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【川口葉子カフェ連載 Vol.3】池袋モンパルナスの記憶と、公園の緑を愛でる場所/ZOZOI

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カフェライターの第一人者である川口葉子さんの連載「川口葉子の東京カフェクロニクル」。開店から3年以上経ち、地域に愛される存在になったカフェの歴史やエピソードを毎回綴ります。第3回は、池袋の「ZOZOI」をご紹介。

Date2015/05/22

[連載] 川口葉子の東京カフェ クロニクル 〜カフェの上にも3年〜

目の前にひろがる公園の緑を感じながら、オーナーが実家の庭から摘んでくるハーブを添えたメニューを楽しむ。

ファッションビルやサブカルチャー系ショップが次々に誕生し、街のイメージが急変している池袋。

魅力的なカフェも増えており、散策するエリアを間違わなければ、店主の世界観が自然に伝わってくるようなカフェたちに遭遇することができる。
たとえば池袋駅西口エリアなら、西池袋公園を囲む一帯がいい。

公園で楽しげにさえずる小鳥を思わせるカフェ、ZOZOI。

店主の皆川まり子さんが自らの手でペンキを塗ったりタイルを貼ったりして、限られた予算の中で気負いなくお店をスタートさせたのは、1999年秋のことだった。

開店のきっかけは、「散歩中にたまたまこのビルの素敵なオーナーと立ち話をして、フランス話で盛り上がり、『向かいが公園なので、ここにカフェなんかあったらいいですね』と軽い気持ちで言ったら、後日『1階が空いたので、どうぞ』と言われてしまったんです」。

美大出身の皆川さんは、パリの専門学校で1年間、室内装飾を学んだ経験を持っている。ビルのオーナーは大学でアラビア語を教える先生で、パリと池袋を往復する生活。

この界隈には戦前まで若い芸術家たちのアトリエ村が点在し、池袋モンパルナスと呼ばれたこともパリのカフェ文化に通じるとして、二人の会話が盛りあがったそうだ。

数回の模様替えを経て、店内には今、心地よく落ちついた気配が漂っている。

土曜と日曜には2階も開かれるが、1階とは印象の異なるこのフロアがまた、ZOZOIならではの魅力にあふれているのだ。いうなれば1階は東京の街角、2階はヨーロッパの寒い国の室内である。

階段をのぼり、窓際のカウンターの低い椅子に腰をおろすと、視界は樹々の梢でいっぱいになる。自分の頭の位置を低くすればするほど、見上げる空と緑の輝きの分量が増える。

「春、花が満開の時期には、窓の外が真っ白になります」と皆川さん。幸せなことに、公園の樹々は桜なのだ。

美しい緑色は室内にもふんだんにある。ウィリアム・モリスの植物模様の壁紙のグリーン。あちこちの小さな花瓶からこぼれるみずみずしい葉っぱと花々。皆川さんが群馬・桐生の実家の庭から摘んでくるものだ。

料理や飲みものの中にも、桐生の庭の恵みがあふれている。最近ではたっぷり摘んだローズマリーやカモミール、ミントなどを組み合わせて、ハーブティーもブレンドしている。

これからの季節におすすめしたいのが、イチゴやレモンや黄金柑など、季節の果実を漬けた自家製のビネガードリンク。お湯割りも選べるが、ぜひ炭酸割りでどうぞ。さわやかで透明感のある甘酸っぱさが暑さを払ってくれる。

そして、炭酸の泡と氷が戯れるグラスを透かして窓辺の緑を眺めると世界がどんなふうに映るか、幼年時代にかえって発見することができるだろう。

この日、私が選んだスイーツは「キャラメル林檎チーズケーキ修道院風」。キャラメリゼした紅玉林檎がチーズケーキの中に練りこまれており、カルダモンとシナモンがほのかに香る名作だ。

修道院風というネーミングは、フランスの修道院で作られる薬草酒シャルトリューズを用いていることに由来する。

ZOZOIが15年以上にわたって愛されてきた秘訣はなんですか。
そう訊ねると、皆川さんは少し困った顔をして、「いつの間にか月日が流れてしまって」と笑った。地道にまじめに手を動かしながら、たくさんの美しいもの、愉快なことを愛してきた日々。

「自分が年齢を重ねるにつれて、お店も歳をとってきます。以前は若いお客さまが中心でしたが、最近は年齢層が幅広くなりました」と、皆川さん。

「カフェの仕事は毎日、同じことを繰り返していく地味なものですが、ときどきご褒美のように、大好きなアーティストが来店してくれたり、学生時代に常連客だった人が結婚して、お子さんを抱いて再訪してくれたりする。そんなささやかな嬉しさを積み重ねているうちに、いつの間にか15年経っていました」

お客さまには、アーティストやものづくりに関わる人々も少なくない。
「住みたい街ランキング」のベスト3入りした池袋には、新時代の池袋モンパルナスが形成されつつあるのかもしれない。

ZOZOIの窓辺で緑に包まれていると、そんな想像がかきたてられるのだ。


text&photo / Yoko Kawaguchi

HISTORY

1999/09 限られた予算の中で「屋台を開くような気持ちで」、気負いなくカフェをオープン。店主の皆川まり子さんは大工仕事が好きで、自ら店内にタイルを貼ったり、ペンキを塗ったりした。
店名はフランス・ギャルが歌った幻の名盤「ZOZOI」から。
2001/12 2階フロアをオープン。窓辺のカウンターや大きなテーブルは家具職人に依頼して作ってもらった。
2002 2階を利用してギャラリー展示、講座や寄席、ライブなどのイベントがおこなわれるようになる。
2008 「Mon Trésor」のブランド名で、上質なコットンやリネン、ウール、シルクなどのナチュラルファブリックを用いた、大人と子どものための日常着作りを開始。
2009/09 10周年記念。「種をまく人」になりたいと、来店したお客さまにハーブの種をプレゼント。

SHOP DATA

ZOZOI(ゾゾイ)
住所:東京都豊島区西池袋3-22-6
最寄り駅:池袋

まだある!川口葉子が選ぶ池袋のおすすめカフェ

西池袋公園をめぐる細道に、青色の日よけと黒板が目印。女性二人の共同経営で、それぞれパン作り、焼き菓子作りを担当している。キッシュとパンのプレート、パンを添えた季節の素材のスープなど、安心して楽しめる素直なおいしさ。

CAFE TERVE!(カフェ テルヴェ)
住所:東京都豊島区西池袋3-33-24 アポロマンション1F
最寄り駅:池袋

2014年秋に誕生した新世代コーヒーショップ。OBSCURA COFFEE ROASTERSのスペシャルティコーヒーと、パーラー江古田が毎日このために焼きあげる全粒粉パンを使ったトーストは、喫茶店の永遠のスタンダードへのリスペクト。2階にはゆったりしたソファ席もある。

COFFEE VALLEY(コーヒーバレー)
住所:東京都豊島区南池袋2-26-3
最寄り駅:池袋

東口の定番カフェとして親しまれてきたpauseが2階に開いた姉妹店には、想像力をかきたてるアート雑貨や古い玩具が並んでいる。美術室に置かれていたような大テーブルで、パティシェの作るスイーツと、ポットでサーブされる紅茶をどうぞ。

cafe plateaux(カフェプラトー)
住所:東京都豊島区南池袋2-14-12 山口ビル2F
最寄り駅:池袋

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川口葉子

川口葉子さん

東京在住

プロフィール

喫茶時間を愛するライター。カフェについての著書多数。様々なメディアでカフェやコーヒー特集の監修、執筆を手がける。

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