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【川口葉子カフェ連載 Vol.1】夕暮れどき、キャンドルの炎がゆらめく場所 /zarigani cafe

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カフェライターの第一人者である川口葉子さんの連載「川口葉子の東京カフェクロニクル」。開店から3年以上経ち、地域に愛される存在になったカフェの歴史やエピソードを毎回綴ります。第1回は、渋谷の人気店「ザリガニカフェ」をご紹介。

Date2015/03/23

誰と行く
定番
エリア
渋谷

[連載] 川口葉子の東京カフェ クロニクル 〜カフェの上にも3年〜

2000年9月、“遊び場”をコンセプトに誕生。「子どものころ、ザリガニを釣って遊びましたよね?」

太陽が傾きかけたころ、渋谷にいた私は、ザリガニカフェでひとときを過ごすことを思いついた。夕暮れの気配が濃くなった店内をスタッフが回り、キャンドルにひとつずつ灯をともしていく光景を眺めることができるから。

カフェはゆるやかな坂の上にある。東急ハンズ向かいの細道には、いかにも路地裏らしいお店が連なっているが、神南小学校の横の坂をのぼるころには、ふっと静かな空気に変わる。

マンションの生垣に隠れて見つけにくい入口。その赤い引き戸を開けると、全身が音楽に包まれる。席についてアップルパイとコーヒーを注文している間に、良いタイミングでキャンドルがともされ始めた。

空間を満たす光の種類の豊かさと美しさに、いつも小さく感嘆する。天井のガラス製のシャンデリアが反射する硬質な光。床のランプが壁に投げかける複雑な光の輪。そこかしこでゆらめくキャンドルの熱い炎。

ザリガニカフェは今年で15年目を迎える。この夕方、久しぶりにオーナーの石川さんはじめさんにお会いした。

渋谷でカフェがこれだけ長く愛されつづけるというのは稀なことですが、秘訣はなんでしょうか。そう訊ねると、石川さんは「やりすぎないこと」と笑った。

「オレはこれくらいの器だなと思って、あまり多店舗展開に力を入れず、採算がとれているから良しとしているうちに、いつの間にか15年経ってしまった」

石川さんには長年、アパレルで活躍してきた経験がある。飲食業界よりもさらに変化の速いファッションの世界。 「若いころは仕事に熱中していたが、しだいに流れや数字を追いかけ続けるのがしんどくなって、もういいか、と思ったんです」

そんなとき、カフェはゆるく自由な世界として石川さんの視界に浮上したのだった。背の高い樹々に囲まれた古いマンションに出会って、一階の広々とした一室を借りた。カフェの具体的な空間づくりは、店長をつとめる神田題輔さんに任せることにした。

「僕の許容範囲であれば、若い子たちを信頼して、やりたいことをやらせてあげようと思った。僕の仕事は毎朝来てスタッフの空気を確認すること、設備を整えること、問題が起きた時に責任をとること」

そうして、独特の魅力を持つカフェが作られてきたのだった。余白をたっぷりとってソファを配した空間。オーソドックスなメニューにひと工夫を加えた、しっかりとボリュームのある料理やスイーツ。

私が注文したアップルパイは、開店当時から人気の一皿だ。たっぷりのせられたアイスクリームが、パイの熱で少しずつ溶けだしていくのを愛でながらいただく。これは15年目も変わらない楽しみ。

7年目から店長をつとめているのは清水尚子さん。おもしろいことに、二人の店長のベクトルは真逆だと石川さんは分析する。独自の美意識を持つ神田さんは非日常性にこだわったが、清水さんはカフェが日常に定着することを願い、日々の仕事を手抜きせずにおこなうことを大切にしている。

日常をみずみずしく彩る店内の植物たち。清水さんは南青山のJARDINS des FLEURSが開くフラワーレッスンでアレンジメントを覚え、窓辺の大テーブルのガラスの花器に自然なすがたで季節の花をいける。葉ものや枝ものが好きなのだという。光を受ける緑の濃淡。

ザリガニカフェの根底にはビートルズの名曲『フール・オン・ザ・ヒル』が流れている、と石川さんは語った。ひとり丘の上に立って、回転する地球の上で人々が忙しげに動き回るのを眺めている“愚か者”。

「入口の扉をストロベリー・レッドに塗ったのは『ストロベリー・フィールズ・フォーエバー』にちなんでいるんです」

ストロベリー・フィールズはジョン・レノンが子ども時代に近くで遊んだ孤児院の名前だとされている。

そう、私たちはいつでも、幼いころの遊び場のような場所を持っていたいのだ。ひょっとしたらキャンドルの炎が小さくなって消える前に、そのかけらを見つけられるかもしれない。


<メニュー>
人気のハニーグリルドチキン 1188円(写真7枚目)
定番のアップルパイ アイスクリームのせ 810円(写真8枚目)


text&photo / Yoko Kawaguchi

HISTORY

2000 オーナー、石川はじめさんがカフェ開業のため「目立つ地域の目立たない場所」に絞って物件を探し、現在の建物に出会う。
2000/09 “遊び場”をコンセプトにザリガニカフェをオープン。一度聞いたら忘れない店名は、子どものころ、ザリガニ釣りをして遊んだ記憶から名づけた。
初代店長を神田題輔さんがつとめる。神田さんは偶然にも、石川さんのセレクトショップの常連客だった。
2001/05 同フロアの小さなF号室に、2店舗目となるテイクアウト&プライベートカフェ「SUR」をオープン。(~2004年10月)
2001/09 神田題輔さんが1周年記念パーティー開催。アーティストや華麗なドラァグクイーンたちも参加して大盛況。
2002 非日常の世界を演出するため、たびたび家具のレイアウト変更を行う。シャンデリアを採り入れて、ソファを主体にサロン的な色彩を強めていく。「友だちに対するような神田の接客が、僕にとっては驚きだった。え、お客さんの横に座って話しちゃうの?って(笑)」(石川さん)
2007/03 清水尚子さんが2代目店長となり、定番のメニューをスタッフが安定したクオリティで作れるよう仕組みを整える。店内にキャンドルと植物が増えていく。
2015 開店15周年を迎える。

SHOP DATA

ザリガニカフェ
住所:東京都渋谷区宇田川町6-11 原宿パークマンション 1F
最寄り駅:渋谷

まだある!川口葉子が選ぶ渋谷のおすすめカフェ

音楽誌編集者のオーナーが2000年に公園通りにオープン。確かな目利きでBGMにボサノバやジャズなどをセレクトし、カフェミュージックの発信源となった。2014年に現住所に移転。仕事の打ち合わせにも便利な大人のための一軒。

Cafe Apres-midi(カフェ・アプレミディ)
住所:東京都渋谷区神南1-9-11 5F
最寄り駅:渋谷

落ち着いた喫茶店を理想に描いてスタートし、模索を続けながらオリジナルの美しくも人間くさい世界を構築してきた人気店。広々とした空間に柔らかな自然光が射す公園通り店でも、自慢のスイーツの数々が楽しめる。

カフエマメヒコ公園通り店
住所:東京都渋谷区神南1-20-11 造園会館2F
最寄り駅:渋谷

2015年にブルックリンから上陸したコーヒー店。広いフロアにゆったりしたソファや、電源コンセントが並ぶカウンター、大テーブルなど多彩な席が用意されている。ミルクに負けないエスプレッソの香りと深みが魅力のラテ330円(S)~。

GORILLA COFFEE(ゴリラコーヒー)
住所:東京都渋谷区神南1-20-17 1F・2F
最寄り駅:渋谷

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川口葉子

川口葉子さん

東京在住

プロフィール

喫茶時間を愛するライター。カフェについての著書多数。様々なメディアでカフェやコーヒー特集の監修、執筆を手がける。

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