男一人でスイーツ!
スイーツというと女性に人気があるような気がする。原宿辺りの話題のスイーツ店の行列を見ると、ほぼ女性だ。男性もいるけれど、多くはカップルで女性に連れられてやってきた感をひしひしと感じる。
ただし男でもスイーツが好きな人がいる。私だ。もうすぐ30歳で髭面だけれど、甘いスイーツが大好きなのだ。誘ってくれる女友達もいないので、普段はひっそりとコンビニスイーツを食べて生きながらえてきた。でも、今日は違う。スイーツを外で食べるのだ。
経堂にある「アルルカン」というお店では、スイーツのフルコースを行っている。普通、フルコースといえばフレンチだけれど、このお店ではスイーツのフルコース。前菜もメインも、デザートも、全部デザートなのだ。
フルコースが始まります
一般的なフルコースは前菜から始まる。スイーツのフルコースは「ゼリー」から始まる。いきなり終わりにやってくる食べ物が最初にやってくるのだ。なぜならスイーツのフルコースだからだ。
スイカやメロンなど夏の果物がたくさんのゼリー。さわやかな一品目で、フルコースで考えればスープや前菜の代わりだろう。季節のフルーツが爽やかで暑い日にぴったりと言える。
当たり前だけれど、美味しい。冷たく甘い味は、濃い私の顔を薄くする気がする爽やかさを持ち合わせている。美味しいです、お父さん、とお店の人に言ってしまったけれど、フルコースなので「お父さん」ではなく、「シェフ」が正しかったかもしれない。
一人できているので三脚を二つ使って撮影している。本来、彼女が座るであろう場所に三脚である。お父さんは「なるほどね」と言っていたが、私もこの美味しさに「なるほどね」と返したい。
ゼリーを食べ終わると次のものが運ばれてくる。フルコースなので食べ終わるとシェフ自らが持って来てくれるのだ。あとでも書くが、このフルコースは2100円。安いのにいたれりつくせりなのだ。
白ワインの風味が残ったちょっと大人なムース。口溶けがよくフランボワーズの酸味がいいアクセントになっている。ムースも夏らしいココナッツの香りのするムースで、白桃をそのままソースにしてあるので、モモをまるごと食べているような贅沢な味だ。
美味しすぎて、味の感想がスラスラと出てくる。お父さんは昔ホテルオークラで働いていたそうだ。そこで本格的なフレンチのフルコースを見て、「これデザートでやったら面白いんじゃないか」となり35年以上前に始めたそうだ。
出てしまう貧乏
ソースなどがお皿に残るともったいなくて直接舐めたくなってしまう。きっとフルコースを食べる上流階級ならスマートにパンにつけるのだろうが、美味しくて舐めたくなるのだ。美味しいのが悪いのだ。そういう責任転換をしたい。
続いては「バナナのクリームブリュレ」。キャラメルソースをかけて、甘いブリュレの中に少し苦みが加わり食べやすい。バナナの甘みが優しいのだ。ブリュレなんて2015年になって初めて声に出したと思う。オシャレだ。
こちらのお店は、以前は下北沢と経堂にお店があったそうだ。ただし後継者がいないため、下北沢店は閉店し、経堂だけで営業している。下北沢店には、忌野清志郎をはじめ多くの芸能人が来ていたそうだ。でも、静かに営業できる経堂を残したらしい。
続いてはフルコースで言えば、口直しのシャーベットのような存在にあたる「キッシュ」である。このスイーツのフルコース唯一の甘くない一品だ。そして、30年生きてきて、私は初めてキッシュを食べた。できれば、今キッシュを食べて女性とキッスをしたいけど、一人だ。
8月3日が私の誕生日なので、少し早い自分の誕生日パーティーのつもりでこのお店に来た。パーティーといえば、複数人が集まりワイワイすると思うけれど、私ほどの立派な人間になると一人なのだ。キッシュを食べてキッスをしたい、という30歳はあまりいない。これが立派なのだ、と自分を励ましたい。
これがフルコースでいえば「メイン」にあたるが、メインを前にもうお腹は満たされつつある。私は一人だから勇猛果敢な侍のように食べているが、多くは誰かとくるので、長い人は2時間ほどかけて食べるそうだ。
もう美味しいとしか感想が出てこない。だって美味しいのだ。バナナフランベはクレープ生地の甘みが抑えられておりバナナの甘みが際立つ。レアチーズはもちろんのこと、バニラアイスにはクアントローのレーズン風味がマッチしている。
安すぎるフルコース!
いよいよデザートである。もっともずっとデザートだけれど、考えてみれば、デザートだけで満腹になるのは、子供の夢のようだ。齢に30にして、子供の夢を達成しつつあるのだ。幸せだ。
フルコースのデザートはアイスで終わる。ショウガのぴりりという辛さ。爽やかで夏にふさわしい。ざく切りのショウガも入っていて、夏バテにも効きそうだ。
ずっと甘いのに食感や味にすこしずつ変化があり、飽きないのがすごい。考えられたフルコースなのだ。
このフルコースは季節によって内容が変わる。ショウケースに並んだもので作られたフルコースではなく、このコースのためにお父さん(シェフ)がわざわざ作っている。そのため、「儲けはないよ!」と言っていた。
この品数で値段は「2100円」。安い。分かりやすく安い。一週間前に予約が必要で、1日一組まで。幻のようなフルコースだ。
ちなみにあと2年でやめる、とお父さんは言っていた。急がねばならない。来年の誕生日もこれで祝いたい。今度は一人ではなくて、誰かと。
ライター紹介
1985年福岡生まれ。基本的には運だけで生きているが取材日はだいたい雨になる。2014年より東京農業大学非常勤講師。著書に「妄想彼女」(鉄人社)、「昔のグルメガイドで東京おのぼり観光」(アスペクト)がある。なお、記事の写真は三脚2台使用での完全一人撮影。
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※本記事内の情報は2015年07月30日時点のものです。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
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