夏になると「今度飲みましょう!」が「今度ビアガーデン行きましょう!」に取って代わられる。季節が限定されていて具体的なため、実現されやすいようにも思う。私も夏になるとこの一言を使いがちなのだが、言うたびに小さな違和感を覚える。……ビアガーデン、そんなに行きたいか? ビールが好きならばわかる。けれど、私はビールよりも日本酒のほうがずっと好きだ。
よく考えてみたら、ビアガーデンよりも古今東西の日本酒を味わえる店に行くほうがずっと嬉しい。なのに、季節が夏であるというだけで、「今度ビアガーデン行きましょう!」と言ってしまう。たぶん、(近いうち、つまり夏の間にあなたと飲みたいと思っていますよ、社交辞令ではありませんよ)というメッセージを伝えたいがために、ビアガーデンをダシに使っていたのだと思う。「今度ビアガーデン行きましょう!」に感じる小さな違和感は、ビアガーデンそのものは本当はどうでもいいのに、つい口をついて出ることへの違和感なのだろう。夏という季節がそうさせるのだ。
実際、過去に何度かビアガーデンでの飲み会には行ったことがあるはずなのに、そのときの記憶があまりない。目の前に出された生ビールをなんとなく飲んで、近くにあった大皿のポテトをもそもそとほおばるだけで終わる。“ビア”の“ガーデン”をまるで満喫できていない。外のガヤガヤのせいでよく聞こえない話を何度も聞き返すのが面倒くさくなり、聞こえているふりをして相槌を打つ。こちらから喋るときは、やはり何度も聞き返されるので大声で喋り、帰る頃には喉が少し痛くなっている。
私の中のビアガーデンの記憶はこんな感じである。もう少し、ビアガーデンのことを知りたい。この距離感を縮めたい。大勢で飲み会をする目的でビアガーデンに行くのではなく、ビアガーデンに行く目的でビアガーデンに行きたい。
ところが、そうは問屋が卸さなかった。ビアガーデンの予約がことごとく取れないのだ。人気で予約が埋まっているという話ではない。二名様からの店ばかりで、一人客での予約ができないのである。だが、誰かを誘ってしまったら、目的が「ビアガーデンそのものを楽しむ」から「誰かと飲む」にすり替わってしまう気がする。私は一人でも予約できるビアガーデンを探しに探した。私だってビアガーデンに歩み寄ろうとしているのだから、ビアガーデンのほうも私に歩み寄ってほしい。
ようやく予約が取れたのは、池袋PARCOの屋上でやっている『アロハBBQビアガーデン』。ただし、一人だとバーベキューセットは頼めないらしく、単品での注文になる。つくづく一人でビアガーデンを楽しむのが難しいこんな世の中じゃ、ポイズン。
ちなみに、この日は直前に撮影用のカメラが壊れてしまい、近くの量販店で慌てて新しいカメラを買う羽目にもなった。ビールを飲んで何もかもを水に流す準備は万端である。
注文すると、ほどなくしてビールと食べ物が運ばれてきた。粛々と生ビールを掲げ、一人ビアガーデンを開始する。
生ビールにハワイアンビール、ピニャコラーダなどのカクテルをもくもくと流し込んでいくのは、なかなかどうして気分がよかった。どこでビールを飲んでも同じものだと思っていたのだが、それは大間違いである。ビールとジャガイモの相性がいいように、パスタはワインが似合うように、風を感じながら飲むビールの味は違った。当たり前のことを言っているように見えるかもしれない。だが、今まで私は、大勢の飲み会でのコミュニケーションにあたふたしすぎていたがゆえに、このことに気づいていなかったのである。
風に当たりながら飲むビールは、一人でのビアガーデン予約がなかなか取れなかったことも、カメラが壊れたショックも、すべてを無に帰してくれた。でも、これを書きながらカメラのことをまた思い出してしまったので、近いうちにまたビアガーデンに行こうと思う。
一人ビアガーデンを楽しむ3カ条
その1 一人で予約を取れる店をめげずに探そう
その2 一人なら会話をしなくていいためビアガーデンに集中できる
その3 風を感じながら飲むビールは最高
アロハBBQビアガーデン 池袋PARCO
電話:03-5957-0035 ※12:00~23:00まで受付
住所:東京都豊島区南池袋1-28-2 池袋PARCO本館屋上
ライター紹介
ライター・コラムニスト。著書「ソロ活女子のススメ」(大和書房)がテレビ東京で連続ドラマ化。2024年4月にはシーズン4が開始する。他著書に「ひとりっ子の頭ん中」、「『ぼっち』の歩き方」。テレビ東京「二軒目どうする?」の準レギュラーとして居酒屋の案内人を務める。
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※本記事内の情報は2016年08月28日時点のものです。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
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