見た目が派手で、キレイで、ノリがいい、そういう奴らはみんな敵だ、と思っていた。流行り言葉で雑にまとめるなら「パリピ」。彼らのような派手な奴らが“上”で、地味なぼっちは“下”。その風潮に苦しめられてきたくせに、結局自分もその基準で物事を判断していたのだ。本当は、上も下も敵も何もないはずなのに。そう気づくまでずいぶん長い時間がかかってしまった。「一人が好きです」と開き直り、一人で遊びに行く経験を重ねて、一人でいる自分を本当の意味で好きになることでようやくそのことに気付いた。


けれどそうは言っても、正直いまだに派手な人たちを見ると身構える癖は抜けていない。心のどこかで“人種が違う”と反射的に敵視しそうになる私がいる。人種が違う、と思うことまではいいけれど、敵視はやめたい。自分のナワバリを、おらが村を、守りたいがあまりに無意識のうちによそ者を攻撃してしまうのは人間の業だと思う。これだから、世界は平和にならない。

▲東京プリンスホテルの「CanCam×Tokyo Prince Hotel Night Pool」へ

▲東京プリンスホテルの「CanCam×Tokyo Prince Hotel Night Pool」へ

そもそも、私は彼ら(派手な奴ら)のことをよく知らないのではないだろうか。性格も趣味嗜好も自分と正反対である、となんとなく思ってはいるものの、彼らが日々、何に泣き、何に笑い、何を思って生きているのかをわかっていない。たぶん、知ろうともしていない。よく知りもしないのに、見た目や雰囲気のイメージだけで嫌っていた。ならば彼らを知りに行こう。彼らの行動をなぞって、彼らの気持ちになってみようではないか。

【一人ナイトプール体験記】東京タワーが見えるプールでパリピになってきた_72338

そういうわけで、昨今流行りのナイトプールに行ってみることにした。どうやら最近はパリピの間で、日焼けする海よりも、暑すぎず日焼けも気にならないナイトプール需要のほうが高いらしい。


ところが、クロゼットをひっくり返して愕然とした。普段プールにも海にも行かない私は、水着を持っていない。あるのはずいぶん前に買った微妙にサイズの合わない安物の水着くらいのもの。そのため、水着を買いに行くことから始めたのだが、まあ驚くほど着たい水着がない。目にする水着がどれもこれも着たくなさすぎるのだ。


……水着、改めてひとつひとつ見てみて思ったんですけど、布の面積が少なすぎじゃないですか? ちょっとおかしいくらい布が小さい。ほぼ無の世界。あんなに小さかったら誤差の範囲。四捨五入するとゼロと言ってもいい。よく考えてくださいよ、いくら夏は暑いとはいえ冷たい水の中に入るんですよ。水温次第では寒い思いをするかもしれない。だったらもう少し丈が長くてもよくないですか? ねえ。布の面積が多いと泳ぐときに邪魔かもしれないけど、そこはみなさん大人ですから、そんなに本気で泳がないでしょう? なんなんですか? 世の中の水着のあの形状は。当たり前のようにヘソを出し、身体のラインを容赦なく見せつけ、乳には申し訳程度の布きれ。この布きれを見て、「夏までにダイエット」と女子たちが言う意味がようやくわかった。でも、それは前提が間違っている。もっと常識を疑っていこう。水着の形状がこうなっているほうがおかしい、という発想になるべきなのではないだろうか? 普段は夏だろうと「体型カバーファッション」などと言って服を売り出しているくせに、なぜ水着になると急に体型を見せようとしてくるのか。大いなる矛盾。これはどう考えても水着側がおかしい。私は何も悪くない。

【一人ナイトプール体験記】東京タワーが見えるプールでパリピになってきた_72339

どうしても普段着ている服装に近いものがほしかった私は、ネットから店舗まで何軒も何軒も探した。そしてようやく見つけたのが、黒いカーディガンのようなタイプの水着だ。ワンピース型の水着に、この黒いカーディガン水着を羽織れば、かなり普段着に近くなる。結構高かったけれど、背に腹は代えられない(しかも経費で落ちない)。ところで、数十行前に「パリピを知るために、彼らの行動をなぞってみる」と言っていたくせに、さっそく失敗してしまった。こんな水着でナイトプールに来るパリピなんて絶対いない。


今回行った「CanCam×Tokyo Prince Hotel Night Pool」のオープンは18時。日没が19時頃なため、オープン直後は“ナイト感”はまったくない。この日はまだ人もいなく、私だけの貸切状態だった(※混雑状況は日による)。

▲水に入るのが久しぶりすぎて怖い

▲水に入るのが久しぶりすぎて怖い

プールには様々な浮き輪が所狭しと浮かんでいた。輪っかタイプのよくある浮き輪もあれば、上に座ったり寝転がったりするタイプの浮き輪もある。このナイトプールを企画したCanCam編集部が海外で買い付けてきたらしい。


さっそくユニコーン型の浮き輪に乗ってみた。浮き輪をプールのへりに寄せてプールサイドから浮き輪の上に降りるようにして乗るのだが、これが結構難しい。少しでも足を滑らせたらひっくり返るし、もたもたしていると浮き輪が勝手に動いて遠くへ行ってしまう。

▲楽しい

▲楽しい

無事乗れて、プカプカ楽しく浮いていた次の瞬間、悲劇が起こった。

▲ドボーン、と落ちた瞬間を激写。(※ナイトプールのスタッフさんがプールサイドにたくさんいるため、一人で行っても写真を撮ってもらえる)

▲ドボーン、と落ちた瞬間を激写。(※ナイトプールのスタッフさんがプールサイドにたくさんいるため、一人で行っても写真を撮ってもらえる)

横にある別の浮き輪に移ろうと体を揺らしたら、ひっくり返って水の中に落ちてしまったのだ。


あんまりだ……。自分の泳ぎ能力を呪う。私はろくに泳げないのだ。基本的には浮き輪にしがみついてじっとしていることくらいしかできない。それなのに、浮き輪から浮き輪に飛び移ろうだなんて身の程知らずだった。

▲泳げないので水の中をゆっくり歩いて移動

▲泳げないので水の中をゆっくり歩いて移動

▲動いたら落ちるからおとなしくしてよう……

▲動いたら落ちるからおとなしくしてよう……

次は輪っかタイプのパイナップルの浮き輪を使ってみた。ところが、いまいちうまく使いこなせない。海外で買い付けたものだからなのか、浮き輪が大きすぎて、輪っかのところに必死でぶら下がるような形になってしまう。

▲よいしょっと

▲よいしょっと

▲しがみついていないと落ちる

▲しがみついていないと落ちる

▲足をバタバタさせて移動しようとすると、ほとんど手しか見えなくなる

▲足をバタバタさせて移動しようとすると、ほとんど手しか見えなくなる

次はスイカの浮き輪へ。輪っかの中に入るとうまくいかないので、外側にしがみつくようにしてみたら、これはこれでいまいちだった。しがみついている重力で、浮き輪が斜めになってしまう。

▲浮き輪をうまく使いこなせない

▲浮き輪をうまく使いこなせない

そうこうしているうちに、人が増えてきた。浮き輪から落ちないように必死な私の後ろでは、誰も彼もがスマホで自撮りをしている。ナイトプールではスマホや自撮り棒を持ち込むのが当たり前の世界のようだ。

▲浮き輪が難しくて、自撮りなんかする余裕ない

▲浮き輪が難しくて、自撮りなんかする余裕ない

19時半を過ぎて、あたりが暗くなってきた。

▲寝転がれるタイプの浮き輪の上から空を見上げると、なかなか気持ちがいい

▲寝転がれるタイプの浮き輪の上から空を見上げると、なかなか気持ちがいい

暗くなり、人が増えると、ユニコーンやレインボー、シェルの形をした、上に座るタイプの浮き輪に行列ができ始めた。どうやら、みんな浮き輪に乗って写真を撮るために、並んでいるらしい。これにはたまげた。プールは「泳ぐ場所」でしかないと思っていたけれど、ここは従来のプールではない。どちらかというと、海や砂浜での過ごし方に近く、もっと正確に言うならば“スタジオ”である。フォトスタジオよろしく、みんな浮き輪という小道具の順番待ちをしている。Instagramに投稿する写真を撮るための、スタジオ。それがナイトプールなのだ。

▲写真右側に群がっている人たちは全員、浮き輪の順番待ち

▲写真右側に群がっている人たちは全員、浮き輪の順番待ち

当然泳いでいる人など一人もおらず、むしろ泳ぐと近くの人のスマホに水しぶきがかかって嫌がられる。従来のプールの概念をまるっきり変えてしまい、新しい文化を作り出したナイトプールというコンテンツに、私はなんだか感動を覚えたのだった。

【一人ナイトプール体験記】東京タワーが見えるプールでパリピになってきた_72352

私もシェルの形をした浮き輪に並んで、写真を撮ってみた。ところが、どうもいまいちサマにならない。どうポーズを取ればいいのかもわからず、近くにあった光るボールを持ってお茶を濁す。撮れた写真を見てみると、怪しい占い師にしか見えない私の姿が映っていた。

▲なぜか左手で光る玉にパワーを送っているようなポーズに……

▲なぜか左手で光る玉にパワーを送っているようなポーズに……

▲浮き輪が勝手にくるくる動くので、まっすぐ撮るのに苦戦。水晶玉で占っているような謎の写真が撮れていた

▲浮き輪が勝手にくるくる動くので、まっすぐ撮るのに苦戦。水晶玉で占っているような謎の写真が撮れていた

そればかりか、シェルから降りようとした瞬間、また落ちてしまった。

▲降りようとしたら……

▲降りようとしたら……

▲ドボーンと落ちた

▲ドボーンと落ちた

写真を撮るときや降りるのを失敗したとき、一人で苦戦していた私を助けてくれたのは、あんなに苦手意識を持っていた派手なパリピだった。一人だって、大勢だって、みんな目的は同じ。写真を撮っている人は誰であってもブラザー。お互いに助け合っていい写真を撮ろうとする協力体制が出来上がっていた。


もうひとつ、いい発見があった。ナイトプールに来ている派手な女子たちの血のにじむような努力に、私は脱帽してしまったのだ。最初から最後まで、とにかく私は浮き輪から落ちまくった。私が下手くそなのを差し引いても、浮き輪は乗るのも降りるのも見た目以上に難しいと思う。ぼんやりしていると、本当によく落ちるのだ。ところが、私以外ほかに落ちている人は見当たらなかった。いたとしても数人、それも落ちる際に、顔と髪を素早く水から守っていた。髪を巻き、ばっちりフルメイクをしてやって来るナイトプールはフォトスタジオであり、完璧なヘアメイクを死守する戦場でもある。


パリピに苦手意識があったのは、“見下されるんじゃないか”と反射的に思ってしまうがゆえだ。逆に言えば、努力をする気がない自分への後ろめたさでもある。「苦手」は自分を映す鏡だなあとつくづく思うのだった。

【一人ナイトプール体験記】東京タワーが見えるプールでパリピになってきた_72357

一人ナイトプールを楽しむ三か条

その1 水着が苦手でも、最近は洋服のような形をした水着が売っている

その2 泳ぎが下手な人が一人で行くと、浮き輪から落ちまくるので注意

その3 譲り合って協力し合って写真を撮る、優しい世界

CanCam×Tokyo Prince Hotel Night Pool

開催場所:東京プリンスホテル

住所:東京都港区芝公園3-3-1

電話番号:03-3432-1111

最寄駅:御成門/赤羽橋/大門/浜松町

※2018年8月9日時点の情報です。内容など、情報は変更となる場合がございます。

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