今回訪れたのは、少し前から気になっていた、オムカレーが有名な恵比寿の“東京ロビン”。最近ネコ好きの間でも密かに話題になっている。SNS映えしそうな色硝子と、レトロなフォントの看板が印象的な雰囲気のあるダイニングバーだ。
こちらの看板ネコ、名前は店名と同じく、ロビン。“東京ロビン”の店名にちなんでつけられたのではなく、逆で、元々実家で飼われていた歴代のネコたちがすべて「ロビン」という名で、店名の方がネコの名前に由来しているのだという。
種類はマンチカン。マンチカンというと、短足でネコ界のダックスフンドのイメージだったが、ロビンは手足が長く、一見するとマンチカンとはわからなかった。お店の方に聞くと、性格は「お姫様」タイプ、お客さんにも媚びず、ご飯の時以外は、「にゃーにゃー」あまり鳴くこともないという。
人に媚びない。そう言われると断然燃えてくる。このお姫様(なんとなくレトロな雰囲気のお城に住むお姫様=「あんみつ姫」のイメージ、古いっ)をいかに攻略するか、ゴロゴロ言わせるか胸に秘めつつ、「そうなんですねえ」と平然とした顔で、この特徴的なお店についてさらに伺った。
昭和をコンセプトにしたインテリア。中でも現役で音を鳴らすことができるという蓄音機(1931年イギリス製で、Victorの前身)。初めは、オブジェとして飾るために壊れているものでのいいと考えていたが、お店で実際に音を聞かせてもらい、一目(一聞き)惚れして、やはり音の出るものが欲しくなったそう。
こうしてこのお店で音を奏でている。普段はiphoneを繋いでスピーカー的に使用しているが、ご厚意でレコードをかけてもらった。プツプツという針の振動で生じるノイズ、温かみのある、デジタルにはない質量のある音がお店を包む。
ふと目に入った割れたレコードが入った額縁。1940年の11月11日、そのレコードの録音日が記載されている。聞けば、東京ロビンのオープン日も、11月11日。開店当時、お客さんが、何も言わずに置いてってくれた代物。 「後でその日付の記載に気づいたんですけど」とお店の方。なんというさりげなさ、粋なプレゼントとプレゼントの贈り方だろう。
と改めて書いていても、とても心温まるいい話。だが、現場ではお話を伺いながらも、“ロビン”をいかに攻め落とすかに思考が集中。結論としては、こちらも絶対媚びない、超さりげない態度で距離を詰めることに。姫を姫扱いしない、よく芸能人が自分を特別扱いしない人(なぜか相手は文化人が多い)を好きになっちゃう感じの作戦だ。そう「11月11日」のレコードをプレゼントしてくれた紳士のように。
窓際で置物のように座る “ロビン”に、会話の途中で、「へえマンチカンに見えませんね」と言いながら、あくまでついでにという風情でさらりと撫でる。 蓄音機から流れるノスタルジックな音楽に耳を傾け、「やっぱりアナログ盤はいいなあ、ねっロビン?」と分かった人風に横目で合図を送る。
長いカウンターをこちらに向かって歩いてくるロビン、でも気づかないふりで待ち、「あ、いたの」的素振りで、スマホの画面を見ずにシャッターだけ押して隠し撮り。
「この人なんか違う」と感じたのか、床でごろつき始めたロビン。シメシメ。ここでもさりげなく近づき「しょうがないなお姫様なのに」と戯れに付き合ってあげる。こうした余裕の態度を終始徹底したのだった。
別れ際もスマートに、後ろ髪なんて数ミリも引かれてませんから。忙しいんで帰ります的な態度。「また来るね」の一言を置いて店を後にした。「こないだオムカレー食べれなかったので、また来ました」という言い訳で、近日中、すぐにでも訪れる予定だ。その時も、「あ、ロビンいたの?」と、あくまでも素っ気なく。
石井芳征(ネコ偏愛者/クリエイティブディレクター/Cat’s Whiskers編集長)
ライター紹介
ネコ偏愛者・クリエイティブディレクター。ネコを偏愛する5人で「ネコ親戚」と自称し、ネコ新聞やポップアップストアCat’s ISSUEなどで、ネコへの偏愛を普及する活動を行う。
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※本記事内の情報は2017年05月22日時点のものです。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
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