団体向けのレジャーをわざわざ一人でこなし、カップル向けのスポットに一人で足を運ぶ、そういうことに喜びを感じる私だが、こんな人生になってしまった原因の一つに、いわゆる「リア充」に対して渦巻く思いがあることは看過できない。ルサンチマン、というやつである。


「リア充」の定義に関しては諸説あるため、ここではいったん「友達が多く、集団行動を好み、ウェーイなどと言っていそうな人たち」としたい。私はウェーイと言えないし、ウェーイと言いたくもないが、ウェーイと言っている彼らがなんとなく世間的には“強者”の位置付けであることは知っている。彼らがしばしば、バーベキューに勤しんでいることも、知っている。ならば私は一人でやろう。一人で火を起こし、一人で肉を食べ、一人でお腹いっぱいになってやる。


こうして、肉のことばかり考えて臨んだ一人バーベキューなのだが、これがいかに甘い考えだったか、肉のことを考えているだけでは、肉にはありつけない、そう思い知ることになったのだった。


朝8時30分。電車に乗っててくてく歩いてバーベキュー場のある公園へ。今回は、昨今のソロ行動需要から開発されたという一人用グリル(「オヒトリサマBBQグリル」)を使うことにした。そんなものが市場に登場するなんて、世はソロ活の時代である。そのため、食材やグリル、炭などの設備はすべて持ち込みのバーベキュー場を予約した。


予約の電話では、

「何名でご利用でしょうか?」

「一人です」

「……あ、え?」

「一人です」

「……あ、あ、はい」

「はい」

というやり取りがあったことも申し添えておく。

▲左手に持っている赤いのが「オヒトリサマBBQグリル」。ほかにも炭やチャッカマン、食材など意外と大荷物

▲左手に持っている赤いのが「オヒトリサマBBQグリル」。ほかにも炭やチャッカマン、食材など意外と大荷物

 まだほかには誰もいないバーベキュー場で、粛々とコンロを組み立てる。

▲まだほかには誰もいないバーベキュー場で、粛々とコンロを組み立てる。

▲まだほかには誰もいないバーベキュー場で、粛々とコンロを組み立てる。

▲組み立てて、炭をセッティング

▲組み立てて、炭をセッティング

 なお、本日の食材は、ホタテと、海老と、マシュマロ、そして霜降り肉と、霜降り肉と、あと、霜降り肉。一人で霜降り肉、3パックたいらげちゃうもんね。野菜なんて一つも買わなかったもんね。

▲この肉は全部ワシのものじゃ!

▲この肉は全部ワシのものじゃ!

 はやる気持ちを抑えて、炭に火をつける。ところが、この火起こしに関する認識が、甘かったのだ。世の中の人が、あまりに軽々とバーベキューに出掛けていくものだから、火なんてすぐにつくものだと思っていた。焼肉屋でテーブル脇のツマミをヒネるくらいの感覚で、火くらいつくだろう、と。

 ……つかない。

▲本当に、つかない。

▲本当に、つかない。

その場で調べて、あらゆる方法を試してみたけど、つかない。

▲え……、どうしよう。

▲え……、どうしよう。

しばらくして、炭の端っこにわずかに火がつき始めるも、どうにもこうにも炭全体に火が行き渡らない。

▲右上の炭が白くなってわずかに赤く燃えている

▲右上の炭が白くなってわずかに赤く燃えている

 もう嫌じゃ。わらわは肉を食べたい。限界じゃ。炭に手をかざすと一応じんわりと熱は持っているから、試しに肉を置いてみた。

▲焼け……るわけない。

▲焼け……るわけない。

 微妙に熱されて半焼けになるものの、そうこうしているうちに、わずかに炭についていた火が消えてしまった……。


 今まで、大きな勘違いをしていた。バーベキューというものは、肉を食べるのはおまけにすぎない。どう考えても火をつけるのがメインであり、クライマックスであり、その日一番の気力と体力を注ぐ工程だったのだ。バーベキューがこんなにつらい催し物だなんて、聞いてない。気付いたら、火起こしを始めてからすでに4時間がたとうとしていた。

▲このままだと肉が食べられない……

▲このままだと肉が食べられない……

 ここで私は、大きな決断をすることになる。これまで当連載で、一人でボウリングをし、一人でボートに乗り、一人でディズニーランドを満喫し、集団行動よりも一人行動がいかに優れているかをとうとうと説いてきた。それなのに。一人ではできないことがある。そう認めざるを得ない事態に直面してしまった。隣のスペースには、1時間ほど前から集まり始め、すでに炭に火がついている齢50半ばくらいの集団。人数は10人ほど、ちなみに、男女半々くらいである。きっと、中年界におけるリア充たちなのだろう。


 もう、限界だった。このまま一人で火をつけられる未来が、私には見えなかった。逡巡すること30分。意を決して、火がつかないことを相談しに行くと、炭を分けてもらえることに。

一人用BBQグリルでひとりバーベキューをやってみた_73519
一人用BBQグリルでひとりバーベキューをやってみた_73520

ついに私は、人と人との助け合いに屈したのだった。しかしである。これはひとえに、私のバーベキュー能力が低かったゆえ。バーベキューが一人行動に不向き、と結論づけたいわけではない。火起こしに慣れさえすれば、一人で好きなものだけを買って焼いて食べることができるし、霜降り肉ばかり食べていても誰も怒らないのだから。私のバーベキューは上手くいかなかったけど、「一人バーベキュー」のことは嫌いにならないで下さい!


 さて、火さえつけばこっちのもの。ここからは、買い込んだ霜降り肉と私だけの時間である。誰にも邪魔させない。

▲美しいお肉だこと

▲美しいお肉だこと

一人用BBQグリルでひとりバーベキューをやってみた_73522
一人用BBQグリルでひとりバーベキューをやってみた_73523
▲海老は偉い。なぜならおいしいから

▲海老は偉い。なぜならおいしいから

▲バーベキューをするならマシュマロを食べなきゃならない気がする

▲バーベキューをするならマシュマロを食べなきゃならない気がする

一つ、分かったことがある。人と行動をともにするよりも、ソロでの活動を好むタイプの人間は、コミュニケーションに重きを置いていないことが多い。人とコミュニケーションを取りながら何かをすることと、一人で自分のペースで何かをすること、これらを天秤にかけた結果、後者のほうに魅力を感じるわけである。そして、バーベキューすらも一人で行いたいのであれば、すべてを一人でまかなえるくらいのバーベキュースキルは必須。


「時間」を「お金」で買う、と言うが、ソロ活は「コミュニケーションからの解放」を「生活スキル」で買う、ということなのだろう。肉や海老をほおばりながら、難しい顔で思案に暮れている私に、たびたび「一人じゃつまらないでしょ? 混ざりなよ~!」と声を掛けてきた隣の集団。おいしい霜降り肉を食べることができて私はこんなに幸せなのに、つまらなくなんてないのに。集団好きは大勢で、一人好きはソロで、互いに奇異な目で見ることなく、ともに暮らせる日が、いつか来るだろうか。火起こしの御礼に未使用の炭をそっと差し出し、バーベキュー場を後にしたのだった。生きろ。

一人BBQをソロで楽しむ3ヵ条

その1 一人なのをいいことに、好きなものばかりを買い込もう

その2 どうしても一人でできないときは、周りに助けを求める勇気を持とう

その3 一人でバーベキューをできるのに充分なスキルを身につけよう


※ちなみに、行ったのは和田堀公園です。最寄駅は西永福駅。

和田堀公園
  • 所在地

    東京都杉並区 大宮一・二丁目、成田東一・二丁目、成田西一丁目、堀ノ内一・二丁目、松ノ木一丁目

  • 最寄駅

    永福町

  • 電話番号

    03-3313-4247

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※本記事内の情報は2015年04月23日時点のものです。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
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