品川区、下神明駅から歩いて10分ほど。線路沿い、高架下、踏切、どこか懐かしい道。住宅街を抜けて「焼きたてパン」ののぼり旗を発見。軒には緑が茂るかわいいお店の外観。パンの焼けた美味しそうな香りに引き寄せられる。
見るからに「これ美味しいに決まってる」パンが並ぶ店内に、こんがり色のネコが寝ていた。看板ネコの「ゆめ」(7才メス)、お店の方からは、「ゆめどん」という愛称で呼ばれている。女子なのに…。
ゆめどんは、店内ではとても大人しく、お客さんになでられても人の出入りが多くなっても、ショーケースの前の定位置でウトウト。
「ゆめどん、散歩行きたいねえ」とお店の人に聞こえるようにつぶやいてみる。ネコの気持ちを装いながら、自分の願望を伝える。よく子供がやる見え透いた手法だが、お店の方が気を利かせてくれて、散歩に連れだしてくれた。ううう、高まるー!
「行くよー」と奥さんがリードを持つ。スッと立ち上がりふわふわと尻尾を振りながらドアの前で待機するゆめどん。散歩への喜びで前のめりになる犬とはまた違った、ネコならではのアンニュイな散歩モード。
リードをつけてお散歩するのは、ゆめどんが道路に飛び出して車の事故にあわないように。以前、野良猫の喧嘩を聞きつけ店を飛び出し、車に巻き込まれたことがあり、ゆめどんも飼い主さんも、車が来るたびに立ち止まって注意を払う。
リードを引くのではなく、マイペースなゆめどんに合わせて歩いていくのが散歩の基本スタイル。人がネコにあわせるのだ。お店を出て、「ゆめどん、グリーンランド行こう」と呼びかけても、超マイペース。それでも向かう方向へちゃんと歩きだす。あくまでゆっくり、のそのそと。着いたグリーンランド?!
次に、ゆめどんがよく木登りをするという公園を目指す。時折通りすぎる車の音には警戒しながら、車のニオイは好きなようで、駐車場の車バンパーを入念にクンクン。なかなか目的地の公園にたどり着けない…。
やっと公園に到着。リードを離しても全く逃げようともしない。犬のように走り回ったり、投げたボールを追いかけたり、散歩中にある「はしゃぎよう」は皆無。基本何も起こらないといっていい。
だから少し小走りしただけで、奇跡。「すごい! ゆめどん走った」となる。些細な事に幸せを感じるメンタリティ。ネコとの散歩は、忍耐力と幸せを拡大解釈できる能力を身につけるにはうってつけである。
マンチカンやスコティッシュの血が入っているからか、手足が短めなところが可愛らしいバランス。名前の由来が、とても素敵なお話だったのでご紹介。
もともとネコが大好きだったお店のご夫婦の飼っていたネコが2年前17歳で亡くなった。その後間もなく、夫婦そろって同じ日にネコを保護する夢を見たそうだ。
そしてその翌日、知人がネコの引き取り手を探しているという話が舞い込んだ。
「もともとは別の名前があったんですけど、引き取るときに新しく名付けていいよ、と言われて。家の人(旦那さん)が相談せずに“ゆめちゃん”と言ったんです。私も頭の中で“ゆめ”だと思っていたから、偶然とは思えなくて」と奥さんは語った。「きっと亡くなったネコが代わりの子を見つけてくれたんだと思います。」
ネコには霊感があるとか、噂には聞くけれど、こんなに運命的な出会いは聞いたことがなかったので驚き、心を打たれた。
さらに、お店のイートインスペースでパンをいただいたら、その美味しさにまた感動。お店で食べる場合は、並んでいるパンをオーブンで温めて出してくれるので焼きたてが食べられる。
スープや、お惣菜パンや飲み物も充実しているので、近くに住んでいたら毎日通いたいくらいだ。季節限定の商品もあったり、一つひとつ凝ったメニューと並ぶパンの種類の多さにあれもこれもと食べてみたくなる。
美味しいパンと、心地よい天気、気ままな散歩、生まれ変わったらここのネコになりたいと思うほど、幸せを味わえたソロ活だった。
石井芳征(ネコ偏愛者/クリエイティブディレクター/Cat’s Whiskers編集長)
picnics*
電話 03-5740-8410
住所 東京都品川区西品川1-9-1
最寄り駅 下神明
ライター紹介
ネコ偏愛者・クリエイティブディレクター。ネコを偏愛する5人で「ネコ親戚」と自称し、ネコ新聞やポップアップストアCat’s ISSUEなどで、ネコへの偏愛を普及する活動を行う。
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※本記事内の情報は2016年05月21日時点のものです。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
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