vol.7 脳内家長が大胆な改名を強行した千代田線。終点まで手は緩めず

土地の歴史や地名の由来に強い愛とこだわりを持つ能町みね子さんが、独自の視点で新たな駅名を考案する本連載。第7回目は、皇居至近を唯一通り、能町さんも「みやびで最適」と高評価な千代田線。しかし各駅の名は最適とはいかず!?あなたの住むあの駅も、毎日通っている会社の最寄り駅も、本当は違う名前がふさわしいのかもしれません!

代々木上原は言ってみれば「武蔵小金井」式の命名方法

千代田線は、「千代田線」という名前が好きです。皇居の住所は千代田区千代田1-1。千代田線は皇居至近の二重橋駅を唯一通る路線なので、みやびで最適ないい名前をつけたものだと思います。


この路線の始点は代々木上原。「清澄白河」とかが嫌いな私としては単純に「上原」でもいい気がするけど、ここは「代々木」と「上原」という二つの対等な町を無理やりくっつけたのではなく、「代々木」という広い町の中にある小さな「上原」という場所、という意味なので、まあ言ってみれば「武蔵小金井」みたいなものです。語呂もいいのでこのままで行きます。


「代々木公園」は悪くないんだけど、どうしても消えた地名「代々木深町」を復活させたい。かつては代々木公園交番は「深町交番」、タクシーには「深町交差点」で通じたらしい。こういう味のある地名をむりやりにでも復活させるのがこの連載のキモですから、押し通します。

初回から続く「表参道」の改名問題。脳内家長は混乱など恐れない!

さて次が問題です。私は連載1回目に銀座線を手がけたときに、表参道駅は南青山駅に変え、表参道はちょっと取っておく、といいました。それをここに生かし、当初私は「明治神宮前」を「表参道」に変えるべきだと思っていたのです。明治神宮前駅のホームは、ちょうど表参道(明治神宮への参道)という道の真下にあるわけだし。


ただ、やはり「表参道」と名乗るなら参道の入口のほうがふさわしいような気がして、これを却下。いろいろ考えた結果、実際に明治神宮につながっているのはJRの原宿駅だし(お正月だけ使われる神社直結のホームがありますよね)、「明治神宮前」とJR原宿駅はつながっているのだから、地下鉄も素直に原宿駅と名乗ったほうがいいんじゃないだろうか、という結論に。原宿という地名は住所から消えてしまっているし……。


ということで、脳内の長い会議の結果、脳内家長の一声により、地下鉄もJR原宿駅に合わせて原宿駅に決定!


で、旧来の表参道駅は南青山駅に。「乃木坂」は坂そのものなのでよし、「赤坂」も旧赤坂区の中心街に近いのでよし。「国会議事堂前」も、国会議事堂の後ろ側なのがやや気になるけど大目に見る。

「野音前」の登場で、いっきに文化の香る駅名が誕生!

「霞ヶ関」は、丸ノ内線の霞ヶ関駅から日比谷線の駅を経て千代田線までまとめて霞ヶ関駅とするのは、範囲が広すぎて抵抗がある。どうせ現実的じゃないことを提案するなら、「野音前」というのはどうだ。この駅は日比谷野音にいちばん近いし、野音もすでに百年近い歴史があります。文化の香る駅名があったっていいでしょう。


「日比谷」はそのまま、「二重橋前」もすばらしいのでそのまま。「大手町」については大きすぎて差別化するのをあきらめたので大手町のまま。


「新御茶ノ水」は、ちょうどいい地名がないけど、そのあたりの広域地名をそのまま取って駿河台でいいんじゃないだろうか。「湯島」、「根津」、「千駄木」はこれ以上細かい地名を漁ることもないので、このままでよし。

江戸の頃から北と南に分かれていたので「北千住」「南千住」はやむなし

西日暮里は「道灌山(どうかんやま)」に変えます。開成高校の背のあたりの台地を示すステキな地名「道灌山」、ぜひ駅名に使いたい。かつては西日暮里からすぐ近くの京成線に「道灌山通駅」があったそうだし(廃止になったらしい)。


「町屋」は町屋でいいし、「北千住」も日比谷線で既出。東西南北をあまり使いたくない私ですが、「北千住」と「南千住」については江戸の頃から川を挟んで北と南に分かれて呼ばれていたのでOK。

綾瀬というキレイな字面にごまかされず、本来の地名を復活!

さて、終点に近づいても「綾瀬」への追及の手を緩めない私。「綾瀬」は、綾瀬川という川にちなんで明治期に名づけられた新地名で、このへんの地名は元々は「伊藤谷(いとや)」か「五兵衛新田」である。ぶっちゃけ、田舎くさい……。しかし、今ではほとんど使われないこの地名を意地でも復活させ、綾瀬というキレイな字面を返上してまで「伊藤谷駅」と変えてみせます。伊藤谷橋という橋は今でも残ってるみたいですし。


最後、おまけみたいな北綾瀬駅、ここの地名は現在は「谷中」というんだけど、これでは台東区谷中と混同しそうだし、江戸期まで遡ると「久右衛門新田」とか「長左衛門新田」みたいな感じで、開墾者の名前のついた、ただの田んぼになってしまう。だいぶ困ったけど、まとめて「谷中新田」という呼び方もあるようなので、往時の田舎風景を思い出しながら「谷中新田」にしましょう。都心からかなり離れているし、そんなのもいいんじゃない?

本記事内の情報に関して

※本記事内の情報は2016年12月07日時点のものです。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
※本記事中の金額表示は、税抜表記のないものはすべて税込です。