連載 清水美穂子のBread+something good in Tokyo

「サンス エ サンス」で感性を研ぎ澄ませて、目の前の一皿を真剣に味わってみる

サンスエサンスはおいしいサンドイッチが食べられるカフェだ。でも、おいしいサンドイッチが食べられる、世の一般的なカフェと比べたら、空気のありようが少しだけ変わって感じられるかもしれない。

席について、メニューを受け取った時に感じるのは、演奏が始まる直前の劇場のような、ぴんと張りつめた空気だ。店主の菅井悟郎さんが指揮者なら、パンやチーズは演奏者でサンドイッチは静かな音楽だ。あるいは、物語といったほうがいいのかもしれない。店内では誰もが皿の上の物語に夢中になっているから、図書館のように静かなのだ。

たとえば「パルマ産生ハムとグリュイエールチーズのサンドウィッチ(リュスティック)」(1,160円)。バターがパンに、ではなくてハムとチーズの間に挟まっている。この構造はサンスエサンスならでは。

この物語を読み解いてみよう。
低温長時間発酵で小麦の甘さを引きだしたリュスティックが一人目の主役だ。

主役はもう一人いて、それはバターだ。リュスティックにも、バターにも砂糖は入っていないが甘さがある。甘い二人だけの物語なら、食べ終えぬうちに飽きてしまうかもしれない。だから二人の間には生ハムとグリュイエールという、塩味でひと癖ある熟成した役者が割り込んでいるのだ。甘さとしょっぱさを交互に感じ、脳は興奮する。いつまでも食べ続けたくなるほどに。菅井さんはそんな物語をつくる。

4種類ほどあるプレート料理は、サンドイッチにスープやサラダがついて、お箸も用意されている。「本日のパン3種(カルピスバター)」(950円)のパンには、美しくスライスされたバターが乗っている。パンはカンパーニュやリュスティック、食パンやイングリッシュマフィンなどから3種類の日替わりだ。

これは、どのようにして食べたらいいだろう? サンドイッチにして?
答えはノーだ。サンドイッチがおいしいものだったら、最初からそうなっているはず。食べ方に絶対はないけれど、これはどうしてこのようになっているのだろう?と物語を想像してみることは、その一皿をより、味わい深いものにする。

サーブされたらすぐに、バターの乗ったパンを一口、味わう。冷たいバターが口の中でパンと一緒にほどけていく。バターとパンのおいしさが均等に味わえる。パンもおいしいけれど、バターもおいしい。やはりどちらも主役なのだ。どちらかが出過ぎていないから、単純においしさが倍増して感じられる。パンにバターをのせただけなのに、そこには仕掛けがいくつも潜んでいる。バターが乗っていないパンは素のままで、スープやサンドイッチと共に感じてみる。次第にゆるんできたバターの味も感じてみる。そうして物語を最後まで堪能する。

人が何かに一心に気持ちを注いでいる時、そこにあるのは静けさだ。
素材の声を聴いて物語をつくる人と、その物語を読みとろうとする人がいて、静けさがある。サンスエサンスは、静謐、という言葉がぴったりとくるカフェだ。


text&photo / Mihoko Shimizu

SHOP DATA

サンス エ サンス
住所:東京都町田市つくし野1-28-6
最寄り駅:つくし野

ほかにも五感を喜ばせるパンの一皿が愉しめるお店

レフェクトワール

TAKEO KIKUCHIのフラッグシップショップの3階で人気店ル・プチメックが運営するサンドイッチカフェ。セルフサービススタイルでコストパフォーマンスが素晴らしいが、料理は本格レストランのクオリティ。

レフェクトワール
住所:東京都渋谷区神宮前6-25-10 3F
最寄り駅:明治神宮前<原宿>

3&1サンドイッチ

肉料理専門のイタリアンレストラン「トラットリア29」がランチタイムだけ営業している。アンガス牛のステーキやホエー豚のローストポークなどシンプルでボリュームのある肉料理のサンドイッチが絶品。

3&1サンドイッチ
住所: 東京都杉並区西荻北2-2-17
最寄り駅:西荻窪

365日

従来の業態や製法に囚われず、常に時代を見据える革新的な店。ハムなどの素材も厨房で作られているから、小さなサンドイッチでも本格料理の満足感。それにぴたりと合う自然派ワインも紹介してもらえる。

365日
住所:東京都渋谷区富ヶ谷1-6-12 サンハイツ三沢1F
最寄り駅:代々木八幡

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※本記事内の情報は2016年01月22日時点のものです。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
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