イメージ

【川口葉子カフェ連載Vol.5】小さいけれど確実な幸福がみつかるカフェ/cafe 634

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

カフェライターの第一人者である川口葉子さんの連載「川口葉子の東京カフェクロニクル」。開店から3年以上経ち、地域に愛される存在になったカフェの歴史やエピソードを毎回綴ります。第5回は、銀座の「cafe 634」をご紹介。

Date2015/07/23

[連載] 川口葉子の東京カフェ クロニクル 〜カフェの上にも3年〜

銀座の日常を支えるごはんと、おいしいコーヒーの“小確幸”。覚えておくとなにかと重宝する一軒。

歌舞伎座の裏手に、夢の社員食堂がかたちを成したようなカフェがある。銀座で昼食に困ったり、おいしいコーヒーとスイーツが恋しくなったりしたら、真っ先に思いだしたい一軒だ。

改装してコーヒーのためのフロアを増設した「cafe 634」は、朝から夕方まで、界隈で過ごす人々のさまざまな要求に応えてくれる。

朝9時から始まる、自家製ベーグルにサラダ、副菜、コーヒーの付いたモーニングセット。11時30分から夕方17時30分まで、お昼をうっかり食べ損ねた人にも有難いランチ。季節感あふれるスイーツ。テイクアウト可能なスペシャルティコーヒー。

それらは日常の”小確幸”――村上春樹いわく「小さいけれど確かな幸福」のために、ひとつひとつ時間をかけて手作りされている。

「ここは誕生日に来ていただくようなお店ではないから、毎日でも飽きない味で、なるべく体に負担のかからない、バランスのとれた食事を提供したい」

店主の児玉健太朗さんはそう語る。簡潔で飾らない言葉の底に、東銀座で10年以上愛されてきた実績への静かな矜持があった。

夢の社員食堂と書いたのは、正午から14時頃までは1階のカウンター席も2階のテーブル席もほぼ満席になるにもかかわらず、天井の高い洗練された空間に余裕をもたせて席を配置した造りや、スタッフの過不足のない接客のおかげで、ゆったりした気分で楽しめるから。大きな窓から雲の流れや空の光が見える。

そして何よりも、こうだったらいいな、というメニューが実現されていること。4種類のメインの中からひとつ、6種類の副菜からふたつを選んで、その日の体調や舌が求める内容に添ったカスタマイズができるのだ。

副菜だけを4つ組み合わせて、野菜中心のメニューにすることも可能だ。主食も黒米ごはんと自家製ベーグルが選べて、ごはん党、パン党の両者が満足できる。いずれもスープがついて1,000円というシンプルな価格設定もいい。

主菜は日替わりだが、大人も子どもも楽しめる肉団子は定番。
「しっかりした肉の食べごたえを楽しめるように、塩漬けにした豚塊肉を粗挽きにして、豚ひき肉やドライトマト、バジルと混ぜ合わせて作ります」

児玉さんの言葉通り、ソーセージの中身のようにぎゅっとお肉が詰まった肉団子は、寒い季節であれば白菜のクリーム煮などに、春夏は豆を添えてトマトソースで楽しむ。

スイーツやドリンクにも季節限定メニューが登場して、ああ、そんな時季なのだなと気づかせてくれる。たとえば夏にテーブルを彩るのは、青梅を漬け込んで梅シロップを作り、ソーダで割った爽やかな梅ソーダ。みずみずしい桃のタルト。

食後のコーヒーで幸せになれるお店はとても貴重だ。建物の建て替えによる休業中、児玉さんは自宅の近い大森に1年間という期間限定でコーヒースタンドを出店し、高品質なコーヒーとエスプレッソへの探究を深めていた。

「おいしいコーヒーがあるだけで、一日が良いものになると気がついたんです。そして、コーヒーは一日のどんなシーンでも楽しめる。通勤途中でも、友だちと会話するときも、ひとりで読書するときも」

cafe 634では鹿児島の名店「ヴォアラ珈琲」から3、4種類のシングルオリジンコーヒーを取り寄せており、お客は注文するときにフレンチプレス、またはハンドドリップのいずれかの抽出方法を選べる。マルゾッコのエスプレッソマシンで抽出するドリンクには、「パオコーヒー」の豆を使用する。

この日、私は昼食後にレモンパウンドケーキとコーヒーを追加注文して、余白を贅沢にとったカフェならではの静かな活気に満ちた空気を満喫した。

ひとりで静かに食事を楽しんでいる女性もいれば、同僚とテーブルを囲んでいる男性たちもいるが、それぞれがなんとはなしに機嫌の良さそうな表情を浮かべている。頬張ったレモンパウンドケーキが好みの味で、コーヒーとも相性がよく、私もやっぱり機嫌がいい。

そう、Cafe 634はこんなふうに“小確幸”に出会えるカフェなのだ。

HISTORY

2004/11 もと印刷工房だった建物の1階を改装して、cafe 634をオープン。
2005/2/14 来店したお客さまに小さなお菓子をプレゼント。以降、毎年続けている。
2008/秋 千葉の「三自楽農園」と契約し、旬の採れたての野菜を直送してもらうようになる。
2012/05 建物の建て替えのため、1年半の休業期間に入る。
2012/08 休業期間中に、住まいのある大田区大森に「COFFEE STAND MUSASHI」を1年間の期間限定でオープン。エスプレッソマシンを導入して本格的にコーヒーに注力しはじめる。
(~2013/07)
2013/12 cafe 634リニューアルオープン。
店舗面積を拡張し、1階をコーヒーを主体としたスペース、2階を食事中心のスペースとする。
コーヒーセミナー、ベーグル教室、ジャズライブなどを月に約1回のペース開催。
2013/12 店内禁煙化。
2014/06 夏期のみ、週末に「三自楽農園」の野菜をカフェで販売開始。
2015/09 COFFEE STAND MUSASHIの再開を望む人々の声に応えて、姉妹店「PERCH COFFEE」をオープン予定。

SHOP DATA

Cafe 634
住所:東京都中央区銀座3-12-7
最寄り駅:東銀座

まだある!川口葉子おすすめの銀座カフェ

フランス・パリに本店を持つベーカリーカフェ。オフホワイトのスタイリッシュな空間のショーケースに、オーナーのローズさんのレシピによる焼き菓子やデリが並んでいる。新鮮な野菜をふんだんに用いて、シンプルながら、個性のスパイスがきらりと光るのが魅力。

ローズベーカリー銀座
住所:東京都中央区銀座6-9-5 ギンザコマツ西館 7F
最寄り駅:銀座

四丁目交差点にほど近いビルの2階に、クラシカルで美しい佇まいの喫茶店がある。自慢は炭火を使った自家焙煎コーヒーと、工房で作るケーキ。テーブル席も多数用意されているが、長いカウンター席に座っても、礼儀正しくあたたかな接客のおかげで緊張することなく過ごせる。

炭火焙煎珈琲.凛
住所:東京都中央区銀座4-4-5 銀座ハタビル2F
最寄り駅:銀座

仕事の打ち合わせにも読書にもふさわしい、大人が安心して過ごすせる端正なコーヒー専門店。自家焙煎の「やなか珈琲」が手がけており、焙煎したてのコーヒーがポットでたっぷり2杯分サーブされる。産地や農園を記した小さなカードが添えられるのが素敵な演出。

三十間
住所:東京都中央区銀座3-8-12 大広朝日ビル B1F
最寄り駅:東銀座

BACK NUMBER

同じエリアの人気記事

川口葉子

川口葉子さん

東京在住

プロフィール

喫茶時間を愛するライター。カフェについての著書多数。様々なメディアでカフェやコーヒー特集の監修、執筆を手がける。

この記事もおすすめ

あとで見る、とっておく

クリップクリップする

共有する・伝える