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ソロ活の達人に聞く!

2015/7/24

浴衣の男女が集う東京湾納涼船に一人で乗ってきた

夏の恒例イベントとなっている「東京湾納涼船」は、浴衣でめかし込んだ若い男女が集う場所。浴衣嫌いの筆者が一人で行ったらどうなるのか、浴衣を着込んで乗り込んできました。

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一人遊びの達人

朝井 麻由美さん

ライター・編集者。最新刊『「ぼっち」の歩き方』が発売中。その他、著書に『ひとりっ子の頭ん中』。

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ツイッター(@moyomoyomoyo)
夏の恒例イベントとなっている「東京湾納涼船」は、浴衣でめかし込んだ若い男女が集う場所。浴衣嫌いの筆者が一人で行ったらどうなるのか、浴衣を着込んで乗り込んできました。

 浴衣が恥ずかしい。この気持ち、伝わるだろうか。その昔、夏祭りや花火大会に行く際も、小学生の私はかたくなに浴衣を拒んだ。仮装やコスプレの類は好きなのだが、浴衣だけはどうも苦手なのだ。一つには、浴衣は、着るとその瞬間から“魅力的なアイコン”として見られる装いである点。もう一つには、大勢が足並みそろえて“同じおめかし”をすることで、“アイコンとして比較される”からなのではないかと自己分析している。同じ理由で、結婚式などパーティーに参加する際のドレスも苦手である。

 それゆえ、夏という季節は憂鬱なことが増える。花火大会だの納涼船だの、街全体が浴衣を煽ってくる催しが目白押しな上、こと女性に対してはそういう場では浴衣を着ろという無言の圧力が強すぎるのだ。

 ところで、浴衣が苦手であることによらず、東京湾の納涼船文化(※)とやらは、かねてより理解できないと思っていた。“納涼”と言うからには、暑さを忘れて涼やかに過ごしたいのだろう。だからといって、モルディブあたりの人っ子ひとりいないプライベートビーチならまだしも、何百も何千もいる乗船者でぎゅうぎゅう詰めの中、東京湾など見て涼しい気持ちになれるのか、否。また、納涼船は浴衣で乗るのが望ましいとされているが、浴衣自体すごく涼しい衣類かというとそうでもない。手足がすべて覆われる浴衣よりも、おそらく半袖短パンのほうが暑さをしのぐのに優れているだろう。あまつさえ、浴衣姿の異性を目の当たりにすると、どちらかというと少し興奮して暑くなるのではなかろうか。納涼どころではない。クーラーのきいたデパートにでもいたほうが涼しいに決まっている。
(※東京湾の夏季限定クルージング。60年以上続く夏恒例のイベント)

 理解できない納涼船カルチャーと分かり合うために、浴衣と歩み寄るために、一人で納涼船に乗り込むことにした。もちろん浴衣を着てだ。人間がストレスで死ぬようにできている生き物だったら、私はとうに死んでいるだろう。

 東京湾納涼船は、浴衣の店と提携している。乗船場のすぐ近くでレンタルができるそうなので、それを活用。借りられる浴衣はなんとマジックテープ式だった。浴衣の持ち合わせがなくてわざわざ借りるような輩は、私のように浴衣に明るくない人が多いのだろう。着付けができぬ者が大挙したときにマジックテープが良い仕事をするわけだ。着てしまえば通常の浴衣と変わりはないのだが、マジックテープで貼り付けていることは、あまり人に知られたくない事実である。

▲着慣れてなくても簡単に着られる

 レンタルできるのは、浴衣と帯と下駄。肌着と髪飾りは受付で買うことができる。

▲浴衣、着た

 ここで、懺悔も兼ねて、浴衣レンタルのスタッフさんとの雑談も記しておく。
スタッフさん「今日はお友達と?」
私「……あっ、あ、あ、は、はい、あっ、あっちで待ち合わせてて……」
スタッフさん「大学生?」
私「あっ、あっ、はぁ」

 嘘しか言っていない。咄嗟に「一人です」と言えなかったばかりか口ごもったせいで、なんとなく大学生ということになってしまった。

 さて、浴衣レンタル場に荷物を預けて、乗船場へ向かった。誰もが列をなし、互いに写真を撮り合うのを横目に、私は険しい顔で船内マップの予習をする。

▲楽しい顔

▲険しい顔(自撮り)

「みなさーんこんばんはー! 今日から納涼船がスタートです!」
「うぇーい!」
 こんなテンションで乗船の列が前に進む。何が悲しくて一人でぼそぼそと「うぇーい」と言わなければならないのだろう。浴衣を拒んだ20年前の小学生は今、マジックテープの浴衣で一人、「うぇーい」と言っています。咳をしても一人。「うぇーい」と言っても一人。1000人以上いる乗船客の中、一人で来ている人など見当たりやしない。私は、列の前を歩く見知らぬ女性二人組の極力近くを歩くことにした。「そう、私、この二人と友達なんですよ」という顔をしながら。

▲前を歩くこの二人と一緒に来たんです私!

 乗船し、食べ物やお酒の売店を一通り見て回り、陽が落ちる直前の東京湾を、人のいないスポットから眺める。その後ろ姿を、船の端にカメラを置き、セルフタイマーで撮影したのがこの写真である。

▲咳をしても一人。「うぇーい」と言っても一人。海を見ても一人

▲納涼船内の売店

 売店で買った肉巻きドッグ(肉巻きおにぎりを串にしたもの)を食べ、レインボーブリッジに向かって乾杯をしていたら、いよいよムーディーになってきた。

▲予想以上においしかった肉巻きドッグ

▲レインボーブリッジを通り過ぎる際に船内に乾杯のアナウンスが流れる

▲全体としては3~5人のグループ客が多く、カップルは少なめ

 ところで、東京湾納涼船には「ゆかたダンサーズ」という名物があるそうな。毎年オーディションで選ばれた踊り子たちが、船内のステージでショーを行うらしい。どれどれ、と見に行ってみると、ステージを差し置いて人だかりが……。輪の真ん中にいたのは、ダンサーズに見向きもせず、ステージの真横で腕を振り上げ、飛び跳ね、文字通り踊り狂っている何者かだった。なぜここまで熱いパトスをほとばしらせて踊っていたのかは分からない。だが、特筆すべきはこの人が(おそらく)ソロで乗船していることだ。勝手な親近感を覚えた私は、ゆかたダンサーズもそこそこに踊り狂うこの人を眺め続けてしまったのだった。

▲ダンサーよ神話になれ

▲若干、存在が霞んだゆかたダンサーズ

▲ゆかたダンサーズに合わせて体を動かす見物客。ちょっとオタ芸っぽかった

 クルージングもほぼ後半、乗船客も酒が回ってきた頃合いである。うろうろしていると、女性のグループ客に売店で買ったお寿司を配って回るおじさんや、「てか二人はどこから来たの?」「てか潮風でべたべたじゃない!?」「てか飛行機飛んでてすごくない!?」とやたら「てか」「てか」言っている若い男子になど、初対面の女性に向けたロマンスがあちこちで繰り広げられていた。試しに大学生らしき三人組の男性客を尾行して耳をそばだてていたら、「なんかあっちで踊って女の子とウェイウェイできるっぽい」「ワンチャンあるじゃん!」といった会話が交わされていた。事実として、納涼船にナンパ目的でやってくる人は少なくないようだ。しかしながら、2時間のクルーズ中、一人で険しい顔をして延々と船内をうろついている浴衣女(マジックテープ)に話しかけてくる輩はとうとう現れなかった。納涼船の中でも、ソロ活のサンクチュアリ(聖域)は守られていた、ということだ。そう思うことにしている。

▲人知れずひっそり休めるフリースペースもあります(ほとんど利用客がいなかった)

 一人で乗船することで、あんなに苦手だった浴衣と歩み寄れたかと言ったら嘘になる。ただ、納涼船と分かり合うことはおおいにできたように思う。納涼船に限らず、大勢で何かに参加すると、参加しているコンテンツ(納涼船)が“目的”ではなく“ツール”になることが多い。浴衣も、船も、海も、ビールも、肉巻き串も、ダンサーズも、船の中で起こることすべてが、一緒にいる誰かと仲を深めるためのツールである。ソロ活では、それがツールではなく、“目的”になる。ゆえに、誰かと乗るよりもずっと、納涼船の隅々まで意識がいったのだった。船を降りて何日もたって今なお、踊り狂っていたあの人や、ウェイウェイしたがっていた大学生のその後が気になっている。彼らは結局ウェイウェイできたのだろうか。それは“納涼”ではないものの、クーラーのきいたデパートで涼んでいるよりずっと味わい深かったのは確かである。

東京湾納涼船
【会 場】竹芝~東京湾内周遊~竹芝
【日 程】2015年7月1日(水)~9月30日(水)19:15~21:00

※2015年7月24日時点の情報です。価格、イベント内容は変更になる場合があります。

東京湾納涼船をソロで楽しむ3カ条

その1
乗船場の近くでレンタルできるマジックテープ浴衣が便利
その2
乗船したらまずは海が見やすい位置に行き、徐々に陽が落ちるさまを眺めよう
その3
船内のロマンスや人間模様の観察が楽しい

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竹芝客船ターミナル

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朝井 麻由美さん

ライター・編集者。最新刊『「ぼっち」の歩き方』が発売中。その他、著書に『ひとりっ子の頭ん中』。

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