連載 スイーツライターchicoの東京お菓子めぐり

アシェット デセールをコースで楽しむ「ESqUISSE SINq(エスキス サンク)」の新たな提案。

フレンチのコースをあざやかにしめくくり、忘れられないものにしてくれる甘美なデセール。「ESqUISSE CINq」(エスキス サンク)は、レストランでしか味わえなかったアシェット デセール(皿盛りデザート)をコース仕立てで味わうことができる、レストラン「ESqUISSE」(エスキス)の新業態だ。

2016年3月31日、東急プラザ銀座にオープンするや、早くもエスキスファンや甘い物好きたちの話題の的に。

成田一世シェフ・パティシエがここで作るのは、できうる限りレストラン「ESqUISSE」そのままの味。

「今の時代、なにかと作り置きされることが多いのですが、作り置きのためのプロセスやそのために取り込まれている添加物など、その全てを除こうと思っています。表現したいのはその対極にあるもの。焼きたて、混ぜたて、作りたて、そこに味の違いがはっきり出るのです」。

作り置きナシで、お皿の上の様々なパーツを同時に最高のコンディションに仕上げるのは簡単なことではない。あらゆるバランスを見ながら、溶けないように、冷めないように。素早くも細心の注意を払い、数人がかりで一皿に取り組む。カウンターの向こうの完璧なチームプレーにより、正真正銘の出来立ての幸せが生み出されていく。

コースは季節替わりの3種のアシェットデセールから1~3種、好みのコンビネーションで組み合わせることができる。プレデセールとミニャルディーズ(小菓子)がついてミニマムチャージ3,500円(税込)~。

プレデセールも季節で変わり、今なら写真の「コヤーブパッション」。

グアバとフランボワーズのジュレに、パッション風味のバニラクリーム、パッションの種入りジュース、ザクロの実のジュレを重ねたみずみずしい一口で、デセールコースはスタートする。

3種のアシェットデセールは、“シュークル”、“スフレ”に、季節替わりの一皿“セゾン”というラインナップ。

まず息をのむのは、その美しさ。
「視覚も味覚も全て満たすのがガストロノミー。お皿もすべてオリジナルデザインで作りました。ヨーロッパのコピーでなく、自分のオリジナルで表現して、楽しんでもらって初めて“おもてなし”だと思うんです。銀座から世界に発信できる新たなものとしてやっていきたい」と成田シェフ。

この、クレームブリュレを詰めた「シュークル」もしかりで、成田シェフがロブション時代に考案したものだが、いまでは世界のロブションでお馴染みのメニューになっている。
今ならフランボワーズのクレームブリュレにヴァイオレット(スミレ)が添えられ、春の喜びごと味わえる。

(写真は「スフレとフリュイルージュ」)。

成田シェフのデセールは、ひとつひとつ複雑な要素で構成されていて、味わい、口どけ、香り、温度、美しさ……そのすべてを叶える繊細なバランスで成り立っている。

「ファッションの世界で言うならば、ジェケットの丈、バッグのあしらい、小物の色彩など、さまざまな細かいパーツを独自のルールでトータルコーディネートしていく、マヌカンのような感覚。本来は、食べる人を見て、自分のフィルターを通してその人にとってのオートクチュールを作りたいのですけど。ここでお出しするのは季節ごとの一皿を提案する、いわばプレタポルテなデセールです」。

ショーケースには、これまでデパート催事などでしか買えなかったガトーも。伝統菓子に新たなタッチを加え、現代風に蘇らせたスペシャルなスイーツが待っている。

「モンブラン」850円(左、税別)をいただくと、マロンクリームがはらりとほどけ、たちまち栗のホクホクしたあの香りに包まれた。

「マロンクリームは和菓子のように水分を抑えて仕上げています。焼き栗や天津甘栗もそうですが、水分が少ないとより栗のおいしさが感じられるので」。

その分、栗のフランもひそませてしっとり感もプラス。さくりと崩れる栗粉のメレンゲが香ばしさを、エグランティーヌ(野ばら)のソースが華やぎまでも添えていく。

「パピヨット」800円(右)は、マスカルポーネクリームのまろみに、生地からじゅわりと溢れるコーヒーシロップがビターでティラミスのような味わい。大切なプレゼントのようなチョコレートのラッピングに心が踊る。

「チョコレートは上質のものを使っています。中でもこれは粒子の粗いタイプのもの。醤油か味噌かで言ったら、後にちゃんと味わいが残る味噌のようなタイプです」。

無機質な壁に樹齢80年の松の木がしっとりと浮かび上がる店内は、クールでありつつ木の温もりに包まれている。そこに、後ろから見るとしずくのようなフォルムが和む、デンマーク製のドロップチェアや、まばらな高さで吊るされた、H.P.FRANCEの照明。本物のエレガントでありながらかっちりしすぎないで、そこかしこに遊び心が散りばめられている。デセールも空間もここにしかない、粋な世界が広がっていた。



text / chico photo / Kayoko Aoki

SHOP DATA

ESqUISSE CINq エスキス サンク
住所:東京都中央区銀座5-2-1 東急プラザ銀座4F
TEL:03-5537-7477
最寄り駅:銀座、有楽町、日比谷

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