてはそれが盆栽文化の継承につながるという点で、盆美は上手に機能しているのだな、といつになくマジメな結論に達しました。


ミニくまちゃんが盆栽やるかどうかは保留しますけど、そうこうするうちに歳食っちゃうんだよなあ。迷ってる場合じゃないよなあ。

▲ミュージアムショップでの人気のお土産は手ぬぐいだそうです

▲ミュージアムショップでの人気のお土産は手ぬぐいだそうです

ソロで“さいたま市大宮盆栽美術館”を楽しむための心得

その1 ソロなら音声ガイドがあるとより楽しいよ


その2 企画展入れ替え多し! 年パス推奨だよ


その3 屋外展示が多いので日よけ、虫よけ対策を


その4 興味をもったらワークショップに参加しよう


その5 他の盆栽園もまわってみよう

さいたま市大宮盆栽美術館
  • 所在地

    埼玉県さいたま市北区 土呂町2-24-3

  • 最寄駅

    土呂

  • 電話番号

    048-780-2091

本記事内の情報に関して

※本記事内の情報は2015年08月03日時点のものです。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
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