連載 スイーツライターchicoの東京お菓子めぐり

走り続けるパティシエの次なる挑戦! 発酵を味わうオリジナルチョコレート。

「モンサンクレール」のオープンから17年。いまや12ブランドを束ね、ずっとパワフルに走り続けている辻口博啓シェフ。この5月に六本木から銀座へと本店を移した「ル ショコラ ドゥ アッシュ」でも新しい試みをはじめていた。カカオティエ(カカオ豆からチョコレートを作る職人)とタッグを組んで作りあげるチョコレートだ。

思い描くこと数年、本格的にスタートしたのは昨年あたりからだそう。カカオ豆の発酵からロースト、コンチング(練り上げ)などの工程に携わり、それぞれのカカオや作りたい味に合わせて、カカオティエとコミュニケーションをとりながら調整、オリジナルのチョコレートを素材から作っている。

とくれば、わき上がるのは、あれ? 自分自身で豆から作っていくBean to barではなくて? というギモン。

「ゆくゆくはBean to barをやりたいですけどね、まずはこれを確立してから」と辻口シェフ。カカオティエに関わってカカオを知るほどに、中途半端では本来のおいしさを表現できないとわかったという。

「生産者やカカオティエはちゃんと熟知しているんですよね。湿度を感じて熟成、発酵を考えながら、現地の菌が醸し出すそこにしかないカカオのおいしさ、豆の個性を引き出すことを」。

だからBean to barをやる前に、このスタンスで熟成や発酵の技術を熟知したい、というわけだ。

「そういう熟成・発酵で引き出されるカカオの骨格や旨味はワインと同じ感覚とわかってきて。ワインみたいに熟成の個性を楽しむ、発酵食品としてのカカオの魅力を広めていきたい」。

そんな発酵の楽しみをどっぷり味わうなら、タブレットのシリーズ(1,850円〜)、それからペルー産ホワイトカカオを使ったボンボンショコラ、「カカオブランドゥリリュジョン」(1個1,200円)を。どちらもオリジナルのチョコレートで作られる、銀座だけの新作だ。

フェーヴ(豆)が白いホワイトカカオは、カカオの原種に限りなく近く、それだけに希少。まさに『リリュジョン(L’illusion)=幻』のカカオ豆。そっと舌にのせると、力強さのなかに木の実の風味がふわりとたちこめる。

それに、濃密なキャラメルとバニラと香りがリッチ! と思いきや、 「バニラもキャラメルも使っていません。これが発酵の醸す香り」というから驚いた。そもそも、チョコレートにするのに使うのは、発酵させたカカオ豆と砂糖、少しのレシチン(大豆由来の乳化剤)だけ。

「カカオの発酵・熟成の香りが生む、本来の香りを感じられるように」と、カカオバターの追油もしないし、ボンボンショコラにするにもほかの香りを加えない。カカオだけであの香りとは……発酵って偉大!

タブレットにはカカオをストレートに味わうもののほか、さまざまに組み合わせたフレーバーを楽しむタイプも。そちらは抹茶玄米、柚子、ほうじ茶そば、桜葉巻、よもぎ抹茶、南の島、さらには納豆(!)の7種類。

シェフのモットー、「和をもって世界を制す」的ラインナップのこのシリーズは、「今の僕の考えが世界でどれだけ通用するか試したくて」、今まさにNYで審査される「インターナショナルチョコレートアワード アメリカ大会」に出品され、最終選考に残っている。結果は6月に出るそうで、そちらも待ち遠しい。

かじるとまずチョコレートの力強い香りが溢れ、舌にゆっくり溶かしていくと、それぞれのフレーバーがぱっとわきたつ。素材の味わいや香りを最大限に引き出す素材使いはパティシエならでは。たとえば「柚子」なら、香りと甘みのある皮の黄色いところだけでなく、苦みのある白い部分もバランスよく混ぜこむ。そうすることで、味わいがぐっと深まり、柚子そのものの香りが弾けるよう!

「桜葉巻」は、桜のチップを燻して香り付けしたスモーキーな1枚。バシッとビターでほのかな酸味のカカオに続いて、燻香がふわり、心地よく鼻を抜けていく。これに使うチョコレートだけは、よりスモークが入りやすいようにと、ほかより長く72時間コンチングして粒子をかなり細かくしているそう。作りたい味によって工程を変える、オリジナルチョコレートだからたどり着ける味わいがここにある。

ところでこのタブレット、シックな缶に納まっているので、フレッシュな香りが閉じ込められているうえ割れにくい。これまでのタブレットでは伝わりづらかった(?)高級感も備わっていて、手みやげにも好評だ。

銀座限定ではないけれど、パリの「サロン・デュ・ショコラ」で発表される、ショコラ愛好会、C.C.C(クラブ・デ・クロクール・ド・ショコラ)の品評会受賞作も並ぶ。

写真の下の箱は、2013年に5タブレット+★を受賞した「C.C.C.ナノショコラ」(1箱2,300円)。旨味を強く感じられるように、舌の細胞にいき渡るようカカオニブをナノ化。日本の最先端技術とシェフのセンスから生まれた新しいおいしさは、世界を驚かせた。

上に並んでいるのは2014年に金賞を受賞した「C.C.C. DNAショコラ」(1箱1,900円)。前年のナノ化カカオニブにさらに昆布だしを合わせ、旨味を相乗。赤紫蘇やゴマおはぎなど、和のフレーバー展開も楽しい!

そういえばこのナノショコラもそうだけど、2003年の製菓用米粉「リ・ファリーヌ」や、食べられるコーヒー粉の「カフェリーヌ」など、ずっと前から辻口シェフは、さまざまなメーカーと一緒に日本のテクノロジーを駆使して新しい素材を作っていた。「もっとこうできないか?」と、食感や欲しいニュアンスをとことん追求すると素材に行き着く。

「そうでないと驚きのある世界はつくれないからね」、そう話す彼のオリジナルチョコレートのスピリットは、bean to barブームのずっと前からあったように思う。

お店の雰囲気もちょっと変わった。「空間にも素材への思いやカカオティエとの関わりを表現したくて」と辻口シェフ。六本木のころからと同じく高級感があるのだけど、レンガや真鍮、淡いオレンジの光が素材感や温もりを醸していて、それがなんとも心地いい。


奥にはどこかNYみたいな雰囲気漂う5席のカウンターも。店頭に並ぶアイテムがいただけるほか、イートインだけのメニューも待っている。


銀座限定の「タルトショコラ」(800円)もイートインだけの幸せ。というのも、注文してから焼きあげたアツアツを食べさせてくれるのだ。さくっとしたタルトにナイフを入れると、艶めくチョコレートがとろ〜り。フォンダンショコラにも似ているけど、正体はカカオ分80%のショコラをスフレにして焼いたもの。

なるほど、たしかに濃厚な味わいなのに、口あたりはエアリー。焼きチョコの香ばしさに、とろりと舌にまとわる濃密ショコラ、チョコレート同士がおりなすコントラストがたまらない!

これからの季節なら、ひんやりしたチョコレートドリンク、「ショコラフロワ」(1,200円)もいい。使うチョコレートはヴァローナのピュアカライブ。

とろりと滑らかな口あたりとしつこさのない甘さに、発酵のほのかな酸味と旨味がじわりとおしよせる。力強さと程よいキレ、そして独特の風味がクセになり、するすると飲んでしまった。

13年目を迎え、新しいスタートを切った「ル ショコラ ドゥ アッシュ」。 「日本はもとより世界から人が集まるこの銀座で、発酵・熟成を解き明かしながら、ショコラを発信していきたい」。生産地とカカオティエ、食べ手をつなぐ挑戦は始まったばかり。

「次はエクアドルにオーガニックショコラの森を見に行くんです」、そう話す辻口シェフはなんとも楽しそうだった。


text / chico photo / Kayoko Aoki

SHOP DATA

ル ショコラ ドゥ アッシュ 銀座本店
住所:東京都中央区銀座6-7-6 銀座細野ビル1F
最寄り駅:銀座

銀座エリアの注目スイーツショップ

カッセル氏といえばルレ・デセール(菓子職人の国際協会)会長も務める、フランスを代表するパティシエ・ショコラティエ。“バニラの達人”とも呼ばれる彼の「ミルフイユ・ヴァニーユ」は、クリームに最高級タヒチ産バニラビーンズがたっぷり!

フレデリック・カッセル 三越銀座店
住所:東京都中央区銀座4-6-16 銀座三越B2
最寄り駅:銀座

ベルギーのレストランシェフとショコラティエのコラボから生まれた、デザートをひと粒にギュッと閉じ込めたような新感覚チョコレート。ホワイトチョコレート+パッションフルーツ+バジルなどユニークな22種のフレーバーは“Chefチョコ”ならでは。柚子わさびなど日本をイメージした品も。

BbyB.
住所:東京都中央区銀座3-4-5
最寄り駅:銀座

日本に本格フランス菓子を伝えた名店、「ルコント」が2013年に復活。「万事、フランス流に」の信念を守り、フルーツケーキやスウリー(子ネズミ型シュー)など、伝統のお菓子を受け継いでいる。季節のクグロフは銀座だけのお楽しみ。

ルコント 銀座店
住所:東京都中央区銀座7-8-6
最寄り駅:銀座

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※本記事内の情報は2015年05月28日時点のものです。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
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