50代現役ミュージシャンと飲み明かす新高円寺

♥若者が夢を追う街というイメージの強い高円寺ですが、実際のところ、夢を追い続け、追っているうちにいつの間にか何かを追い越してしまい、それでも追い続け、そのまま40、50歳と年を重ねている人も多くお見受けします。

私はそういうことに対して否定的になる気はない。たとえばミュージシャンを目指していたとして、商業的に成功することがあらゆる人にとってのゴールではないはずです。生活は苦しいながらも、ごく一部の人に強く支持される音楽をひたすら究め続けている40代50代だってカッコいいと思うんです。

♥ということで今回は、50代になってもロックを究めている、高円寺に住んで25年以上、今は高円寺南の6万円のアパートに住んでいるミュージシャンとデートします。彼は50代ですが、中年太りなどとは縁遠い鍛えられた細い体、時々見せる激しいアクションや繊細なギタープレイなどからはまったく年齢を感じないんです。

しかし、彼の稼ぎは、知り合いのつてで時々やるライブハウス関係のバイトと、ライブ活動と、CDなどの販売で得るわずかな収入だけ。だから当然デートは全部私のおごりだ。私はしっかり働いてる設定ですから、はっきり言って彼は私のヒモ的な立場です。それでいいんです。

♥デートは、彼の住む新高円寺の近くのルック商店街で中華屋に入って飲むか、もうちょっとJRの駅の方に歩いてパル商店街の路地を入って飲む。とにかく高円寺南周辺で飲む、だけ。JRの北口まで行くと、若手バンドマンに会ってしまったりする。若手からは半ば伝説の存在のように扱われる彼は、それを面倒くさがるのだ。あまり人が来ない、勝手知ったる店で飲むのが一番心地いい。

私は彼から時に愚痴を聞いたり、時には野望を聞いたり(彼は今でもきちんと野心的なのです)して、一番安らぐ時間を過ごします。だって、私はもともと彼の一ファンとして知り合ったんですから。彼の生の心情を聞けることは、いつまでたっても、どんなことでも、うれしい!

彼はたまに悪酔いして暴れたりもしますが、それを押さえられるのは私だけ。こんな関係はめったに味わえるもんじゃない。この妄想はまだまだ掘り下げがいがありそうなので私の脳内で続けさせていただきます。



文・イラスト:能町 みね子さん


能町 みね子さん
能町 みね子さん

能町 みね子さん

文筆業兼イラストレーター。「オカマだけどOLやってます。」でデビューし、近刊に「『能町みね子のときめきデートスポット』、略して 能スポ」(講談社文庫)「ときめかない日記」(幻冬舎文庫)など。「久保みねヒャダ こじらせナイト」にも出演中。
https://twitter.com/nmcmnc

※この記事は、レッツエンジョイ東京のフリーペーパー「東京トレンドランキング」2011年10月号(9/20発行)に掲載されたものです。
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