【第1回・プラネタリウム編】ひとりで星を眺めたいときだってある

しばしば、こう問われる。「ソロ活動の何がいいの? 一人でどこかへ行くより、誰かを誘って行ったほうが楽しさは倍にならない?」、と。そうではないのだ。むしろ、“その場所・コンテンツ”そのものを純粋に楽しむには、ソロで行ったほうが断然いい、とすら思っている。


例えば、焼肉が死ぬほど好きだとしよう。誰かを誘った場合、その誘った相手がいくら美味しそうに肉を食べているからって、本当に自分と同じくらい心の底から焼肉を好きかどうかなんて分からない。あくまで、他人だからである。相手は焼肉を同じくらい楽しんでくれているかな? というか、食べながら何か会話しなきゃならないよな。肉にばかり集中していちゃダメだよな。あと、いくら自分がカルビ大好きだからって、相手も一緒に食べる以上、そればかり頼んでないでバランス良く注文しなきゃだよな。よし、気が進まないけど、適度にハラミなども頼んでおくか。と、このように、何かと雑音が多いのだ。大好きな“焼肉というコンテンツ”に集中したくても、ほかに気にしなければならないことがたくさんある。


この連載は、一人で遊ぶことを愛しすぎている人間が、「普通、一人で行かないような場所でもどれだけ楽しめるか」を検証していくのがテーマである。


今回セレクトしたのは、プラネタリウム。もしかしたら、普段から星が好きであれば、当たり前のように一人で行くものなのかもしれない。しかし、筆者は星に造詣が深いわけでもなければ、プラネタリウムはカップルで行くもの、というイメージがあった。仲睦まじく並んで座って、寝っ転がらんばかりに椅子が倒れて、手を繋ぎながら天井を眺めて、なんか良いムードになるんでしょう? 終わった後、途中寝てたでしょー、とかキャッキャ言い合うんでしょう、どうせ?

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向かったのは、葛飾区の「郷土と天文の博物館」。ここを選んだのには理由がある。どうも、ここのプラネタリウムは、都内随一の本気度を誇るそうなのだ。通常、プラネタリウムでは出来合いの映像を流すものだが、「郷土と天文の博物館」ではオリジナルの映像を制作し、天文愛をこれでもかと見せつけてくるのだという。最寄りも、お花茶屋駅という至極マイナーな駅であり、しかも駅から10分以上歩く。デートスポット感はゼロだ。お花茶屋駅でデートして、その後何するの、という話である。山手線で言えば近いのは日暮里や巣鴨。老夫婦か、と。

▲入口の前の地面には星座のレリーフが

▲入口の前の地面には星座のレリーフが

▲ちなみに、HPの交通案内には、緯度と経度まで記載されている

▲ちなみに、HPの交通案内には、緯度と経度まで記載されている

館内に入ると、本題のプラネタリウムに辿り着く前にも、見応えたっぷりだった。「“郷土と”天文の~」というだけあって、葛飾区の歴史についても展示されている施設のよう。


入口近くにいきなり昭和の銭湯を再現した部屋があり、

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▲湯船に浸かりながら記念撮影もできる

▲湯船に浸かりながら記念撮影もできる

二階に上がると、大正時代にまで遡り、葛飾区の家屋や工場、玩具産業に関する展示が。

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▲葛飾区はセルロイド産業が盛んだった

▲葛飾区はセルロイド産業が盛んだった

ここまででも充分濃厚な展示の数々だが、ようやく本題である。ちなみに、3階の天文とプラネタリウムのフロアに行くまでの踊り場や階段の壁には、天文尺時計にフーコーの振り子、天体をモチーフにしたステンドグラスなど、余すところなく展示物が押し寄せてくる。

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ちなみに、ここまでで館内ですれ違ったカップルはゼロ。圧倒的な老人と母子率に、まれに天文マニアとおぼしき一人客の姿も。そんな面々と並んで、ガリレオやコペルニクスの望遠鏡に、火星儀、天球儀、といった本気の展示物を眺める。星の爆発や誕生の仕組みを解説したパネルに、巨大分度器の模型まであり、これは、あれだ、そこはかとない「理科の資料集」感。資料集がそのまま飛び出してきたようなフロアだった。

▲ニュートン、ケプラー、ガリレオ、コペルニクス、プトレマイオスの望遠鏡

▲ニュートン、ケプラー、ガリレオ、コペルニクス、プトレマイオスの望遠鏡

▲パネル

▲パネル

▲天球儀

▲天球儀

▲火星儀

▲火星儀

一人でプラネタリウムに行ってみた_73695

そしていよいよ、ここの目玉であるプラネタリウム映像の上映へ。映像は、一日に3~4回上映され、このときの映像のテーマは「ハワイ、海と星と」。ちなみに、時間が合わず観ることはできなかったが、8月中は、ほかにも 「クイズ!スター&プラネット2014」という映像が上映されていた。案内資料には「静かでロマンチックな雰囲気ではないし、眠れません。癒されません。60点未満だと恐怖の『罰ゲーム』が」との記載が。こんなプラネタリウム、聞いたことない。

ハワイ、海、星、と言われると、字面ではロマンチックな気がしてしまうが、実際は椅子も申し訳程度にしか倒れなければ、最初からハワイの星の名前など聞いたこともないような用語が次々と飛び交い、色気ゼロ。やはり、「郷土と天文の博物館」はぼっちの味方だった。プラネタリウムといえば、夏の大三角形でしょ、こと座のベガでしょ、と舐めていたら出鼻をくじかれるのだ。なじみのアルタイルもデネブも一向に現れる様子もなく、お目見えするのは、カ・イヴェイクアモオ、マナイアカラニ(いずれもハワイの星の名前)などといった呪文のような言葉。やっと、さそり座が出てきたと思ったら、さそり座ではなく「マウイの釣り針」との名前で登場。ハワイでは、さそり座のことがこう呼ばれていたらしい。のべつまくなしに知識欲を刺激する構成で、映像が終わったあとには、なんと拍手が起こっていた。


足を踏み入れてから最後まで、郷土及び天文への“熱狂”を感じたのだが、施設が熱がこもっていれば、客も狂熱的。 狂おしいほどそのコンテンツを楽しみたければ、やはり一人行動が一番なのである。

プラネタリウムを楽しむための3か条

その1 デートスポット感はゼロ。施設の提供する天文愛に浸ろう

その2 施設ご自慢の映像は数種類ある。事前にHPで観たい映像の時間をチェック

その3 「今、自分は知的欲求を満たしてる!」と悦に入りながら見学すると、濃密な時間を過ごせる

葛飾区郷土と天文の博物館
  • 所在地

    東京都葛飾区白鳥 3-25-1

  • 最寄駅

    お花茶屋

  • 電話番号

    03-3838-1101

本記事内の情報に関して

※本記事内の情報は2014年09月10日時点のものです。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
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