一人で気球に乗れば地上の煩わしさが軽減されるか試してみた_72591

私は気球に乗りたい。気球に乗ってどこまでも飛んでゆきたい。この連載は、集団行動が苦手で、一人でいることをこよなく愛する私が、一人で過ごす方法を模索するのがテーマだ。けれどそもそも、地上にいるから、ぼっちだったり、ぼっちじゃなかったりするのだ。



誰かと一緒にいたり、一人で過ごしたり、寂しかったり、人といることが煩わしかったり、そういうものはすべて地面の上での話。空に浮かべば、そういったものから、何もかもから解放されるに違いない。



そこで、埼玉県にある所沢航空記念公園で3月から12月の間、毎月1回開催している気球に乗るイベントに参加することにした。熱気球運営機構が主催する『「ふわり」熱気球体験!』である。搭乗できるのは先着100名程度まで。その月にもよるが、受付開始の6時50分よりも前には100名以上が並んでいることのほうが多いという。



最初は4月。この日は夜中から強風が吹き荒れていた。4時に起き、5時過ぎに家を出るも、外へ出てみると歩くのすら苦労するほどの風。空に気球が浮かんでいそうなのどかな天気ではない。案の定、中止との発表。すごすごと引き返したのだった。



翌5月、今度こそ乗れると思っていた。数日前から天気予報も晴れ。当日も雲ひとつない快晴。申し分ない気球日和のはずだった。非の打ちどころのない気球日和のはずだった。まごうことなき気球日和のはずだった。世界が私の気球搭乗を祝福しているくらいに思っていた。

▲朝6時の時点で気球に乗りたがっている人たちがこれだけいた

▲朝6時の時点で気球に乗りたがっている人たちがこれだけいた

朝6時、所沢航空記念公園にはすでに70人ほどの列ができていた。並んでいるのはほとんどが家族連れ。列に入ると、近くにいた案内スタッフの方が「今日は中止になるかもしれません」と顔を曇らせている。どうも、今日は強風とまではいかずとも、そこそこ風が吹いているため、気球のバルーンに空気を入れて立ち上がらせる間に、風に煽られて倒れてしまうのだという。



なんとなく、気球は風が吹いていたほうが飛びそうな気がしてしまうが、実際はほぼ無風なくらいでないと安定しないらしい。しばらく待っていたら、気球のバルーンに空気が入り始めた。

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「たぶん空気が入り切る前に倒れてしまうと思うのですが、試してみまーす!」とスタッフさんがメガホンで呼びかけている。横たわったバルーンに空気が入っていく。

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むくむくむくむくと膨らむが、半分ほど膨らんだところで風に煽られてバルーンがしおれてしまう。膨らんではしおれ、膨らんではしおれ、気球が立ち上がる様子はない。

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▲膨らみかけてるのに、惜しい

▲膨らみかけてるのに、惜しい

朝7時をまわったところで正式に中心のアナウンスが入った。この日、先頭の人は朝4時半から待機していたらしい。休日の朝早くから並んだ挙句、こうして乗れずじまいになることもあるのだ。1人客は見当たらない。これは結構、意外である。もう少し、気球マニアのような1人客がいそうなものなのに。100人あまりの家族連れと、1人の私は、先月同様すごすごと帰宅した。

▲この日、最も膨らんだ瞬間

▲この日、最も膨らんだ瞬間

6月に入った。6月の開催予定日は6月12日。梅雨入りしてしまったため、天気はしばらく雨模様だった。月に1回しかないイベントの日が、ピンポイントで雨も風もない天気になるのは、思った以上に難しいことなのだ。なかば諦めていた私は当日の朝、少し寝坊をしてしまった。どうせ雨だろう、雨でなくても、風なのだろう。そう思って窓の外を見ると、雨は降っていない。風も、もしかしたら吹いていないかもしれない。



少なくとも風の音は聞こえないし、木々が風に揺れている様子もない。ついに、その日が来たのだろうか。今日こそが求めていた気球日和なのだろうか。つとめて期待しすぎないように気を配りながら、急いで所沢へ向かった。またしても気球に乗れなかったときのために、意識的に期待しないようにコントロールしなければならないのだ。人は期待するから悲しくなるし、期待するから怒りを覚える。そういう生き物である。

▲あっ!

▲あっ!

3度目の所沢航空記念公園へ到着すると、浮かんでいた。求めていたそれが、空に浮かんでいた。ついに気球に乗れるのだ。ぷかぷかと浮いている気球を横目に、急いで列へ向かった。ほどなくして順番が回ってきた。正味1分ほどの搭乗にこぎつけるために、苦節3カ月。やっと、乗れる。

▲いよいよ、乗る

▲いよいよ、乗る

▲だんだん浮かんできた

▲だんだん浮かんできた

▲結構浮かんだ

▲結構浮かんだ

▲上空から見下ろす

▲上空から見下ろす

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▲気球の上部を見上げると、こうなっている

▲気球の上部を見上げると、こうなっている

▲バルーン内の空気をバーナーで温めて上昇させているため、気球に乗っていると結構熱い

▲バルーン内の空気をバーナーで温めて上昇させているため、気球に乗っていると結構熱い

たった1分程度の乗船時間では、正直言って地上から解放された喜びを感じるまでに至らなかったような気もする。けれど、誰かと誘い合わせることもなく、誰かに起こしてもらえるわけでもないのにやり遂げたのは、単純に誇らしい。お父さんが気球に乗りたがるから家族で連れ立ってきました、とか、子どもが絵本で気球を見て以来乗りたがるから無理してきました、というのとはわけが違う。



私は気球がふわりと浮きあがった瞬間、上空で嬉しさを噛みしめていた。それが気球に乗れた嬉しさなのか、毎月の早起きから解放された嬉しさなのか、自分でもよくわからなかったけれど、たぶん、後者なんだと思う。

一人気球を楽しむ3カ条

その1 気球に乗りたい強い気持ちで早起きをする

その2 天候に恵まれず中止になってもめげない

その3 高ぶる期待のわりに、一瞬で終わるので注意

所沢航空記念公園
  • 所在地

    埼玉県所沢市 並木1-13

  • 最寄駅

    航空公園

本記事内の情報に関して

※本記事内の情報は2016年06月30日時点のものです。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
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