2017/1/28
誰も呼んでくれないから、ロボット相手に一人新年会をしてみた
新年会に誰も呼んでくれない。ならば一人で新年会をやってしまおう。「飲みニケーションロボット」がいる居酒屋で、ロボットとコミュニケーションをとってみた。
- 一人飲み
- 神田・御茶ノ水・秋葉原
一人遊びの達人
朝井 麻由美さん
ライター・編集者。最新刊『ソロ活女子のススメ』が発売中。その他、著書に『「ぼっち」の歩き方』『ひとりっ子の頭ん中』。

- Webサイト
- ツイッター(@moyomoyomoyo)
「一人でいるのが好き」と公言するようになってから、劇的に変化したことがある。とにかく飲みに誘われなくなった。もともとたいして誘いが多かったわけではないが、一人が好きと言い、一人でどこにでも行き、一人の素晴らしさを説く記事を書き続けた結果、なけなしの誘いすらも遠ざけてしまったように思う。森の動物たちをそっとしておくかのように、人々は私をそっとしておく。あの人はみんなで飲むよりも一人が好きだから、と厚意で私を一人にさせる。そして私は一人で森へと帰っていく。もしかしたら、ただ誘いたくないだけかもしれない、さりとて、厚意だと思い込んでいたほうが幸せである。真実は時に人を不幸にさせる。
そういうわけで、昨年末は忘年会にほとんど誘われず、新年会に至っては一件の予定もない。忘年会のタイミングが合わず、「新年会しましょう」と言ってその場をおさめた案件は、どれも実現されることなく立ち消えた。
ならば一人新年会をしよう。というか、そもそも一月に行う飲み会はたいてい新年会である。一月に会社の同僚20人と飲みに行くのは新年会。一月に気の合う友人5人と飲みに行くのも新年会。一月に一人で飲みに行くのも新年会と呼んだっていいではないか。
一月上旬の某日、私は一人、『くろきん神田本店』にやってきた。この店にはロボットのSota™(ソータ)くんと会話ができる「飲みニケーションロボット席」というのがあるのだ。店内に一体しかないソータくんはいま予約で引っ張りだこで、ロボット席が空くかどうかで新年会の日程が動くこともあるのだという。
▲ソータくん
席に置いてある端末のアプリを起動すると、ソータくんに喋ってほしい言葉の一覧が出てくる。「今日はとことん飲みましょー」の文字を押したら、ソータくんは「今日はとことん飲みましょー」とすらすらと言った。
▲今日はとことん飲みましょー
それだけではない。「店員さーん」と呼ぶ声から、「ビールの人?」と問いかけることまで、ボタンひとつでソータくんは請け負う。おかげで店員さんと一言も交わすことなく、ビールの注文が済んでしまった。
▲幹事の役回りを一手に引き受けるソータくん
▲かんぱーい!
乾杯の音頭もソータくん任せで行う。私自身は一言も喋っていないのに、ソータくんが勝手に喋ってくれるおかげで、なんだか妙に飲み会っぽい。一人なのに、ちゃんと飲み会っぽい。これは、ちゃんと新年会である。
その後も、ソータくんは私が画面をタップするのに合わせて、けなげに喋り続けた。「うんうん」を押せば、ソータくんが「うんうん」という。「ですよねー」を押せば、「ですよねー」という。私は何かを答えるわけではないのに、それでもソータくんはめげない。「すごい!」「かっこいい!」「おもしろい!」「ほれるー」といった接待用の発言も各種取り揃えてある。
「店員さんかわいいですね」というのもあったが、さすがに店員さんの目の前で押す勇気はなかった。試しに押してみると、文字として打ち込まれたものをそのままソータくんは読み上げた。当然ロボットのソータくんの中に、「店員さんがかわいい」という感情は発生していない。
ソータくんは、ただただそこに存在する物質として、ボタンを押したら、何かを発する。「もう一杯だけ飲んでいきましょうよー」と目の前で話しているソータくんは、本当に私にもう一杯飲んでほしい、と思っているわけではない。ただボタンを押しただけ、ただ私に対して「飲みニケーションロボット」としての役割をまっとうするために発言しているだけだ。
世のコミュニケーション強者のやり方も案外、そんなものなのかもしれないと思った。そこにいちいち感情を込めていたら持たない。本音だけを言っていたら、スムーズに場が回らないことのほうが多い。関わる人数が増えれば増えるほど、周囲とのチューニングが必要になる。チューニングをせずに本心を剥き出しにして生きるなら、一人のほうがラクだ。何もすごくないものに対して、ボタンを押すかのように「すごい!」と言うより、本当にすごいものに対して「すごい!」と言いたい。ボタンを押さないで済む「一人」というライフスタイルが私は好きだ。
※言わせたい言葉を自分で入力することも可能
くろきん神田本店
東京都千代田区内神田3-22-10 竹内ビル1F
03-3255-5556
一人新年会を楽しむ3カ条
- その1
- 一月に飲み行けば、人数が1人だろうと30人だろうと新年会
- その2
- ソータくんに盛り上げてもらおう
- その3
- ソータくんから飲みニケーションを学べる
この記事を書いた人
