「SUIREN スイレン」オーナーのアツシさんとトムの出会いには、ドラマがある。ある日、駐車場で車に弾かれたとおぼしき仔猫を見つけたアツシさん。一目見て、もう息がないだろうと思い、このままにして車にまた轢かれてしまうのは忍びないと、供養してやろうと箱に入れたところ、かすかに仔猫が動いた。虫の息だった仔猫を病院へ運び、仔猫は一命をとりとめた。それがトムだった。
さらっと書くが、これで2時間ドラマいけると思うほど、愛情の詰まったストーリーが二人の間にはある。「未熟児だったので、母猫から育児放棄されたのかもしれない」。頭が小さく、今でも目も耳もあまり良い方ではない。
水を飲むときには、手をお皿に入れて、水面を触り確認しながら飲む。その姿がなんとも愛おしく「いいねえ」を連発してしまう。
これまでネコを飼ったことなかったオーナー、それでも必死で飼い方を勉強し、育て上げた。仔猫の世話は大変で、とくにまだミルクで育てなければいけない時期は、1日に何度も授乳しなければならず、付きっ切りの対応が求められる。そのため、お店に一緒に連れてくるようになったという。
仕込みや調理で忙しい時には、常連のお客さんたちも協力してくれて、給餌を手伝ってくれたという。「みんなに育てられた」トムは、だからだろうか、あまり人を恐れない。常連さんからもワシャワシャされても嫌がらない。本当にいいこだ。
お店の外に出ることもあるトム。この日も、ふらりと10m以内の距離で、お店の前の通りを軽く散歩。取材写真の撮れ高を察してか、サービスのポージング披露。助かります。
仔猫時代の記憶からか、車には注意を払っている様子で、通りかかる人からも「かわいい、いい子だね」と声をかけられる。もしや狙ってやっている? 自分のことかわいいって知っているタイプ?
取材中、「好きに写真撮っててください」と、気さくなオーナーからちょっと留守番を頼まれて二人きりになる時間が…。この状況見逃す手はない。
トムの機嫌を伺いながらそっと抱っこ。小柄だけどまん丸いお腹、腕の中に収まるちょうどいいサイズ感。オス猫なのでちょい筋肉質で程よい肉感、暑苦しいからやめてと言われながら堪能。ああ、夏の思い出。帰ってきたオーナーから「抱っこしていいですよ」と言われて、再び抱っこ(はじめてするかのように振る舞う)。
飲食店なので、毎日丁寧なブラシングは欠かさないとオーナー。後で気づいたが服に毛が全然ついていなかった。ネコ偏愛者としては、毛(お土産)がないのは、ちょっと寂しいというか、物足りないが仕方ない。
トムと戯れ気づくと、1時間も過ごしていた。仕込み中の厨房から、なんだかいい匂いがして来た。そういえば話を聞いている最中、ずっと何かしていたオーナー。聞くと、オムライスのソースづくりだった。3時間グツグツ煮込んだ特製ソースを使ったオムライスは、この店の一番人気のメニューだという。
3時間の仕込みというある種孤独な時間も、もしかしたら傍にトムがいることで、幸せな時間になっているのかもしれない。魔女の宅急便じゃないが、自分からすると、職場に愛ネコがいるという環境は理想そのもの。うらやましい限りである。
「シャラン」。トムの首につけられた鈴の音が響く。聞いたことのない優しい音色が、物静かなトムにあっていると思った。「シャラン」という音に「いるな」と思う。ただそこに「ネコがいる」と思うことだけで、湧いてくる幸せな感情。二人の毎日が想像される。ちょっと蒸し暑い夏の日に、爽やかな気分となったソロ活であった。
石井芳征(ネコ偏愛者/クリエイティブディレクター/Cat’s Whiskers編集長)
SUIREN(スイレン)
電話番号:03-5787-8660
住所:東京都世田谷区上馬4-7-9 クレールメゾン102
最寄り駅:駒沢大学
ライター紹介
ネコ偏愛者・クリエイティブディレクター。ネコを偏愛する5人で「ネコ親戚」と自称し、ネコ新聞やポップアップストアCat’s ISSUEなどで、ネコへの偏愛を普及する活動を行う。
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※本記事内の情報は2017年08月22日時点のものです。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
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