ホリデーシーズンを楽しくする伝統的なパンとお菓子【パン連載 Vol.9】

日本でバゲットが一番よく売れるのはクリスマスだ。パーティをしようと思った時に、バゲットも、ローストチキンやローストビーフなどの料理も、クリスマスケーキや焼き菓子も、いっぺんに調達できるお店がある。パン職人の石川芳美さんと菓子職人のロドルフ・ランドゥメンヌさん夫妻の店「ブーランジュリー・パティスリー メゾン・ランドゥメンヌ」だ。二人はフランス・パリを本拠地に10店舗の店を展開していて、フランスのグルメガイドブック「ピュドロ」で「ブーランジュリー・オブ・ザ・イヤー」に選ばれたこともある。

今年オープンした「メゾン・ランドゥメンヌトーキョー」は東京で初めてのクリスマスと新年を迎えるにあたって、シュトレンからガレット・デ・ロワまで、パーティを盛り上げる素敵なアイテムを用意している。

順番に紹介していこう。まず、クリスマスまで一切れずつ食べていく「シュトレン」（2800円）はドイツ伝統の発酵菓子で、中央にマジパンが入っている本格派。自家製酵母を用いたイタリアの発酵菓子「パネトーネ」やスパイスの効いた「パン・デピス」、ジンジャークッキー「サン・ニコラ」（3枚入り680円）もクリスマス気分を高めてくれる。

12月19日～25日はフランスの店で人気ベスト3のクリスマスケーキ「ブッシュ・ド・ノエル」が登場する。定番のチョコレートケーキ「ブッシュ・マーブル・ノワール」、チーズケーキにイチゴを用いた「ブッシュ・フラゴラ」、そしてパリで一番人気、メレンゲ、マロングラッセ、マロンクリームを用いた「ブッシュ・モンブラン」だ。（いずれも6人用3,800円、4人用2,800円）。

1月5日からはエピファニー（公現節）や新年会に欠かせない「ガレット・デ・ロワ」。クレーム・ダマンド（アーモンドクリーム）をフユイタージュ（折込みパイ生地）に包んで焼いたパイで、中に入った小さな陶製の「フェーヴ」に当たった人は王冠を冠り、皆に祝福される。これが場を素敵に盛り上げる。ガレット・デ・ロワは近年、日本のパン屋さんやお菓子屋さんでも見かけるようになったが、パリの店では3万5千台を準備して2週間で売り切るという、1月の風物詩だ。

メゾン・ランドゥメンヌでは伝統的なガレットの他、リンゴのコンポートを入れたものがある。まるで贅沢なアップルパイだ。パリパリ、サクサクとしたクリスピーな食感が際立つのは、生地でバターを包むのではなくバターで生地を包む「フイユタージュ・アンベルセ」を用いるからで、これがひときわ贅沢なのだ。

もうひとつ、見た目は素朴ながらふんわりととろけるたまご色の生地にオレンジピ ールなど爽やかな香りと、あられ糖がアクセントになった「ブリオッシュ・ボードレーズ」がある。これはフランスのなかでもボルドーより南の地方の伝統菓子で、こちらにもフェーヴと王冠が付く。ガレットもブリオッシュも6人用2,200円、4人用1,600円。なんと1人用（480円）もあって、フェーヴをつけてくれるというから、嬉しい。ちなみに今年のフェーヴはディズニーのドルーピーだ。

「寒い冬は温かいものを食べて豊かな気持ちになってほしいので、お召し上がり前に必ず軽く温めて。ガレットはサクサクに、ブリオッシュはフワフワになって、本当のおいしさが味わえます」と芳美さん。子供はリンゴジュース、大人はシードルを合わせるのがいいそう。

そんなふうに、伝統的なものの表面だけではなくて、根のところも深く知るとより楽しい。ちなみにこの店のバゲットは1本180円。パリの人たちみたいに気軽に楽しめるように、という願いがこもっている。これはクリスマスだけにしておくのはもったいない。

text&photo / Mihoko Shimizu